03-15-0095
Side:アッシュ
オゥリーの町に着いた次の日。私はハンター協会に出向いて情報収集を行っている。
朝食は既に済ませているが、ロッドン殿も一緒だ。
とはいえ一緒に居るというだけで彼は何もしない。
あくまでも監査役であって、私が不正をしていないかを見張る役目なのだ。
なので多少のアドバイスをする事もあるらしいが、基本的に監査役は何もしない。
もちろん試験を受けている者が失敗した時の為に、依頼を解決できるハンターが監査役を行っている。
今回は鉱山の坑道を掘っていたら、モンスターが大量に居る空洞にぶつかったというものだ。
だからこそ地下や洞窟の得意な山髭族のロッドン殿が、今回の事の監査役に選ばれたという訳だ。
鉄級への昇格試験は鉄級か銀級。
そして銀級への昇格試験は銀級が監査役をすると決まっているそうだ。
「下の級位の者が監査役をするのもおかしいし、本当にそれをすると下の級位の者に横暴を働く者が出かねん。
級位が低いという事は実力も低いとなるからの。
もちろん銀級は別なのだが……」
「金級は礼儀作法などがメインだからですね?」
「うむ。金級に上がる試験は、そもそも貴族が執り行うと決まっておるのだ。
貴族が問題無しと言った礼儀作法などを身に着けておるからこそ、金級は貴族になったり近衛騎士になったり出来る。
言い換えれば実力も礼儀作法も知識も身に着けたのが金級じゃ。銀級はあくまでも実力のみ」
私は道具屋に行くついでに話を聞いていたのだが、まさか金級の試験を担当しているのが貴族だとは思わなかった。
ハバン殿が金級にならないのは、むしろそれが理由の気がするな。
貴族と関わりたくないから銀級のままなのでは……?
「ランタンとオイルとスコップですね? 中銀貨1枚と小銀貨1枚になります」
私はお金を支払ってランタンとオイルとスコップを手に入れると、早速ハンター協会で聞いた4番坑道に向かう。
どうやらそこが空洞に当たった坑道らしいのだが、ここが一番有力視されていなかった坑道だったようだ。
順番に番号が振られているが、どうにも4番坑道は出て来る鉱石の質も良くなかったらしく、それ故に螺旋に深く掘られていたらしい。
その途中で空洞にぶつかり、その結果大量のモンスターに追いかけられたそうだ。
途中で採掘者の一人が【土魔法】を使って天井を崩落させたので無事だったが、私はそこを掘って先に進まねばならない。
そういう意味では、二重に面倒臭い仕事とも言える。
まずは掘って開通させねばならないし、場合によってはロッドン殿に協力を頼まねばならないかもしれない。
「ロッドン殿に協力を頼む事もあるでしょうが、その時はお願いします」
「事と次第によっては、というところじゃの。
何を考えておるかは何となく分かるが……」
「モンスターの規模によっては、数を減らした後で再び崩落させる必要があるかもしれません。
一度で殲滅出来ればいいですが、出来なければモンスターが地上に出てきてしまいますからね」
「それなら構わん。スコップでやっておっては殺されるかもしれんからのう。
流石に鉄級の試験でそこまでしろとは言われんよ。
銀級の試験でも文句は出んじゃろうの。
そもそも試験はどこまでの依頼なら熟せるかの確認なのだからな」
「つまり鉄級の仕事が熟せるだけの実力がある、そう認定されれば鉄級に上がれるという訳ですか。
ですが一人ですよね?」
「そう。だからこそ鉄級からは数が少ないのだ。
一人で鉄級下位の仕事が熟せるだけの実力となると、数は一気に減る。
なので銅級までと鉄級からは実力に大きな差が出来てしまう。
それも仕方がないのだがな」
私は4番坑道という木の看板がある所までやってきた。
鉱山自体は町の中というか、鉱山の周りに町が出来たのが正しい。
なので町中から出ずに坑道まで行ける。
私は坑道の前で既に明かりを点けていたランタンを左手に持つと、右手にスコップを持って入って行く。
まずは坑道が埋まっている場所まで行かねばならないが、それがどこかは分からない。
まずはそこまで行って、距離を把握するのが最初だ。
「しかし……坑道というのは思っていた以上に暗いな。
ランタンを買ってきたから明かりがあるが、かつての時代には松明を使っていたと聞く。
山髭族が活躍するはずだ」
「そうじゃの。ワシらは他の種族のように明かりなんぞ無くても分かるからのう。
だからこそワシらが今でも掘ったりしておるのだがな。
運ぶのは明かりがあれば十分だが、掘るのは簡単ではない。
それ故に暗闇でも見えるワシらが活躍するのだ」
「活躍するのも分かる。
もし何かあって明かりを失ったら、他の種族じゃまともに戦うのは無理だ。
そもそも敵の位置が分からない」
「うむ。暗闇ではそれが大きいし、敵の位置が分からねば戦いようが無い。
殺されるだけになってしまうからのう。
ヴァンパイアも夜目が効くから大丈夫じゃが、それ以外は難しかろうよ。
光妖精族と闇妖精族は魔法でどうにかなるが、他は赤髪の者くらいか……」
「そういえば光妖精族は必ず金に白が混じっており、闇妖精族は必ず黒い髪で生まれるという。
あの2種族も何かあるのだろうか? 神との関わりが」
「さあのう。聞いた事が無いが、確かに不思議と言えば不思議じゃ。
………それはともかく音がせんか?」
「なんだろう、この音?
………もしや、モンスターが土砂を掘っているのか? 出てくる為に」
私はロッドン殿と頷き合うと、急いで先へと進んで行く。
途中で螺旋になっている部分に入ったので進んで行くと、音がどんどんと大きくなってきた。
いったいどういう事だと疑問に感じながらも進んでいると、途中でパッタリと音がしなくなる。
私達は更に焦って急行すると、埋まっていたと思わしき場所を発見した。
埋まって“いた”という言い方なのは、誰かが人が通れる程度に掘った跡があるからだ。
「なぜ掘られているんだ? しかもこんな綺麗に「ギャァァァァァァッ!!!」通れる形で……」
悲鳴が聞こえて来たので慌てて駆け付けると、灰色の甲殻を持つ大きなムカデに噛み付かれている男を発見。
どうやら昨日の酒場の男のようだ。
あの男は確かに茶色の髪だったが、何故穴を空けたんだろうか?
「おそらく昨夜バカにされた事に怒って、アッシュを出し抜いて解決してやろうとでも思ったのじゃろう。
右腕に噛み付かれておるが、アレは助かるまい。切り落とすしかないわ」
「アレがロックセンチピードというモンスターか。
確かに石みたいな甲殻をしているが、あんなに大きいとは」
「おそらくは統率者であろうよ。流石にあそこまで大きなモンスターではないからな。
それよりそこの愚か者。お前は邪魔じゃから、さっさとこっちへ来い!」
「た、助けて! 助けてくれぇぇぇぇぇ!!」
「分かったから、さっさとこっちへ来い! 邪魔じゃ!!」
「助けて! は、早く、早く助けてくれよ!!!!」
「だったら、さっさとこっちに来い!!
おのれが邪魔でモンスターと戦えんのだ!!」
「早く助けろよ!!
こんな所で死ぬのはイヤだぞ、チクショウ!!!」
「駄目じゃ、あやつ錯乱しておる!
鉄級になれておる癖に、下らん事で錯乱しおって!!」
「ロッドン殿。私が前に行ってブッ叩く。
そして更に押し込むから、怪我人を引っ張って後ろに行ってくれ!!」
「了解じゃ。早くせんと首に噛み付かれて殺されるぞ!」
「今行く!!」
私は異空鞄に右手を突っ込み<邪獄樹の棍棒>を取り出す。
ズッシリとした重みを右手に感じながら吶喊。
男の右腕に噛み付いているロックセンチピードの頭に振り下ろす。
しかしロックセンチピードは当たる前に口を離して後退。
私の攻撃は空振りだったが、ロックセンチピードを離す事には成功した。
ロッドン殿は未だに「ギャーギャー」五月蠅い男を引っ張り、後ろへと下げていってくれた。
私は左手のランタンで照らしつつ、右手の棍棒を構えて様子を見る。
「カチカチカチカチカチ……」
ロックセンチピードは牙か顎を鳴らしているらしい。
おそらく威嚇だろうが、戦いはここからだな。




