03-13-0093
Side:アッシュ
昨日は王城に行ったり下賜されたり、妙な近衛に絡まれたりとあった。
が、今日からは王都を出発するので離れられて楽になる。
妙な事に巻き込まれるくらいなら、さっさとヴァルカネッサ地方のオゥリーに行きたいものだ。
王都に居るより揉め事に巻き込まれないで済む。
ロッドン殿と共に移動馬車に乗ると、私達はゆっくりとオゥリーの町へと向かって進む。
前回とは違って武器を出していない為、他の乗客の邪魔にはなっていない。
ロッドン殿の得物はメイスなので邪魔にはなっていないが、私のはポールアックスだったからな。
アレは邪魔になっていた。
そもそもハンターは荷物が多いので嫌われやすい。
御者は護衛代わりになるので嫌う事は無いそうだが、他の乗客はそうでもないとロッドン殿は言う。
「今は乗客がおらぬから言えるが、ハンターの装備が汗臭い事もあるのだ。
ワシは清潔にしておるし、付いておっても酒の臭いだろうがな。
しかし中には汚れが付いたままでも気にせん者もおる。
特に馬車内は他の客とくっつくぐらいの事もあるし、それぐらい混む事も珍しい訳ではない。
その距離で臭いのは大変じゃからな」
「そこまで臭いんですか……」
「ワシのようなハンターでさえ、鼻が曲がると思えるほど臭い者もおるぞ?
おそらくそやつの鼻はバカになっておるのであろうが、周りからすれば臭くて仕方のないヤツはおるのだ。
自分の臭いは臭くても慣れて分からぬようになると言う」
「私は大丈夫ですかね?」
そう言いながら自分の臭いを嗅いでみるものの自分の臭いなだけによく分からない。
臭いのかそうでないのか……分からないというのは困ったものだな。
「アッシュは大丈夫じゃから安心せい。
そもそもだが、お主香料入りの石鹸を使うとるじゃろ。そこまで気を使っとるのであれば何の問題も無い。
ワシが言うとるのは、家畜の糞を踏んでも気にせず乗って来るヤツとかの事だ。
せめて靴を綺麗にしてから乗れというんじゃ」
御者が大きく頷いているので、本当に家畜の糞を踏んだまま乗って来る者が居るらしい。
それは嫌われるし、当たり前の事だろう。
むしろ何故落としもせずに乗り込んでくるのか意味が分からない。
「不思議じゃろ? しかしそういう気にせんヤツというのは世の中におるのだ。
アッシュも遭えば分かる……としか言えん。もし遭うたら、コイツかと分かるはずじゃ。
そういう碌でもないのが世の中には居る、という事は覚えておいた方がよい」
「分かった。とはいえ御者も頷いているくらいだし、本当に居るのだろう。
何度考えても何故なのか分からないが」
「分からんでもええわい。
あんな奴らの事など、理解できるようになったら終わりよ」
そう吐き捨てるようにロッドン殿は言うので、どうやら本当に碌でもない連中らしい。
とはいえ移動馬車に乗っている間、ずっと家畜の糞の臭いがするとなれば、吐き捨てたくもなるのだろう。
私には経験など無いが、嫌な事だというのは想像だけでも分かる。
実際に遭いたくないぐらいには、想像でも分かるのだ。
だからこそ、踏んでも気にしない者が理解できない。
そんな雑談をしつつも今回は順調に進んで行き、馬車に乗って2日目の夕方にはオゥリーに辿り着いた。
それでも体が硬いというか、馬車内でジッとしているのも疲れる。
なので馬車が休憩で止まる毎に体を解していたのだが、やっとそういう事からも解放された。
既に夕方なので宿へと急ぎ、部屋を確保したら酒場へ。
相変わらずロッドン殿は酒を飲んでいるが、私は食事と少々の酒だけを頼んで待つ。
ちなみにロッドン殿は私が幾ら飲んでも酔わない事を知っている。
その事を話した時には同情されてしまったが。
私としては別に酔いたい訳でもないので、このままで構わないのだが、ロッドン殿にとっては同情するぐらいの事らしい。
そこまでの事かと思ってしまうが、それも私が酔えないからそう思うのだろうか?
そんな事を考えていると、酒場の一角が急に騒がしくなった。
「さあ、さあ、挑戦する者は居ないかい!
あたしに勝ったら金か体か、どっちでもくれてやるよ。
挑戦するヤツは居ないのかい?」
何故か酒飲み対決を求めている女が居た。
体が大きいし背が高い所を見るに、おそらくオーガ族だ。
あの種族も酒飲みが多いが、たぶん相当に強いのだろう。
でなければ自信満々に挑戦者を求めたりはしない。
「へっ、今日こそお前を叩き潰してやる!!」
「また、お前かい。
何回やっても勝てないんだから、止めりゃいいものを……」
「ウルッセエ! 今日こそ絶対に勝って、お前を抱いてやる!!」
「まあ、あたしはタダ酒飲めるなら何でもいいけどねえ。
それじゃあ、始めようか!」
どうやら酒に強い女性が挑戦者を募り、そいつのお金でタダ酒を飲んでいるらしい。
なかなかに豪快な女性だと思うが、大丈夫なんだろうか?
「心配するなアッシュ。ああいう女は大抵どこかと繋がっとるか、それとも確実な強者じゃ。
まあ、ここには大したハンターが居らぬからな。おそらくはどこかの紐付きなのであろう」
ロッドン殿が酒を飲みながらそう言うのだが、一斉に周りの目がこちらに向いた。
ロッドン殿は山髭族だ、小さい声で喋っているつもりでも声が大きい。
本人としては聞かれないように喋っているのだろうが、あの声の大きさでは聞かれる。
「なんだと、テメェ! オレ達が弱いって言うつもりか!!」
「おお、聞こえとったか、すまんのう。
とはいえ訂正はせんぞ、唯の事実じゃからな」
「なにぃ! オレは銅7級のドエラルだぞ!!」
「ワシは銀4級のロッドンじゃ。で、銅7級がどうかしたか?」
「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」
周りで殺気立っていた者達も、ロッドン殿が銀4級と聞いて完全に黙った。
そもそもオゥリーの町には強いハンターが居ない。だからこそ私達が来る事になったのだしな。
ロッドン殿よりも上の級位の者は居ないだろう。
「ほう、銀4級とは凄いねえ。あたしは鉄10級のジャネスだよ。
確か銀4級のロッドンといえば、王都で有名なヤツじゃなかったかい?
なんでオゥリーくんだりまで来たのやら?」
「鉄10級がおるとは知らなんだが、国からの依頼じゃ。
ここの鉱山でモンスターのおる空洞が見つかった件で来た。
と言ってもワシは監査役。
ここにおるアッシュが解決する事で、鉄級への昇格となる」
「あー、なるほど。アレを昇格試験にしたのかい。
なかなかに豪快な事をするけど、大丈夫なのかね?
ストーンゴーレムやロックセンチピードも居るって聞くよ?
その所為であたしも行く気が無くなったくらいだ。
あんなの相手にしてたら、武器が幾つあっても足りないよ」
「そこまで硬い連中が出て来るのか。通りで誰も解決せんはずじゃ。
ワシのメイスであれば問題が無いが、金の無い連中の装備ではキツかろう。
しかもストーンゴーレムとかいうガラクタまで居るのではのう……」
「ガラクタ?」
「ああ、アッシュは知らんか。
ストーンゴーレムは何の収入にもならん、倒すだけ損なモンスターなのだ。
無駄に時間と労力が掛かる割には、唯の石じゃからの。持って帰っても売れる訳がない。
しかし石である為に硬く、簡単には倒せん。
苦労をする割には何の実入りも無いとなれば手は出さんよ」
「嫌われて当然のモンスターだな。それでこの町のハンターは入らないのか」
「生活が出来ないんだから当たり前さ。
下っ端が手を出したって路頭に迷うだけ、なら儲かってる金の有るハンターに何とかしてもらうしかない。
特に金の有るハンターは大抵が上の級位であり強いからね。それ待ちだったんだよ。
そしたらまさか鉄級への昇格試験にされちまうとは……。どうなっても知らないよ?」
「銀級が居るんだから問題ねえだろ。
そこの体がデカイだけの役立たずでもよお」
横で酒飲み勝負をしていた者が言うと、周りの者も笑うが特に何とも思わない。
ああいうのは闘技場にもよく居たし、大した実力も無い輩だった。
正しくは実力が無いからこそ、すぐに軽口を叩くのだ。




