03-14-0094
Side:アッシュ
「あーりゃ、駄目だね。
残念だけど、お前さんの勝てる相手じゃないよ。
大人しく引っ込んでな」
「なんだと? オレは鉄2級だぞ。あいつはまだ銅10級じゃねえか。
銅級のヤツに勝てねえとか、何も分かってねえな」
「何も分かっとらんのは、お前じゃバカもんが。
アッシュは半年経たずに鉄級への試験を受けに来たのだ。
お前はいったい何年掛かって鉄級になったのだ? 答えてみろ」
そうロッドン殿が言うと、周りが「ざわざわ」し始めた。
もしかして半年経たずに鉄級への昇級試験を受けるのは早いのか?
私だけでなくラブも似たようなものなのだが……
「マジかよ。半年経たずに鉄級って……いったい何をやってきたんだ?」
「相当のモンスターを倒してきたのかもしれねえが、それだけじゃ貢献度は足らねえはずだぞ。
そこの地域に貢献しなきゃいけないし、モンスターを倒すだけじゃ銅の10級までは半年じゃ上がらねえ」
「なら不正か何かじゃねえのか?
新人が半年も経たずに鉄級への昇格試験を受けるなんておかしいじゃねえか!」
「おかしくはないぞ、アッシュはそもそも巡回狩人じゃ。
しかもマスターから直々に命じられてなっとる。
逆に言えば、それだけの実力があると最初から認められておるのよ。
なんといっても闘技場で22年も闘士をしておったからの」
「そりゃ駄目だ。最初から実力があるんじゃ、半年で上がってくるだろう。
中には真面目に戦いをやってる、もしくは危険を売りにしている闘技場もある。
そういうトコでやってきたんなら、実力は十分だろうさ」
ロッドン殿はあえて言わなかったが、私が違法闘技場の奴隷闘士だった事は知っている。
しかも多くのモンスターや種族を殺してきた事も含めてだ。
それでも、そこを言わなかった事には感謝する。
過去は過去、今の私は巡回狩人だからな。
「ケッ! どうせ見世物ヤロウだろうが。
そんなもんに負けるほど、オレは柔じゃねえっつうの。
見てろよ」
「おっ、またバカがパフォーマンスをするらしいぞ。
意味があんのか知らねえけどよ」
「ちげえねえ。わはははははははは………!!」
なんだか周りが笑い始めたが、男は酒場の店主に何かを注文した。
すると、店主は何かを皿の上に乗せて持って来たが………アレはなんだ?
「見ろ、コレはオゥリーの町の近くによく生ってる<ヤッツガの実>だ。
皮が驚くほどに硬いが、中身は美味い果物なんだ。……見てろよ?」
男は丸い果物である<ヤッツガの実>を手に取ると、凄い速さ………と本人は思っている速度で剝き始めた。
右手にナイフを持っていたから予想は出来ていたが、いったい何の意味があるのだ?
「そら、コレで終わりだ。
この硬い<ヤッツガの実>が、オレの手に掛かるとあっさりと切られちまうんだよ。
お前も実力はあると思い込んでるんだろうが、調子に乗らない方がいいぜ?」
「またバカがいつもの事をやってやがる」
「アレに何の意味があるってんだか」
「「「「「「「「「「わはははははははは………!」」」」」」」」」」
何やら恰好をつける感じで言っているが、周りは笑っていて恰好がついてないぞ?
しかも周囲の者の言う通り、アレにいったい何の意味があるんだろうな。
単に解体が上手いと言いたいのだろうか?
戦闘には然して役に立たない技術だと思うのだが……
「チッ! コレは簡単な事じゃねえんだぞ。
しっかりと切れるところを考えて、素早く力強く切らなきゃいけねえんだよ!
そんな事も分かってねえ奴らが偉そうに言うんじゃねえ」
「だったらてめぇ、その魔銅のナイフじゃなく鉄のナイフでやってみせろや。
鉄のナイフで出来たらオレ達も認めてやるぜえ?」
「前々からずっと言ってるのに、意地でも魔銅のナイフでしかやらねえ。
だからバカにされんだよ」
「「「「「「「「「「はははははははははは………!!」」」」」」」」」」
それは駄目だな。
技術を誇りながら、実際には良い道具が無ければ出来ないなど。
それは道具に頼ってるっていうのと同じであり話にならない。
「くっそ、てめぇら………!
だったらそこの巡回、てめぇこっちに来てやってみろ!
簡単じゃねえってのが、よーく分かるからよ!!」
「仮にアイツが出来なくても、やってる事が魔銅のナイフ頼りなのは変わんねえけどな」
「「「「「「「「「「ギャハハハハハハハハハハ………!!」」」」」」」」」」
「………」
あの男、酒を飲むのも忘れてプルプルしてるけど大丈夫か?
そのうえ酒の影響か、目が据わってきているぞ?
おかしな事をしないだろうな?
そう思っていると、ロッドン殿が小声である事を言って来た。
それを聞いて悩んだものの、まあいいかと思って私は男の前にまで歩いて行く。
「よく来たな。そら、お前の腰のナイフでやってみせろ」
「この<ヤッツガの実>とやらの中身を出せばいいのか?」
「そうだ。お前じゃどう考えても無理だろうがな。
鉄のナイフじゃオレ以上の腕が無いと無理だからなー……」
随分と酔っているのか、既に頭が左右にフラフラと揺れている。
私はその男の目の前で右の手の平に<ヤッツガの実>を乗せ、そして握った。
「なに訳の分からねえ事をしてやがる。さっさとナイフ抜いてやれ!」
私は酔ってフラフラしている男の前でゆっくり息を吸い、そして
グシャッ!!
「中身は出たが、コレでいいか?」
「………」
「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」
「………ぷっ、あはははははははははははははは!!!」
「アッシュならその程度の事など簡単にするわい。
ワシからすれば、いったい誰に喧嘩を売っとるんじゃという話でしかないわ。
ワシと一緒に騎士達ですら叩き潰したんじゃぞ。
しかもワシの方は8名だったが、アッシュの方には10名も居たのにだ。
そなた自分だけで10名の騎士を叩き潰せるのか?」
「あははははは………はー、笑った。
けど、そりゃ無理だろうさ。
というか、そこまでの強さならマスターが巡回狩人に命じるはずだ。尋常じゃない強者じゃないか。
それにしても………まさか<ヤッツガの実>を握り潰すヤツが居るなんて思わなかったよ」
「ワシもアッシュの本気がどこまでかは知らぬからのう。
実際にはその程度ではなかろうよ。
世の中には上には上がおるのだ、級位で上でも実力も上とは限っておらん。
それは理解しておけ」
「チッ………」
私は自分の席に戻るとロッドン殿に断りを入れ、そして宿へと戻った。
呼ばれたのは食事が終わったタイミングだったので、ちょうど良かったのもある。
私は握り潰した所為で汚れた右手を振りつつ、どこかに井戸が無いかと探す。
運よく見つけたので水を汲み、手を洗ったら宿へと戻った。
鉱山へ行くのは明日だし、まずはハンター協会に行って情報を仕入れるのが先だな。
坑道と言っても幾つもあるらしいし、どこが空洞を掘り当てた場所かは分からない。
その辺りの確認も含めて明日からだ。今日は夕方に町に着いて宿と酒場だけだからな。
まあ、仕事が終わったら帰るだけなんで、この町の事を把握する必要はない。
巡回狩人の仕事とは違い、今回のは鉄級への昇格試験だからな。
町中の事を情報として送る必要も無いので、鳥便は使わなくてもいいだろう。
何がしかの問題が起きれば使うが、今は使う必要も無いからな。
それよりも魔力の練習をして寝るか。
馬車の中でも暇なのでやっていたが、魔力を動かしたり、デュジュ殿の細い【身体強化】の練習はしている。
上手くいっているとは言い難いが、毎日続ければ上達するだろう。
どうせ寝ている間に魔力は回復するので、寝るまでは修行だと決めている。
途中で寝るのだし、寝るまでの暇潰しと考えれば丁度いい。




