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ダヴィッドとサロモンは相性が悪い。
性格的なものはもちろんあるが、それよりなお信条的な部分でのすれ違いが大きいように思う。
武器などに頼るのは脆弱だと断じ、実際に武器を持たないで(というか武器を手加減のためにあえて使い)戦うサロモン。
対して武器作りに精を出し、よりよい俺の剣を作ろうともがくダヴィッド。
両方とも創作者系ってあたりも相性の悪さに拍車をかけるんだろう。
同じカテゴリに属する二人だが、性格や信条のベクトルが正反対なのだ。
そんなことを考えながらダンジョンを進んでいる。
ヒマだった。
ダンジョンにもぐると言われれば、それは『命懸けの死闘を開始する』という意味だと俺は思っていた。
実際、今まで道々でこもったダンジョンでは俺じゃなきゃ死んでるようなことが何度もあったからだ。
しかし、このダンジョンは安全だ。
道は整備され、壁には明かりを納める台が等間隔に設置されている。
ダヴィッド製のゴーレムが闊歩し規則正しくダンジョン内の石を外へ運び出していく姿は、『もうこいつらいたら人足いらねーな。ドワーフたち仕事とられる』って感じ。
案外、ドワーフたちは手が空いたから反乱軍を起こすにいたったのかもしれない。
余裕がないと思考さえできない。思考しなきゃ、現状を見つめ直すこともない。
やっぱり人類には余暇が大事だ。
「……まあ、なるほど。石材を上に運び出してるっていうのは、『鉱石がとれる』とか『いい石がドロップする』ってわけじゃなくて、『ダンジョンを迷路たらしめている壁を削りだして石材を確保している』って意味だったのか」
「おうよ。最初は迷路だったらしいがな、今じゃあ半分がだだっぴろいだけの空洞だ」
ダヴィッドがくだらなさそうに吐き捨てて、
「まったく小賢しい野郎だよ、ダリウスってのは。脅威でしかねーはずのダンジョンをこうも有効利用しやがる」
「まあ、このへんで石材とれるとこはダンジョンぐらいしかねーだろうからな。海も近いし木造の家は建てたくなかったんだろ。腐るから」
「経験か、考察か。……ダリウスが英雄って呼ばれたのはな、こういうダンジョンの有効利用論を提唱したあたりがデケェらしい。が、それ以上の功績があって……お、残ってたな。あれ見てみろよ」
かがり火だけで照らされた暗闇の向こう、ダヴィッドが指さすものがある。
目をこらせばそれは、どうにもまだ壊されていない壁のようだった。
周囲にはダヴィッド製のゴーレムがたむろし、石を砕いたり積んだりしている。
俺たちが近寄ればゴーレムたちはピタリと動きを止めて棒立ちになった。
巨体で足が短くて肩幅が広い、ずんぐりむっくりしたゴーレムどもだが、なるほどこうして見てると愛嬌があるように思えてくる。家に一台ほしい感じだ。
「この壁を見ろ」
ダヴィッドに指示されたので、顔を近付けてながめる。
すると、そこにはなんらかの模様が彫りこまれているのがわかった。
「……模様があるな。いくらかのパターンがあるみてーだが、同じ壁の中で二回以上使われてる模様もある。……うーん。あ、これひょっとして『文字』か? そういや初めてダリウスのおっさんに会った時、和紙にこんなの書いてた気がする」
「そうだな。文字だ。ダリウスはな、迷宮にあったこの模様に意味があることを読み解き、それをヒントにこの迷宮を攻略したんだとさ。んで、この迷宮で使われてるこの模様を、そのまま街で『文字』として広めた。文字っつうのはまあ、『意味のあるマーク』だな」
「……なるほど。ダリウスのおっさんは文化面での功績がでかいタイプなのか」
文字ってのは大した発明だ。
記録を残す、報告書を作成する、ルールを広める。……全部文字により行われる。
「いいじゃねーか、文字。なるほど街が街として栄えたのはこういうことか」
「ダリウスが文字の発見で権力を得たのは聞いてるが、文字で栄えるってのがよくわかんねェんだよな」
「ワントップ形式ででかい組織を動かそうと思ったら、文字は不可欠だぜ。文字がなきゃ一番上の指示が下々まで正確に行き渡らない。同じルールで街じゅうを動かそうとしても、どこかで激しく歪む。ところが文字があると、一番上の指示を一番下がそのまんま見ることができるんだ。まあこれは簡単に言った感じで、もちろんそうするための下地が必要で、なにより識字率を上げる方法とかが……」
「……あー、すまねェ。そういう話はイーリィとしてくれ。アタシにゃ向かねェらしい」
「まあ興味がわく話題とわかない話題があるからな。それよりどうよ、街に入る前に『嗅いだことのねー鉱石がありそう』って言ってたけど」
「ああ、テメェの剣な、何本か作ったよ。あとで試してくれ」
「ついにできたか。折られない自信は?」
「自信のねェモンをテメェに渡すかよ」
「お前はすごいヤツだよ。『なあなあ』がない。『とりあえず作ったけどダメかもしれない』じゃなくて『自信がある』って言い切るもんな。その潔さとか覚悟はまさしく兄貴だわ」
「お姉様と呼べ」
「お姉様……」
「ぶん殴るぞ」
「どうすりゃいいんだよ!」
「兄貴呼びは万遍なく気に食わねェが、テメェにお姉様と呼ばれるのは気持ちが悪い」
「わかったよダビちゃん」
「殺すぞ」
「さっきはスルーしたじゃねーか!」
お前の逆鱗が全然わからない。
これ以上ヤブをつついてもいいことなさそうなので、話を戻す。
「ダリウスのおっさんが権力者になった背景はなんとなくわかったよ。『ダンジョンで』『文字を見つけ』『広めた』。『強い』『運がある』『賢い』と三拍子そろってるからな。そりゃあ英雄と呼ばれるべき功績なんだろう。ただな……」
「あんだよ」
「差別制度だけが解せねーんだよな。どこから生まれたんだ、この政策は。……ああそうか、いやでもな、あの時ハッキリしたこと聞けばよかった……」
「そういう小難しい話はイーリィとしろ。あいつ好きだろ、そういうの」
「いや、あいつは女王様として君臨するのが好きなだけで、政治好きってわけではないんじゃないかな」
後ろから「私のことをなんだと思ってるんですか?」とわりと本気っぽい疑問の声が聞こえた。
俺はお前のこと、委員長だと思ってるよ。
でも、とりあえず意見を聞いてみるか。
「イーリィ」
振り返って呼びかける。
カグヤと手をつないで俺たちのあとをついてきていた彼女が、「なんですか」と微妙な顔で言った。
「ダリウスのおっさんは、なんで人種ごとに等級を定めるような政治をしたんだと思う?」
「わかりませんよ」
「だよなあ」
「ご本人に聞いたらいいじゃないですか」
…………。
そうだな。
「あ、兄さん、ごめんなさい、冗談です。今の兄さんは『真白なる夜』のメンバーで反乱軍とも接触してますし、ダリウスさんと直接会うのはちょっとまずいっていうか、さすがにそれは理解してますよね?」
「そうだな。じゃあダリウスのおっさんに直接聞こう」
「どのあたりが『そうだな』なんですか!?」
「状況も立場も理解してるよ? けどそれはおいておいて、直接聞くのが一番だなって思ったんだよ」
「おいておかないで!」
「なんだよいいじゃねーか。状況に合わせた行動をしなきゃいけないなんていう決まりはないんだぜ。空気なんか読むなよ。空気は読むもんじゃねー。吸うもんだ」
「……ああああ……もう本当に……危ないかもしれないんですよ!? ダリウスさん、たぶん敵には容赦ないタイプですよ!?」
「初日に見たよ」
街中で襲ってきた『真白なる夜』のメンバーをためらいなくたたき伏せたのを、見た。
そして、襲ってきた三人のうち、誰も死んでいないことを、俺は知っている。
「……まあ、理性的だよ、あのおっさんは。この街のなんらかの組織の長は、みんな過度に理性的に見えるな」
ダリウス。
シロ。
……この二人に共通して感じたのは、『熱』のなさだ。
こんな時代に街を作る、その街に反抗する勢力を束ねる、両方ともに熱意もなくできることじゃない。
にもかかわらず、あの二人には熱さを感じない。
個性だって言われりゃそれまでなんだが、あいつらの場合はなんか秘めてそうなうさんくささがあるんだよな。
そのへんもまとめてぶちまけてから吟味して略奪したい。
「ともあれ敵の本陣に行くかあ。俺が行方不明になったあと捜索隊出してくれてたぐらいだし、俺に興味はあんだろ、あのおっさん。……いや、うーん、あるかな? 俺が一等住民だからってだけの理由な気もするな……まあ行くか。行くぞ!」
方針は決まる。
問答無用ってことはないだろうと期待して突っ走るだけだ。
でもその前に一休みするべきかどうかはちょっと悩む。
なんせ横になりもせず活動を続けて、もう四日目だからな。
が、事態は俺に休息時間をくれないらしい。
ダンダンダンダン! と乱暴な足音がだだっぴろい空洞と化したダンジョン内に響く。
音はそこらで反響して耳じゃどこからの足音か判別できないが、まあ入口側からだろうと予想してそちらに首をめぐらせた。
すると予想通り、大急ぎでこちらに駆けてくる若い? ドワーフを発見する。
「あ、アニキィー!」
俺の真横でダヴィッドが舌打ちした。
「お姉様と呼べっつってんだろうが!」
「兄貴、大変なんです、だ、ダリウスが……」
「攻めて来たのか!?」
「いえっ、攻めてきたんじゃなくって」
ドワーフは俺たちのそばまで駆け寄ると、困惑した顔で固まった。
ダヴィッドが報告に来たドワーフに怒鳴る。
「ハッキリしやがれ!」
「あ、は、はい、すいません兄貴。えっと、ダリウスが……襲われている?」
「……はあ?」
「物見に出してるやつの話なんですが、ダリウスが襲われてて、今、戦闘中とかで」
「相手は『真白なる夜』か?」
「いえ、魔族じゃないらしいッスよ。なんでも、長耳? たった一人だとか長耳の軍勢だとか、情報が錯綜してわけわかんないんスけど……とにかく一等区画全体がぶっ壊れかねない戦いが起こってて、急いで兄貴のお耳に入れないとと……」
「……」
ダヴィッドがすさまじく苦い顔で俺を見た。
俺は頭を掻いてから、たずねる。
「えーと、その戦いだけどさ、緑の光が大量に確認されてたりしない?」
「あ、しますします! 空いっぱいに緑の細長い光が浮かんでて、オレらの区画からでも見えるぐらいです!」
俺はダヴィッドとイーリィとカグヤを順番に見てから、うなずいて、言う。
「サロモンだ」
あいつ、やりやがった。




