03-10-0090
Side:アッシュ
あれから2日経ち、今日は王城へと登城する日となる。
朝から王城へと行くのだが、何故かわざわざ馬車に乗って行かなきゃいけないらしい。
荷物は全てマスターの執務室に置かせてもらったので、誰かに取られる心配は無い。
ロッドン殿は私が王城に登城するのを待つとの名目で、最近はずっと酒場に入り浸っているそうだ。
何だかんだと言っても銀級、お金を持っているので一月や二月仕事をしていなくとも問題なく暮らせるだけの蓄えはある。
なので何の問題も無いと言っていた。
私は馬車に揺られながら王城まで移動し、その後は城の一室に連れて行かれて髪などを整えられた。
髭も一応剃られたが、私は髭が何故か生えないのだよなぁ。
昔から不思議だし、闘技場の奴隷仲間はボーボーに生えているのばかりだった。
見比べては不思議だと子供の頃に思っていたが、奴隷仲間は「こんなもん無い方が楽だ」と言ってったっけ?
闘技場に立つ前は毎回自分で剃っていたようだし、いちいち面倒臭かったに違いない。
私は未だにその面倒臭さが無いので分からないが……
それはともかく綺麗にされた後、庶民用の貸し出し衣装に着替えて謁見の間へ。
教えられた位置へ行って立ち、合図があるまで適当に待つ。
既に周りには近衛騎士などが居て、こっちを見てヒソヒソと言っている。
爺さんことルグゥトエン卿が、「ヒソヒソと下らん事をやってくるだろうから無視しておけばよい」と言っていた。
こうやってヒソヒソと話しているような態度をする事で、初めて来た者を失敗させようとするらしい。
こちらを見て何かを言っていると気になるしな。
そういった事を繰り返す事で平常心を失くさせようとする。
そういう下らない事をやる連中だと教えてもらっていた。
そして、この連中は想定通りの事しかしていない。
何だか憐れに思わなくもないな。
私が周囲のヒソヒソ話を無視していると、効かないと思ったのか無くなった。
どうやら本気で嫌がらせの為だけにやっていたらしい。
その行動が近衛にあるまじき情けない姿だという自覚は無いようだ。
だからこそルグゥトエン卿が教えてくれたのだし、無視する事で馬鹿馬鹿しさを教えようとされていた。
とはいえ、ヒソヒソと下らない事をしていた連中は気づいてもいなさそうだがな。
今度はカチャカチャと音をさせ始めた。
剣などを持っているから音がするのは仕方ないのだが、ワザと大きめの音をさせているのだ。
どうしても集中力を失くさせて失敗させたいらしい。
あまりに小さくて情けない姿に同情も湧かないな。
こいつらは纏めてバカで終わるだろう。
そんな事を考えていると「ドドドドドドッ……ドン!」と太鼓を叩く音が聞こえたので、私はすぐに膝を地面に突いて頭を下げる姿をとった。
この形で迎えなきゃいけないらしい。
「ホルヴァラム・ルードセウブ・デュ・ガルセンツ5世陛下が入られます。一同、礼!!」
この時の一同に私は入っていない。
ここの一同は、あくまでも近衛や貴族に対してのものだ。
ただし客だと先に礼をしなければいけない事に変わりなく、それは他国の外交官などでも同じなのだと聞いた。
他国でも客などの方が先で、自国の者の方が後となる。
例外は他国の王と王族のみらしい。
王や王族は当然立ったままだし、そもそも待たせるような事をしない。
もちろん迎える側は王なのだが、自分の子も他国では丁重に扱われるので丁重に遇するのだそうだ。
「ホルヴァラム・ルードセウブ・デュ・ガルセンツ5世陛下が着席なされました」
「皆の者、面を上げよ」
そう言われたので顔を上げると、玉座には人間によく似た風貌の方が座っていた。
この方が国王陛下か。妖人族の方だから歳は結構いっているはずだが、見た目は若いな。
とはいえマーヤも言っていたが、妖精族は死の間際にガクッと歳をとるという。
王様の見た目が老化したら死が近いという事にもなるので、それはそれで問題があるという事にもなる。
若い見た目なのは、まだまだこの国が安泰な事を意味しているのだろう。
「そなたがアッシュか。一度会うてみたかったのだ」
そう言うや否や、王様は玉座から立ち上がり私の近くまで歩いてきた。
周りの近衛も「ざわざわ」し始めたが、「口を開くな!」という一喝で黙った。
というか一喝したのは女性だったのだが、まさかアレが近衛の隊長か?
「ふむ………確かに報告の通りに灰色の髪であり、その中に青白さが混じっておる。
ルグゥトエン卿の申す通り、邪神に浄化の女神の加護が混じっていると見て間違いなさそうだな」
「ハッ! 私もそれ以外には無いと思うております。
ただし神殿は絶対に認めぬでしょう」
「さもありなん。
かつての時代に邪神の女官を処刑してしまった神殿は、何があっても認める事はあるまい。
今だに邪神を悪だと断じておるくらいだ。
下界の者が神々の事に口を挟むべきではないと言いながら、邪神を捻じ曲げて悪し様に罵っておる」
「かつての事を失敗だったとは認められぬでしょう。
そもそも神に従う女官を勝手に処刑するなど、神々に対する叛逆に等しきこと。
それを無理矢理に正当化する為に、邪神を悪の神と断じたのです。
下界の者が勝手に……!」
「うむ。
神殿のもっとも大きな過ちであるが、大きすぎるが故に彼奴らが認める事はあるまい。
それ以降、浄化の女神の加護を受けて産まれる者は極端に減ったという。
邪神と浄化の神は対となる神なのだ、当然であろうがな」
「はい。
互いに互いを必要とする神であり、どちらかが倒れては成り立たぬ神とも言われます。
それ故に下界に<混沌の種>が撒かれる事となってしまった。
そもそもですが、この世の穢れを生み出しているのは我ら下界の者でございます」
「そうだ。我らの所為で邪神という神は滅ばざるを得なくなってしまった。
それが正しき事である。
にも関わらず邪神が倒れられた際、混乱した神殿の愚か者どもは最低な事をした。
浄化の女神だけでなく、他の神にも半ば見捨てられているのも仕方あるまい。神殿はな」
「書物の通りであれば、神々とてやりたくはなかったこと。
されど神々でさえ救うこと叶わず、邪神を細かく砕く事しか救済する方法が無かったのです。
それを勘違いした神殿の愚か者は……」
「邪神が神々に砕かれた事を悪徳な神であったからと決めつけ、そして彼の神に従う女官を処刑した。
それも何らの罪も咎も無き者をだ。許される事ではない」
なんだか私に言っているというより、この場に居る者達に言い聞かせている感じだな。
となると邪神が悪徳な神だと思っている者は多いんだろう。
ここでわざわざ説明するくらいだし。
しかしなぁ………そんなものは関係なく持ち出す者は居ると思うぞ?
この場でも話半分にしか聞いていない者も居るだろう。
所詮は縁遠い話だし、興味など無いだろうからな。
そんな中で王様の声が響き渡る。
「仮に神々から厳しき罰が落ちたとしても、我が国はその者を生贄に出して済ませる。
一切庇う事も無いので、そのつもりでおるがよい」
「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」
どうやら下らない事をやらかしそうなのを先に牽制しておいたようだ。
先ほど王様が言っていたように、神々の罰として何が起きるか分からないんだ。
【生魔法】は治療だが【浄化魔法】は毒などを除去できる。
どちらも王族にとっては助かるものであり、手放したくないものなのは間違いない。
その為の牽制というならば、よく分かる。
それぐらい、どちらも大事だからな。
「それでは、ここにおるアッシュに下賜するのだが、まずは扱えるかどうかを見ねばならん。
運んで参れ」
「「「「「「「「「「ハッ!」」」」」」」」」」
近衛騎士が謁見の間から出るが、既に近くに用意されていたはずだ。
それを持ってくるだけなんだと思うが………
近衛隊長がジッとこっちを見て来ている。
怒りとか嫉妬などという感情ではないのが気になるが、私は流し続けるだけだ。
絡まれたくないしな。




