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4-11

『サロモンがなぜダリウスを襲ったのか?』という疑問はない。


 あるとすれば、『なぜ今までサロモンはダリウスを襲わなかったのか?』という疑問だ。


 あの中二病バトルマニアエルフが今まで『街の英雄』とか呼ばれてるダリウスに手を出さなかった方がおどろきである。

 手を出さなかった理由として考えられるのは『コミュ力ないせいで情報収集ができず、ダリウスが英雄だと知らなかった』ってあたりか。……うん、これ以外ないな。


 まあなんにせよ祭りが始まっているようなので、俺たちは急いで会場に向かうことにした。


 ダヴィッドと並んで夜の街を走る。



「だーあーもー、あの細長(ほそなが)ァ! あいつ馬鹿なんじゃねェの!?」



 ダヴィッドが赤茶色の髪を掻きむしりながら叫んでいた。

 しかしそんな指摘は今さらすぎてコメントに困る。



「サロモンは馬鹿だぞ」

「知ってるよ! 再確認しただけだ!」

「まあ別にいいじゃねーか。自由だよ自由。反政府組織に所属するのも、ドワーフまとめてレジスタンス起こすのも、領主襲うのも自由だ。ガンガン行こうぜ」

「つぅかテメェはいいのかよアレクサンダー! ダリウスとは話をしたかったんだろ!? サロモンの馬鹿が襲ったせいで話をする感じじゃねェぞ多分!」

「まあ話は相手を転がしてからでもできるから。イーリィがいればたいていの致命傷はどうにかなるし」

「じゃあアタシらばっかり急いでも意味ねェじゃねェか!」



 イーリィとカグヤはあとから来るのだった。

 脚力的な問題で俺とダヴィッドの駆け足についてこれないから。



「急がなきゃ祭りを見逃すだろ。ダリウス対サロモンとか金とれるレベルの高カードだぜ。今、俺、頭の中で実況を練ってるんだ。ダヴィッド、お前が解説な」

「なんだそりゃァ!?」

「つーかダヴィッドはサロモンのことになると本当に沸点低いよな……」

「あの根暗細長(ほそなが)が言動からなにからことごとくアタシの気に入らないポイントをおさえてくんだよ。今回の行動のタイミングもだがな!」

「あー……まあ……うん、たしかにお前ら相性悪いな」

「なにより『武器を使うなど脆弱(ぜいじゃく)』っていう発言な。アレでアタシの印象は一気に悪くなったね! ……いいかアレクサンダー、サロモンと再戦するらしいじゃねェか。その時は勝てよ。アタシの作った武器で絶対に勝て。いいな」

「任せろ。俺はサロモンなんかには絶対に負けない」



 負けそうなことを言いながら駆けていけば、地面が土から石畳へと変わっていく。


 そして正面には関所。


 そこには番兵が立ち、一等区画と三等区画を隔てる入口を守っていた。


 彼らも一等区画で行われている『なにか』は感じ取っているらしい。


 このへんまで来るとたしかに戦闘の余波と思われる震動やら轟音やらが感じ取れて、事情も知らされずお仕事中の人々はさぞかし気が気でないだろう。


 しかし彼らの職業意識は立派なものだ。



「止まれ! 三等区画の者は許可なく一等区画には入れない!」



 手にした剣を向けて、警告してくる。


 番兵たちのいないルートを探るが、パッとは見つからない。


 高さ四メートルほどの壁が左右に長く延びていて、これを通り抜けるには兵隊二人が守る入口をくぐるより他にないのだ。


 まあ俺とサロモンあたりなら飛び越えられねー高さでもないんだが……


 ダヴィッドはDEX的に見て身長の四倍近い高さは跳べないだろう。


 あと立場上、俺は種族人間なので一人なら抜けられるだろうが、ダヴィッドがなあ。

 せっかくついてくるしなあ。解説役必要だしなあ。



「おい、止まれと言っているのがわからないのか!? ……くそ、おい、閉めろ!」



 俺たちがまったく停止しないので危機感を覚えたのだろう。


 兵隊二人は関所の内側……一等区画側へと入ると、中から関所の入口を閉めようとした。


 俺たちが到着するより扉が閉まる方が早い。


 どうしたもんかね。

 あ、そうだ。



「ダヴィッド!」

「なんだ!」

「俺の剣、一回だけ、全力で振れるようにできるか!?」



 背負っていた折れた剣を抜く。

 ダヴィッドは一秒ぐらい眉をひそめてから、



「……なるほど」



 笑った。


 ダヴィッドが愛用の巨大ハンマーを振りかぶる。


 それは俺の折れた剣へと振り下ろされ、甲高い音を立てた。


 人工的な深紅の輝きが視界でまたたいて、光が晴れた時には、俺の剣はもとの長さを取り戻していた。


 走る勢いをそのままに、扉の閉じられた関所へ近付いていく。


 俺は剣を振りかぶった。

 ダヴィッドはハンマーを再び振りかぶった。


 壁に激突するぐらい近付いて、俺たちは同時に、壁へ向けて剣とハンマーを振り下ろした。


『ボゴン!』とか『ガゴン!』とかいう音を立てて、区画を隔てる壁に大きな穴が空く。

 俺とダヴィッドはその穴を通って、一等区画への侵入を果たした。



「ぐあー! 一回で折れた!」



 走る勢いを止めぬまま振り返れば、折れて跳ね上がった剣の刃が、まさに地面に突き立つところだった。



「しょうがねェだろ! それよか、今テメェの剣の修理に使ったの、アタシの大事なハンマーの素材なんだ! あとで回収するからな!」

「そんなにいい素材なの?」

「いい素材じゃねェよ! ただの形見だ!」

「なるほど。あとでとりに戻ろう」



 とりあえず走りながら振り返って、形見らしい素材を片手で拝んでおいた。

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