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03-16-0096




 Side:アッシュ



 「カチカチカチカチカチ………」


 ロックセンチピードが顎を鳴らしてこちらを威嚇(いかく)している。

 しかし私は<邪獄樹の棍棒>を持つ右手を後ろにして構え、左手を前に出す半身の構えで待つ。

 こんな事なら安値の盾を買ってくれば良かったな。

 今までは両手で持つ武器が当たり前だったので、盾は使った事が無かった。


 使い慣れていない物を持つのもどうかと思うのだが、盾は必要かもしれない。

 今は片手で十分に重く硬い武器なので、両手で持って使える長さじゃない。

 左手にはランタンを持っているから盾は持てないが、最悪は盾を持って暗闇で戦うしかない事もあり得る。


 その時の為にも盾は買っておいた方がいいな。

 そうでないと必要な時に無いとなれば困るし、盾があった方が傷を受けにくい。

 実際に奴隷闘士として闘技場で戦っていた時には、様々に傷ついたものだ。

 何故か大半は傷跡も無く治っているが。


 「カチカチカチカチ、シューッ!!」


 カチカチと顎を鳴らしていたロックセンチピードが、急に体を伸ばして襲って来た。

 しかしそうしてくるのは予見できていたので、私は高速で向かってくるロックセンチピードの頭を<邪獄樹の棍棒>で殴りつける。


 ドゴッ!! ……ドォン!!


 顔を殴られて壁に吹き飛んだロックセンチピードに対し追撃を仕掛けようと思ったのだが、予想以上に早く態勢を立て直されてしまった。

 流石は統率者としか思えないが、そう簡単に決着はつきそうに無いな。


 チラリと<邪獄樹の棍棒>を見るが、全く何も無かったかのようにそこにあった。

 かなりの衝撃と威力だったと思うが、全く傷がついているようには見えない。

 流石は初代の王に付き従った将軍の武器だ。硬い敵でも十分に使えるらしい。


 私は再び半身になると、ロックセンチピードに対してジリジリと近づいて行く。

 ロックセンチピードは再び「カチカチ」と顎を鳴らしているが、先程より「カチカチ」の音が大きい。

 本当の意味で私を警戒し始めたようだな。


 一撃を喰らって本気で警戒しないといけない相手だと思ったのだろう。

 今更という気はするが、しかし今まで弱い者しか相手にした事が無いなら分からなくもない。

 が、私の方も大きなダメージが与えられた訳ではないので微妙だ。


 油断していたのであれば、油断している間に大きなダメージを与えておきたかった。

 とはいえ慎重に立ち回る必要があるし、有利な状況に出来なかったのは仕方ない。

 それよりも、迂闊(うかつ)な失敗をしないように立ち回らないと……


 「シュッ!!」


 再び噛み付きに来たが、私はすぐさま右手の<邪獄樹の棍棒>を振る。

 再び直撃した棍棒は見事にロックセンチピードを壁に叩きつけた。

 今度こそ追撃だと思い、私は一瞬の【身体強化】を足に使って一気に前に出る。


 すると壁に叩きつけられたロックセンチピードが待ってましたとばかりに動き始めた。

 おそらく吹っ飛ばすだけなので、そこまで大きなダメージは与えられていないのだろう。

 私に向かって再び高速で噛み付きに来た。


 これは避けられないと思った私は咄嗟(とっさ)に左手の防具で受け止める事を選択。

 鉄の腕防具でも潰されるかもしれないが、それでもこれ以外に防ぐ手段が無い。


 ガキン!!


 一撃で鉄の腕防具が変形し、自分の腕に食い込んでくる。

 しかしロックセンチピードの牙は届いていないようだった。

 私は牙で挟まれたままの腕を強引に壁に押し込み、ロックセンチピードの頭を壁に固定する。

 そして右手の<邪獄樹の棍棒>を胴体に振り下ろした。


 ドガン!!


 「ギィィィィッ!??!」


 ロックセンチピードが激しく身をくねらせて暴れる。

 それはそうだろう、岩の様に硬い甲殻を持つからロックセンチピードという名前が付いているんだ。

 にも関わらず、その甲殻は一撃で砕けており、中の肉も潰されている。

 私の左腕を噛み千切ろうとしたお返しだ。


 身をくねらせるだけではなく、その身を私に絡ませてくるロックセンチピード。

 しかし私はレッドオーガになって引っ張り、無理矢理に引き剥がす。

 そして足で踏んで攻撃し、ロックセンチピードに無理矢理ダメージを与えていく。


 ドゴッ!! ドゴッ!!


 「ギィッ!! ギィッ!!」


 引っ張ると身をくねらせるが、タイミングを合わせて踏めばダメージを与えられる。

 しかし踏むだけでは大したダメージを与えられない。

 私が困っていると、ロックセンチピードは私の腕に絡まるだけではなく締め上げて来た。


 ムカデの体は甲殻があるものの柔らかい。

 私は腕が強い力で締め上げられるので、それに対抗しようと引っ張った。

 頭は今も壁に押し付けていて固定されている。

 だからこそ締め付けて来る右腕を引っ張る事で引き千切ろうと考えた訳だ。


  ギチギチギチギチギチギチギチ……!!


 「ギィィィィィッ!?!!??」


 流石に胴体が引き千切られるのは嫌なのか、締め上げていた私の右腕を離すロックセンチピード。

 しかし私はそれで済ませる気など無い。

 今度は私からロックセンチピードの胴体を掴むと、今度はブルーオーガになって引き千切ろうと引っ張る。


 「ギィィィィィィィッ!??!!!」


 ドゴン、ドガン、ドォン!


 激しく暴れて抵抗、いや、苦しむロックセンチピード。

 明らかに苦悶という形であり、身をくねらせるというよりも悶え苦しんでいるのが正しいだろう。

 そう思えるほどの暴れっぷりだが、私は逃がす気など無い。


 「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」


 ピチピチピチピチ、プチプチプチプチ……!!


 「ギィィィィィィィッ!?!?!」


 「かぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 ブチィッ!!!


 「ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!!!!」


 流石のブルーオーガの力か、私は統率者であるロックセンチピードの体を引き千切る事に成功した。

 こうなれば後は放っておいても死ぬだろう。

 だが左腕をやってくれているのだ、ここで終わらせる事などしない。


 私はとっくに牙が外れて噛み付かれていない左腕を壁から離す。

 そしてロックセンチピードの頭を地面に落とすと、<邪獄樹の棍棒>を拾って頭に振り下ろしてやる。


 ズドォン! ドゴォン!


 何度も何度も頭に打ち込み、完全に潰れるまで攻撃し続けてやった。

 その結果、ロックセンチピードの潰れた頭が地面の染みとなり、私は完全に殺したのを確認して離れる。


 いや、大変だったな。

 明かりも微妙に見えているだけで、薄暗い闇の中の戦いだった。


 「アッシュ、ようやった!!

 まさかロックセンチピードの統率者を引き千切るとは思わんかったわ!!」


 「いや、必死だったよ。

 【身体強化】の段階を二段目に上げないと引き千切れなかったくらいだ。

 あのロックセンチピードの統率者は強かった」


 「普通は無理じゃからな? 強かったも何も、引き千切れる事がビックリでしかないわい。

 アッシュでは半分以上見えておらなかったであろうが、それでも手探りで掴めれば戦えるという事じゃのう。

 いやいや、本当に良かったわ」


 「それよりも統率者に噛まれた男は大丈夫か?」


 「アレは駄目じゃ。ここをワシが塞ぐから、すぐに町に戻らねばならん。

 それでも腕を切り落とす事になるじゃろう。

 ロックセンチピードは毒を持っておらんが、そもそもここにおるような虫が清潔な訳が無い。

 どんな汚れが入って病気になるか分からん。

 なので、どうしようもあるまい」


 「分かった。とりあえずロックセンチピードの死体と、あの男は私が担いでいこう。

 ロッドン殿は塞ぐのを頼む」


 「任せておけ」


 私はランタンを拾って左手に持ちながらロックセンチピードの胴体を左腕に巻きつける形で持つ。

 そして「ブツブツ」言っている男を無理矢理に抱えると、私は入り口に向かって走り出した。


 後ろからロッドン殿がついてくるが、男が穴を掘った所で立ち止まり魔法を使い始める。

 少し経つと何かが崩れる音がしたので塞いでくれたのだろう。

 私は一気に走って戻り、坑道を出たら治療院まで急ぐ。


 前に私が連れて行かれたのは神殿だったが、アレは神殿に浄化の女神の女官や【浄化魔法】が使える神殿長が居たからだ。

 しかし今回は毒が関係ないので治療院になる。


 私は治療院の扉を開いて駆け込んだが、中に居た者に悲鳴を上げられてしまった。

 そういえばロックセンチピードを持っていたのを忘れていたな。


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