コリンの帰路
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とある馬車が街道を行く。王都付近は街道の整備も行き届いており、進み具合もスムーズなのだが、その馬車は王都方面から南方の辺境地へと向かう様子。つまりは、徐々に整備されていない街道を行くことになる。
その馬車には、まだ少年と呼べる年頃の御者が一人と、その少年よりも更に年若い子供たちが四人。行商の類でないことは明白。
マクブライン王国の王都周辺の街道は治安が良いのだが、辺境地へと向かう場合……王都から離れれば離れるほどに街道を行くのに心許なくなる。治安が悪化していく。悲しいかな、魔物の襲撃よりも、同じヒト族の襲撃を警戒しなければならないという有様だ。
そして、街道を行く者の襲撃を稼業とする……そんな不埒な賊も多い。そのような〝慣れた賊〟は、大人数の隊商を襲撃することはなく、比較的少人数で行商している者などを脅し、通行料をせしめるというやり方で、細く長く稼ぐ。一度の襲撃で大きく稼ぐような危険を冒さない。慎重さをもっている。
ただ、時折現れる〝チョロい獲物〟に限ってはそうではない。根こそぎ奪う。命すらもだ。
御者が少年の、明らかに行商ではない馬車。乗員は子供しかいない。周囲を見渡しても護衛の〝ご〟の字も見当たらない。賊の者たちは思った。
『久しぶりの〝チョロい獲物〟だ』……と。当然に賊たちがその馬車を見逃すはずもない。特にこれといった荷がないとしても、子供というだけで金にすることができる。女児であれば尚更だ。嬉々として賊たちはその馬車の行く手を阻む。囲む。
「へへ。残念だったな。この街道を通りたかったら、通行料を払ってもらわないとなぁ?」
もちろん、通行料を払ったところで、彼等が少年たちを解放することはない。ただの常套句に過ぎない。
「はぁ……通行料……ですか? 先日、ここを通りかかった際には、そのようなものは必要なかったのですが……?」
「はは! その時はたまたま見張りがいなかっただけだ! だが、良いこと聞いたぜ! つまり、お前は前回通った時の通行料を支払ってないってことだッ!! ついでに今出してもらおうかッ!」
「ぎゃははッ! そりゃいいぜぇッ! 残念だったなボクちゃん!」
何がおかしいのか、周囲を取り囲む賊たちの下卑た笑いが響く。幾人かは回り込んでおり、馬車の荷台にいる子供たちをじっとりと品定めをしている。御者の少年の次に年長と思われる、赤毛の少女が震える子供たちを抱きしめる。
「くくく。泣ける愛情物語だなぁ? ま、安心しろやお嬢ちゃん。みーんなそろって、変態貴族様のオモチャになれるように、まとめて売ってやるからよォッ!」
「フ、フラム姉ちゃん……!! こ、怖い……ッ!」
「だ、大丈夫だから!! あんたたちに手を出させたりしないからッ!」
絶体絶命。本来なら、哀れな子供たちは賊に捕えられ、商品として金銭で取引されることになってしまう……はずだったが、賊たちは誰も気付かない。〝チョロい獲物〟が転がり込んで来たと、勢い勇んで飛び出して来たのだが……何を以て〝チョロい〟と判断したのだろうか? それが彼等の致命的なミス。もう取り返しはつかない。
「うーん……『あからさま過ぎると逆に怪しく感じる』……というのは、こういう感じなんだろうか? まさか何の捻りもなく、ただただ賊に襲われるだけだとは……てっきりフラムたちの追手の仕込みかと思って様子をみていたんだけど……意味はなかったなぁ」
「あぁん? 何を言ってんだこいつは? 恐怖でおかしくなったか?」
「お頭、荷台のガキ四人で十分でしょ? この間、森の合戦跡で拾った剣の試し斬りをしてぇんだけどよぉ?」
「はん! テメエのへっぽこな腕で何が試し斬りだ‼ 恰好つけやがってからに!」
「ぎゃははは! お頭の言う通りだぜ!」
賊たちは気付けない。もはや戻れないことに。
わいわいぎゃーぎゃーと騒ぐ賊たち。それが彼等の最期の楽しき一時になる。
最初に気付いたのは誰だったか?
馬車の付近にいた男が、前触れもなく倒れた。受け身も取らず、そのまま後ろにだ。
ごつりと、後頭部を地に打ち付ける鈍い音まで聞こえた。
「あ?」
「なんだぁ?」
その有様を見て、違和感を覚えた者が数名はいた。が、何の意味もない。次の瞬間には、ハッキリと示されたのだから。
影が駆ける。何かが目の前を過ぎる。当人が認識できたのはその程度。
「あが……ッ!?」
「ごふッ!?」
剣閃。鈍色の軌跡が舞う。
肉や骨ではなく、確実に命を絶ち切る技。
当人は斬られたことを認識できぬまま、黄泉路を渡る。
「な……ッ!? こ、殺せッ!!」
「なんだコイツはッ!?」
「ビジーが殺られただと!?」
下卑た笑いから一転、怒声が響く。だが、全てが遅い。手遅れ。彼等は手を出してしまったのだから。自らの姿を晒してしまったのだから。
不埒な賊は民の敵。力無き民を食い物にする不埒な賊。死ね。それが〈ファルコナーの流儀〉。
領民皆戦士。たとえ非魔道士であっても、不埒な賊を見過ごすことはない。時に、貴族以上に貴族らしいのもファルコナーの者だ。
抜剣したまま、だらりと自然体で構えるコリン。その周囲には、斃れ伏した賊の死体が数体。血の海。しかし、その光景を生み出したコリンは一滴の返り血すら浴びていない。
「さて、通行料でしたね? 申し訳ないのですが、持ち合わせがないので……皆殺しということで如何でしょうか?」
「な、な、何なんだ! テメエはッ!?」
わざわざ答えることもない。コリンは問いを発した頭目に向けて踏み込む……と同時に剣を突き立てる。頭目の胸に。そして引き抜く。多量の血が噴き出るが、その時には既にコリンの身は別の賊の下へと動いている。
「ごぶゥゥッ⁉」
理解が追い付かないまま、頭目は両膝から崩れ落ち、膝立ちのような状態で僅かにバランスを保つが……結局はそのまま前のめりに倒れる。もう起き上がれない。死出の旅路へ出立した。
頭目からすれば意味不明な状況だっただろう。何も認識できなかった。剣筋はおろか、正面から迫るコリンの影すら追えなかったのだから。気付けば死んでいた。命が零れた。
「逃げろッ! 化け物だッ!」
「頭目が殺られたぞ!?」
逃げられるはずもない。隠れ潜む見張り役の者すらコリンは勘定に入れている。逃げても追う。ある程度蹴散らせば良いという主とは違い、コリンは賊を取り逃がすことを是とはしない。討ち洩らせば、それ即ち民への害悪だ。
「(逃がすものか……全員仕留める)」
虚ろな瞳。淡々と賊を斬り捨てる。既に作業だ。
逃げる賊に追うコリン。それは命を懸けた鬼ごっこ。
血の海と化す街道。賊の討伐。コリンは、フラムたちを乗せてファルコナー領へ帰る道すがら、多少なりとも街道の治安を回復させた模様。
……
…………
その後も、二度ほど似たような襲撃があったが、同じようなやり取りで結末も同じ。コリンが単独で完膚なきまでに賊を撃退して終わり。
賊たちはコリンの変貌に混乱するのか、荷台にいるフラムたちを人質なりに……ということはなかった。フラムなどはソレを心配していたのだが……。
「あぁ、それは簡単な話だ。俺はフラムたちに近付こうとした奴から倒していたからだよ。当然にフラムたちを人質に取ろうと動いた奴だっていたさ」
「はぁ……そ、そんなことまで気にしてくれていたんですね……ありがとうございます。あ、あの……コ、コリンさんは……〝馬丁見習い〟とお聞きしていたんですけど……ファ、ファルコナー領では、そ、その……戦士のことを〝馬丁見習い〟と呼んだり……する……とか?」
「ん? そんな風習はないぞ? 馬丁見習いは馬丁見習いだ」
「で、ですよね……(わ、私たち……も、もしかして、と、と、とんでもない場所へ連れて行かれているんじゃ……?)」
フラムの心配も当然のこと。しかし、もう遅い。彼女たちを乗せた馬車は、既にファルコナー領の目と鼻の先。
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※コミカライズが面白いよ! そっちはまだまだ続くよ!(願望込み)




