03-12-0092
Side:アッシュ
近衛の隊長が謝罪しているものの、大きな咎めは無さそうな感じだ。
元々王様が許可を出していたし、暴走して王様を殴ったならともかく、すぐに押さえて手から奪ったしな。
あれなら特に問題は無いだろう。
それよりも王様の近くに控えていたのが近衛騎士団長だとは思わなかった。
むしろ他の近衛より目立たなかったんだが、アレってワザとか?
実力者ほど目立とうとはしないって言うし、その通りなら相当の強者という事になるな。
戦う気なんて最初から無いが、なるべく近づかないようにしておこう。
「これで分かったであろうが、<邪獄樹の棍棒>はアッシュに引き継がせる。
これ以上は異論を挟まぬな?」
「はい。失礼いたしました」
「うむ、それならよい。
ようやく現れた真に扱える者だ。かつての将軍も喜んでおろう。
ついでだ、異空鞄も持って参れ。アレも今の内に渡しておく」
「ハッ!」
いくうかばん? 聞いた事が無いが、何かの鞄なのだろう。
どういう物か知らないが、私は背負い鞄を持っているのだがな。それも大きいヤツを。
なので小さい鞄を身に着けろと言われても困るのだが……
しかし王様から下賜された物を身に着けぬ訳にもいかないし、困ったな?
近衛騎士が手に持って現れたのは、なんだかよく分からない小さな物だった。
なんだアレは?
「アッシュが困惑しておるようだが、これは異空鞄と呼ばれる物だ。
かつて初代の王が神から授かり、その後は蛮族将軍が武器を入れる為に使っていた鞄となる。
<邪獄樹の棍棒>が危険だったのでな。これに入れて持ち運ばせたという」
「その鞄の中に……ですか?」
「うむ。コレの中はどこか別の場所と繋がっておるようでな、中に入れた物の重さが無くなるのだ。
すぐに取り出す事も出来て大変に便利な鞄となる。
かつての時代に下界の者に下賜されていたが、いつからか神が下界の者に下賜される事は無くなったと伝う」
「重さを感じない………。そのような貴重な品をよろしいのですか?」
「ハハハハハハ、気にする必要は無い。
そもそも初代の王が神から賜った鞄はもう1つある。
これは武器などを持ち運ぶ為の小さな物でな。あまり多くの物は入れられんのだ。
もっと大きな鞄の方は残っておるので、気にせず持って行くがよい。
かつての蛮族将軍も愛用していた物だ」
「ありがとうございます」
正直に言って、重い武器を楽に運べるのはありがたい。
もちろん武器はいつでも出せるようにしておかなければいけないが、それは短剣とナイフで事足りるだろう。
それにこれからは鉱山に行くのだし、あの重い武器を手に持って歩くのは困りものだからな。
本当に助かった。
「そなたはこれからヴァルカネッサ地方のオゥリーに行くと聞く。頼んだぞ」
「ハッ!!」
なるほど。これだけの物を下賜するから、絶対に鉱山の件は解決しろという事だな。
マスターは金鉱脈が眠っていると言っていた。
国としては、これだけの物を下賜してでも金鉱脈を確保したいのだろう。
とはいえ莫大な富が得られるかもしれないとなれば、惜し気もなく下賜するのは分からなくもない。
私自身は知らないが、それほどまでに金鉱脈というのは大きいのだろう。
元々私に課せられた仕事だし、解決するつもりだから問題は無い。
ちなみにだが、ラブは既に王都におらずに旅の途中のはずだ。
私はオゥリーの鉱山を解決する事で鉄級に上がるのだが、ラブは別の仕事をクリアする事で鉄級に上がる。
それぞれ個人で受けて解決しないと鉄級には上がれない。
ラブがどんな仕事を受けたのかは知らないし、教えてはもらえない事のようだ。
ラブなら問題無いだろうし、私より先に解決して戻ってきているかもしれない。
唯でさえ私は襲われた事で帰ってきているからな。遅れている。
明日から出発だが、早めに行って解決しないといけないな。
時間が掛かると評価が下がるかもしれないし、私だけ鉄級に上がれないなど笑い話にしかならない。
さっさと解決して来なければ。
王様に頼まれた後は二言ほど王様が話して終わりとなった。
王様が出ていく際にも片膝を床に突いて見送り、それが終わったら異空鞄を身に着ける。
剣帯に似たような部分があるので、そこを腰に付けて装着するらしい。
少々剣帯の邪魔だが、武器を持ち運ぶよりは遥かに便利だ。
右腰の短剣、左腰にナイフ。そして腰の前に異空鞄が来るようにした。
これなら咄嗟の時すぐに取り出せるだろう。
私は鞄を開けて<邪獄樹の棍棒>を中に入れようとする。
すると吸い込まれるように入り、中に入ると重さを感じなくなった。
流石は神様から下賜されたという物だ。
とんでもない物だという事がよく分かる。
私は上げていた前垂れのような部分を前に持って来て垂らし、謁見の間を出ようとすると止められた。
「すまぬが、少々待たれよ。
陛下はそなたに任せると仰られたが、我々は納得「やめよ」してはおら……」
「そなたら実力の差が分からんのか?
メリアストルの暴走を一人で止められる時点でお前達に勝ち目など無い。
下らぬ事をしようとするな、恥晒しめが」
「………」
「気に入らんというのならば、貴様の父親に報告しようか?
その結果どうなるかは、私にとってどうでもよい事なのだがな?」
「失礼する……!」
「「「「………」」」」
何故か私に話しかけて来た近衛とその取り巻きは、私を睨んだ後に去っていった。
意味が分からないが、いったいどういう事なのだ?
「すまぬな、私は近衛騎士団長のサーヴァイクという。
あの者は侯爵令息であり面倒なヤツなのだ、父親である侯爵閣下はそうでもないのだがな。
私は陛下から近衛騎士団長の任を命じられているが、子爵家の当主でしかない。
それが気に入らんのか、ああやって仲間を連れて度々下らぬ事をするのだ」
「そうですか………。仮にやっても侯爵家の名に傷が付くだけでは?」
「その通りだ。だから周りが止めるというのに、その事もまた気に入らんらしい。
子供過ぎて呆れて来るが、近衛はあんな者も受け入れねばならんのだ。
ある程度の家の者でないと、他国から人を招いた場合に困るからな。
貴族の護衛を庶民にさせる訳にはいかん。それをすると我が国が笑われるのでな」
「なるほど。確かにそれはそうですね」
「うむ。それよりも、あの者達が絡むといかん。早く城から離れるとよかろう。
君には、せねばならん事があるのであろう?」
「はい。それでは失礼します」
「ああ、頑張れよ」
私は近衛騎士団長に一礼して去るが、あの方は相当に強いな。
おそらくだが、私では勝てぬ可能性が高い。
牛人族の方だからか力も強そうだし、何と言っても手練手管が凄そうだ。
立ち姿でもそうだが、強者は皆あんな姿だった。
いつでも対処が出来るというべきか、すぐに動ける態勢を維持している。
かつて闘技場で戦った連中の中にも、ああいう者は何人かいた。
実際に強者だったし、レッドオーガになっても苦戦したぐらいだ。
出来る限り戦いたくない。
まあ、私が王城に来る事なんて滅多に無いだろうし、近衛騎士団長と争うような理由も無いだろう。
なので、そこまで心配はしていないが、何かそういう事に巻き込まれでもしたら分からないからな。
気を付けるに越した事は無い。
今までなら笑い飛ばす事なのだが、実際に王城に呼ばれてしまったからな。
何が絡んでくるか分からない所が怖い。
臭い女繋がりで揉め事に巻き込まれる可能性が否定できないのが何とも……
少なくとも貴族夫人であった可能性が高いのだ、臭い女達はな。
バレていなければいいが、バレていたら何をされるか分からない。
私としては仕事だったので熟していただけだが、夫としたら妻に手を出した者だ。
それを考えると面倒な事になったと思う。
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