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狂戦士なモブ、無自覚に本編を破壊する【第1~7巻発売中&コミカライズ配信中】  作者: なるのるな
SS

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都貴族の矜持(裏)

R8.3.28 「狂戦士なモブ、無自覚に本編を破壊する」のコミカライズ第6巻が発売となりました。よろしくお願いいたします(宣伝)

 :-:-:-:-:-:-:-:



「父上。バイラル男爵家、モーラズ子爵家との調整は滞りなく完了いたしました。ことが起こった後の他家への根回しについて、確約して下さいました。また、先方の御当主方から、父上に宛てて『健闘を祈る』と直々にお言葉を頂戴しております」


 そう語るのは、年若い男。一目で〈貴族家に連なる者〉だと分かる身なりではあるが、現在は密かに動いているということもあり、普段の彼からすれば、いっそ質素であり見すぼらしいとも思える身なりでもある。もっとも、彼自身を含め、その関係者たちは誰もそんなことに気を回しはしない。なにせ、家の存続の危機なのだから。


「……ふん。ヒトの失敗を嗅ぎ付けて、こそこそと小銭稼ぎをする姑息な者どもではあったが、都貴族としてのルールは忘れておらぬようだな」


 報告を受けるのは、その報告者の父であるイーデン・コートネイ伯爵。


 コートネイ家の源流は、マクブライン王国建国前……七つの大陸を支配したと云われる、かつての帝国の貴族家であり、王国においては古貴族家と呼ばれている。


 そんな古き歴史を持つ家の現当主がイーデンという男。


「……父上。両家の方々は、これまでの軋轢を越え、コートネイ家に助力を申し出てくれたのです。そのように悪し様に語るのはお止め下さい」


「ならばお主が当主となった暁には、姑息な鼠どもに存分に礼をすれば良い」


「父上。やはり、どうしてもですか?」


 二人は親子であり、現当主と次期当主という立場を持つ。そして、事実上の家督の継承はまさにすぐそこまで迫っている。イーデンが隠居するに際しての安穏とした引継ぎはあり得ない。


 イーデン・コートネイ伯爵は死ぬ。自らの罪を道連れとして、冥府への扉を開く。


 しかし、ただ死ぬだけでは許されない。家の、一族の存続のために、その死は彩らなければならない。凄惨で、華々しい舞台劇の演出が欠かせない。


「……ふん。辛気臭い顔を見せるな。お主は栄えあるコートネイ家の当主となる身なのだぞ? くだらない感傷は捨てよ」


「しかし! 他に手はないのですか!? 私には、まだ父上のお導きが必要なのです!」


 諦めきれない。次代のコートネイ伯爵であるノーマンは、現当主の死をすんなりとは受け入れられない。この期に及んで、別の可能性を考えてしまう。しかし、そんな息子の思いは、イーデンからすれば失笑を禁じ得ない。


「他の手などない。あったとしても、それはコートネイ家にとって大幅に不利益となる手だ。下手をすれば、一族連座での処分……家を取り潰されかねんわ。私が華々しく散れば収まる。コートネイ家にとって一番被害が少なくて済むのだ。ノーマンよ。何のためにあの化け物どもを釣り出していると思っているのだ? それとも、お主は他に手があるとでも言うのか?」


「……そ、それは……しかし、父上が全てを被らなくても……」


「腑抜けたことを申すな! 貴様ッ!! それでもこのイーデンの継承者かッ!?」


「ッ!!」


 一喝。いつまでも生温いことをほざく息子に、イーデンは吠える。


「もはや道は無いのだ! いや、私がここで死ぬことが、これからのコートネイ家の繁栄にとって最良とさえ言える! ……もはや王国は〝託宣〟とやらに則って動いているのだ。魔族との取引は下火どころか、これまでと違い、ことが露見した瞬間に破滅する。王国と教会の〝託宣〟への傾倒ぶりを見誤っておった……明らかに時流を読み違えた私のミスだ」


 イーデン・コートネイは、アルが思うところの典型的な腐った都貴族だ。犯罪行為に手を染めることなど当たり前。魔族であろうがヒト族であろうが、金になるなら違法な人身売買も躊躇わない。汚れ仕事を任せるために、複数の裏組織を飼ってもいる。むしろ、それらを他の貴族家に貸し出すことを事業として展開もしている。王国の法は当然として、絶大な影響力を持つ教会の定める法や教義であっても平気で踏みにじる。


 ノーマンもだ。彼は息子として、父が死ぬということに心痛を覚えている。その運命を変えたいと願っている。それ自体は美しい親子愛。家族愛だ。しかし、ノーマンもまた、イーデンの片腕として、継承者として、散々に他者を踏みにじり、その命を商品として扱ってきたのだ。そんなコートネイ親子に翻弄されてきた被害者たちは、彼らの家族愛を美しいと思うだろうか? 否。冥府にて手ぐすねを引いてイーデンが来ることを待っている。待ち侘びているだろう。


「……ノーマン。これはコートネイ家にとって丁度良い転換期なのだ。魔族関連の仕事は全て切れ。何なら、私の死後、諸々の根回しの礼と称して、鼠どもに事業を丸ごとくれてやっても良い。やつらは必ず食い付く。そして、近い内に破滅するだろう。子飼いの裏組織についても、精鋭を残して、後は整理しろ。業腹ではあるが、今回の件でコートネイ家が一番に世話になるのはゴールトン家であろう。奴らは教会との関連が強い。ノーマン。お主の代では、教会の内部に真っ当に食い込め。そして、次の代……あるいはその次の代で、教会の要人を傀儡として新たな〝事業〟を立ち上げるのだ」


 それは都貴族家としては当たり前の考え方。個人ではなく、一族としての繁栄を求める。そして、時にはそのために、当主が一生を掛けて〝良い子ちゃん〟を演じることも厭わない。


 腐ってはいるが、腐臭を消すことくらいはやってみせる。強かで、しぶとい。それが都貴族家の流儀。


「しょ、承知しました。私は……ゴールトン家の〝善き友〟を演じ、生涯を通じて教会への寄進を行います。そして、時が満ちれば、必ずやコートネイ家の継承者に父上の名を……〝イーデン・コートネイ〟を名乗らせ、〝事業〟を起こすようにいたします」


「……ふん。それで良い。個の命に執着するなど見苦しいものよ。いざとなれば、命を棄てて名を遺すのだ。そして、命を棄てるなら一番に高い値が付いた時だ」


 他者の命を商品として扱う、腐った都貴族のコートネイ家。分かり易い悪だ。だが、それでも彼の家には矜持が、美学がある。軽重はあれど、あくまで自らの命もまた、ただの商品に過ぎないのだ。高値で売れる時に売る。


 この度イーデンは自らの命に最大限の高値を付けた。そうなるように動いた。実際は高値が付いたというより、借金の相殺という意味合いの方が強いが、コートネイ家の負の財産をチャラにできるというのは、当主が命を懸けるに値する魅力があったというだけ。


 迷わず。躊躇わず。命をチップとして賭ける。その賭けの結果は次代……いや、数代後に示される。それが都貴族の戦い。


「……ああ。それと忘れるなよ、ノーマン。私と共に死ぬ者たちの遺族には、末代まで報いるのだ。忠義などという馬鹿げたモノを信じるな。労働には対価を。どのような者であれ、コートネイ家のために働く者には相応の対価を支払うのだ。……今回は私一人では格好がつかん。それなりの体裁と凄惨な現場が必要になるからな……」


「……既に選定は済んでいます。皆、父上の気質を……コートネイ家の在り様を知っている者ばかりです。自らの命をコートネイ家に売り、その対価を遺族が受け取ることを望んでいます。……私はコートネイ家の当主として、彼らに対価を支払い続けましょう」


 イーデンは忠義を信じない。信じられるのは労働と対価。傲慢で選民思想は強いが、労働に貴賤はない。相手が平民であろうが、スラムの者であろうが……労働に見合う対価を支払う。その一点は、他の都貴族と違う。皮肉なものだ。忠義を信じないイーデンではあるが、必ず報酬を支払うという、ごく当たり前のことを実行するからこそ、命を懸けて仕える者が集っている。それも一つの都貴族家の形か。


「……さて。では、段取りは最終局面だ。ノーマン。お前はもう別邸から動くな。これが今生の別れだ。後は頼むぞ」


 あっさりとしたもの。既にイーデンは死んでいる。少なくとも彼はその境地にある。準備が済めば、後は決行の日を待つのみ。


 ノーマンはまだどこかで父の死を受け入れられないでいたが、流石に今のイーデンを前にして、次代のコートネイ伯爵として腹を括る。


「……承知しました。それで……母上に言い遺すことはありますか?」


「ふん。そんなものはない。セアラは私の妻として、コートネイ家の者としてやるべきことをやる女だ。……ノーマン。当主として迷いが出たのなら、セアラに助言を求めるのだ。良いな?」


「……はい。必ず……」

 

 それは表に出ることのない一幕。


 所詮は腐った都貴族家の者が、諸々の犯罪行為に関して官憲の手を逃れるために命を棄てて足掻いただけのこと。


 しかし、そこには覚悟があった。準備があった。


 決して行き当たりばったりの流れに任せたものではない。

 

 人外の傲慢さを捨てられない者。ただ流されて言いなりになるだけの者。そんな者たちが、周到に準備をして、覚悟を持って待ち構えていたイーデン・コートネイ伯爵に勝てるはずもなかったのだ。


 シグネとエイダは負けるべくして負けていた。



 :-:-:-:-:-:-:-:

R8.4.30 「狂戦士なモブ、無自覚に本編を破壊する」の小説版最終巻となる第7巻が発売予定です。よろしくお願いいたします(宣伝)


※なろう受けはしないかも知れないけど、拙作「リナニア戦記 ~悪役貴族と転生従士は平和の国の夢を見るか~」もよろしくです(宣伝)

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