明日はどっちだ? by フラム
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彼女は後悔している。ここへ来たことを。
温かい食事がある。きちんとした寝床がある。
その上で、無駄飯食らいと言われてもおかしくない非力な子供であり、所詮は余所者である自分たちのことを誰も彼もが気にしてくれる。
無意味に暴力を振るったり、怒鳴りつけてくる大人はいない。子供同士であっても、年長者が年下の子たちの面倒を自然にみている。
彼女が以前にいた場所とは大違いだ。
ただ、それでも彼女は後悔している。
「ふむ。コリンが言うように、フラムにはそれなり以上にマナの素養があるようじゃな」
「でしょう? 少なくとも、俺みたいな非魔道士の範疇じゃなくて、普通に魔道士として通用すると思いますよ。そうだろ? フラム」
「……は、はい。み、見様見真似ですけど……多少は……マナを扱えます」
フラム。魔族の血を引くと言われる一族の生まれであり、命と諸々を拾われた少女。彼女はとある外道な貴族家の者たちに両親を殺され、自身は実験台として利用されていたのだが、その生活から逃げ出した。
そして、逃避行の道中で、とある魔境の戦士たちに行き会った。……行き会ってしまったというべきか。
彼女は魔境の戦士たちに自身の身の上を語ったのだが、その結果、彼女は保護されることになった。一緒に外道の下から逃げ出した年下の子供たちもだ。
ただ、今、この場にいるのはフラムだけ。それは〝マナの素養がある〟という単純な理由から。
「まぁ……とは言ってもホブス様。フラムは〝外の子〟ですし、いきなり訓練所に放り込むつもりはなかったんですけどね」
「ほほほ。まさかまさか。わしとてその程度のことは分かっておるわい」
「……本当ですかね? 頼みますよ? 一応、この子は俺がアル様から言付けられたんですからね? まったく……クラーラ様が〝私が直々に鍛える〟とか言い出した時は焦りましたよ……」
「ほほ。クラーラ様も何だかんだと言って、末息子たるアル様が領地を離れて寂しいのじゃろうて。ま、流石にクラーラ様に預けるのは……流石にアレじゃからなぁ……わしも気を付けておくとしよう」
軽い会話。明確な上下関係はあるが、それを踏まえた上で、老齢のホブスと言われた者と、ここへ来るまでの道中を共にしたコリンとの間には、気心の知れた者同士の空気があるとフラムは感じていた。
しかしながら、その空気感を微笑ましいなどとは思えない。なにしろ話題は自身の処遇についてだ。フラムは自分がこれからどうなるかについて、嫌な予感が止まらない。
「そ、その……コリンさん? わ、私は一体何をさせられるんでしょうか……?」
「ん? あぁ、すまないな。本当はもう少し落ち着いてからと思っていたんだが……クラーラ様……この前にご挨拶しただろ? あの御方が『アルがファルコナーの流儀を教えろと言ったのであれば、それは母である私に頼んだのと同じです』という感じで、ちょっと暴走している。要はフラムの〝教育〟について意欲を燃やしているんだ」
「は、はぁ……?」
フラムは確かにアルに言われた。〝戦え〟と。いつの日か、自身に理不尽を強いた外道の貴族家と戦えと。そのために、アルはコリンに『フラムにファルコナーの流儀を教えておけ』とも言っていた。それはフラム自身も覚えている。
無事にファルコナー領へ辿り着いた後、どこからかそのことを聞きつけたクラーラが、彼女の教育係に立候補している模様。
「ま、俺が何を言っているのか分かっていないだろうけど……クラーラ様は、普段は事務方が多いんだが、その実力はファルコナー領でも五指に入るほどの手練れ。俺はおろか、アル様でも太刀打ちできない人外の化け物だ。もちろん、教師としても申し分のない実力をお持ちなんだが……ちょっと手加減が……な。今のフラムだと、軽く注意されただけでも死ぬ。確実に」
「……」
コリンはホブスとの会話の延長で、ごく軽い口調ではあるのだが、その瞳は真剣だったりする。
ファルコナーへの道中で、非魔導士でありながら襲ってくる賊を唯一人で皆殺しにしたコリンが畏れている。自然とフラムの嫌な予感が、はっきりとした形になっていく。
「あ、あんなにも、優しそうだったのに……そ、そこまでですか? そ、そんな御方に……わ、わた……しは目を付けられている?」
「目を付けられているっていうのは、流石に表現としてどうかと思うが……まぁその通りだな。だからこそ、ファルコナー領で幼年者の教育を一手に引き受けておられる、このホブス様のところに急遽フラムを連れて来たってわけだ」
それは避難。流石に正式な教育係であるホブスの管理下に入った者に対して、横からちょっかいを掛けるような真似はしないだろうというコリンの配慮。
ファルコナーでは、任されている仕事に対して皆が誇りを持っている。今の状況から、クラーラがフラムに教育を施すというのをゴリ押しするというのは、ホブスへの侮辱と取られかねない行為だ。
「ほほ。まだファルコナーへ来て間もない外の子じゃからな。しばらくは、訓練をしているフリでも良いじゃろうて」
「……すみません。ホブス様を利用するよう形になってしまって……」
「なあに構わん。クラーラ様は使い手としても、指導者としても卓越しておるんじゃが……どうしても加減がなぁ……」
しみじみとそんなことを語るホブス。
絵に描いたような貴族家の淑女という姿だったクラーラが、まさかそんな……という思いがフラムにも多少あるが、本能がコリンやホブスの言を肯定している。
「(……こ、ここはすでに魔境なんだ。街中でちょっと話を聞いただけで、コリンさんが相手にならないような魔物や戦士がゴロゴロしている場所……きっと、あの優しそうだった奥方様も……本当に……強いんだ……)」
薄らとした絶望を感じているフラムをよそに、コリンとホブスは少々気を抜いていた。そう言わざるを得ない。
まだ安心するのは早かった。残念ながら、いつの間にか間合いに入られている。
「……ふふふ。ホブス老、それにコリン。誰の手加減が……なんと?」
「「……」」
フラムは後悔している。激しく。
彼女が超人のように感じていたコリンが、微笑みを浮かべた淑女に呆気なく殴り飛ばされ、体重で言えば優に倍以上はあるだろう巨漢のホブスが軽々と投げ飛ばされた。
そんな魔境へと来てしまった。
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※コミカライズが面白いよ! そっちはまだまだ続くよ!(願望込み)




