03-09-0089
Side:アッシュ
「しかしアレだな、私が神子と言われても困るのだが?
あくまでも、そうかもしれないというだけであろう?
いきなり言われても訳が分からぬし、私はそうは思えぬのだがな」
「まあ、いきなり神子だと言われても困るでしょうよ。
私だって<混沌の種>を吸収できると知ってなきゃ信じないぐらいだし、普通は鼻で笑うような事よ」
「まあ、あり得ねえって思うものの、じゃあなんで<混沌の種>を消したり吸収できるんだって言われたら答えられねえしな。
となると爺さんの予想は否定できねえわけで……」
「まあ、神様の生まれ変わりだろうが子供だろうが何でもいいよ。
大事なのはアッシュが<混沌の種>を消せるって事さ。
その一点こそが大事なのであって、他はおまけみたいな物だと思えばいい。
それより陛下からの褒美ってなんだい?」
「ああ、それなー………アッシュの事を聞いた陛下が面白がったんだよ。
それでここに来たんだけどよ」
「面白がった?」
「ワシもおったのだがの、陛下はこう言われたのだ。
「扱えるのならば、宝物庫の物を持って行ってもよい」とな。
周りに居並ぶ者らも驚いたが、持って行っても良いと言われたのは2つ。
1つは初代剣王が使っておった<不壊の剣>。
もう一つは初代の陛下と共に地域を平定したという、蛮族将軍が使っておった<邪獄樹の棍棒>」
「どっちも笑いそうになるだろ? 我が国にとったら国宝だぜ、どっちも。
オレだって欲しがっても手に入らねえもんだ。それを惜しげもなく持って行っていいなんてな。
とはいえオレに使えるのは<不壊の剣>ぐらいだが」
「<邪獄樹の棍棒>は使えないのですか?」
「アレはのう………かつての蛮族将軍がどう使っておったか不明なのだ。
唯の棍棒にしては物凄く重いので扱いにくい。
そのうえ邪獄樹という極めて危険な物で作られておる。
ちなみに邪獄樹とは邪気に染まってしまった木の事じゃよ。
種類はなんでもいいのじゃが、邪気に染まった木は全て邪獄樹と言われるのだ」
「それだけではない。邪獄樹は触れると意識を奪われ暴走するのだ。
持った者を無差別に暴れる狂戦士に変えてしまう物、それこそが蛮族将軍の愛用した棍棒となる。
蛮族将軍は完全な狂戦士にはならなかったと書かれている書物もあって、判然とはしていないのだがな」
「だが、今までに試しで持ったヤツは皆が暴走しちまってる。
怪力自慢の者も、神殿の高位司祭も駄目だった。
最高位の【浄化魔法】を使ってもらっても、暴走するって部分は無くならなかったんだよ。
しかも腐らず朽ちず、未だに当時のまま残っている棍棒でもある」
そっちの方が暴走するよりも凄い気がするのは気のせいだろうか?
初代王の物語は有名ならしく、私が聞いた話では1000年以上も昔の事だという。
聞いた相手は臭い女だったが、自分の知識を披露できると上機嫌な女であったな。
それはともかくとして、私なら持てる可能性があるから<邪獄樹の棍棒>が選ばれたのだろう。
どういう物か知らないが、強力な物なのであれば欲しいという思いはある。
ただ、簡単にくれるという話でもなさそうだ。
「いや、陛下は簡単にくれるだろうさ。
あの方は宝物庫の中で腐るより、誰かの役に立った方が良いとハッキリ言う方だ。
ただ………近衛が五月蠅い。
自分達でも扱えねえ代物をハンターが扱う。そこに色々とケチをつけて来るのが居るだろうって事だ」
「仮に文句をつけてくるのならば、そやつに持たせればよいのだ。
おそらくじゃが、アッシュに邪獄樹の邪気は効くまい。
ならば正当に扱えるアッシュが持つのが一番良いわ。
なにより邪獄樹の棍棒は重い、そんじょそこらの力ではまともに使えん」
「蛮族将軍が、そもそもサイクロプスだったと言われてるからなぁ。
だからこその重てえ棍棒なんだし、それを振り回してたんだ。
そう簡単には振り回せねえ代物なんだが……」
「今の近衛1番隊隊長は蛮族将軍の末裔じゃからな。挙句あやつは一度失敗しておる。
かつて邪獄樹の棍棒を下賜してもらおうとして暴走したからの。
その失敗があるだけに、余計に五月蠅かろうよ」
失敗したとなれば五月蠅く言ってくる可能性は高いな。
強力な武器ならば欲しいが、しかし王城に行って難癖まで付けられるとなると……
わざわざ取りに行く価値があるのか? と思ってしまう。
どうにかして辞退できないものだろうか?
「アッシュが面倒臭えから辞退したいってツラしてるぞ? 気持ちは分かるが諦めろ。
陛下からの下賜を拒否する事は出来ねえ。追っかけ回されたくなけりゃ受けるんだな。
陛下の下賜を拒否するってのは、陛下の顔に泥を塗る行為だ。流石にそりゃ許されねえ」
「王様の顔に泥を塗る気などありませんが、面倒なのがなんとも……」
「ま、気持ちは分かるわい。
近衛の連中というか、武にある連中も醜い嫉妬をするからのう。
武にある者が文官と変わらん事をするなと言いたいが、今や武の者も高位は貴族の子ばかり。
これでは醜い争いをするのは当然じゃ」
「ウチの兵士達も喧嘩はするが、醜い嫉妬とか下らない事はしねえな。
ま、オレがそんな事するぐらいなら、殴り合いで決着付けろって言ってるからでもあるが……」
「それが一番良かろうよ。下らぬ嫉妬など、国に害しか与えん事だ。
そんな害しかない事を何故するのか理解できん。無駄でしかあるまいに」
「侯爵家の爺さんには分からないんだろうさ。
それはともかくとして、そういうこったから今日と明日、アッシュにはみっちりと宮廷作法というものを教えてやる。
最低限だが、それで登城する準備は整うだろ。
後は貰って帰るだけだ。………バカが絡んで来なきゃな」
「ま、とりあえずアドマグス卿とルグゥトエン卿はよろしく頼むよ。
陛下からの呼び出しは3日後だからね。
急いでアッシュを仕上げなきゃいけない」
「陛下もお忙しいからの、そこは仕方ない。
それに下賜されに行くだけじゃから、面倒な仕来りなどを覚える必要も無い。
後は綺麗に礼をしたり立ち姿が出来るかどうかじゃ。
そっちの方が大変だが、そこは頑張るしかないの」
そう言われ、私は立ち居振る舞いを教えてもらう。
もらうのだが………
「出来てるな?」
「出来とるの?」
「出来てるね?」
「一度で簡単にやったけど、むしろ知ってたという方が正しいわね?」
「まあ、知っていたと言えば知っていた。
正しくは闘技場の女オーナーから叩き込まれたというべきか。
臭い女達の機嫌をとる為に必要だからと、立ち居振る舞いからダンスまでやらされた。
というか、子供の頃は闘技場の手伝いとそればかりだったな」
あれは大変だったが、それでも闘技場の雑用に比べれば楽でもあった。
なので学ぶ事はそれなりに好きなのだ。
あの時間は疲れる事もそんなに無かったからな。覚えるのが大変だっただけで。
「これなら2つ3つ教えりゃ終わるな。
男爵の妹だから大した事までは知らなかったんだろうが、それでもここまで教えられりゃ十分か。
最下級の男爵家じゃ、知らん事も多いだろうし」
「じゃの。楽で助かるわい」
どこで覚えた事が役に立つかは分からないな。
御蔭で王城に行くのも楽で済みそうだ。
とはいえ嫉妬をされる可能性があるのと、近衛の隊長から面倒な事を言われる可能性がある。
それだけが気がかりだが、それを言っても逃げられない。
拒否できるのならしたいが、拒否できない為に行くしかないのもある。
王様が何故そこまでして私に下賜するのかは知らないが、絶対に行かなくちゃいけない以上は、何かしら裏側の事情もあるのだろう。
でないと私のようなのを呼ばないだろうしな。
本当に下賜するだけなら、適当に渡して終わりでいいはずだ。
それも王城の誰かが渡せばいいだけで、わざわざ王様が出て来る必要なんて無い。
にも関わらず、だからな。




