03-08-0088
Side:アッシュ
朝食を酒場でとった私は、その足でハンター協会へと行く。
荷物を返してもらわなきゃいけないからだ。
そう思って入ると、サブマスターからすぐに2階の執務室へと行くように言われた。
なので従い、すぐに執務室の前まで移動してノックする。
コンコン
「アッシュですが、サブマスターに言われて来ました」
「入りな」
「失礼します」
ガチャッ
本当はその「失礼します」で帰りたいのだが、そうも言っていられない。
しかし私がマスターに話す事などあったか?
あの後の事は申し訳ないが、私に聞いても何も答えようがないぞ。
「マスター、私にいったい何用でしょうか?」
そう問うたものの、中のソファーには3人の男性が座っていた。
一人は昨日も居たマーコック卿だが、コレはどうでもいい。
それよりも一人は筋骨隆々の人物で、もう一人は老人だ。
筋骨隆々なのはオーガ族かな? 髪は赤髪なので火の神の加護持ちだ。
もう一人の老人は白い髪だ。ただし白の中に紫が混じっている。
あれは……
「ワシの髪が気になるかね? これは知識の神の加護じゃよ。
それよりコレを持ってくれんか?」
「は? えっ? ………<混沌の種>?」
「爺さん早すぎだろうよ、若者がビックリしてるぞ。
まったく、相変わらずだが新しい事が分かるとコレだ。
他のヤツの事など考えもしねえ」
御老人は私の手の上に乗せた<混沌の種>を見ながら必死にメモをとっている。
どうやら研究肌なのだろう、オーガ族の方の言う事も耳に入っていないらしい。
そのオーガ族の方は苦笑いしている。
「本当に昔から変わりゃあしねえ。
オレが王都の学び舎に通ってる頃もこうだったんだぜ?
教師の癖に気になったら授業もせずに、自分の研究を優先してたくらいだ。
その癖、教え方は一番上手いっていうんだから納得いかねえよ」
「そこまで言っても話を聞いてないみたいだけど?」
「放っとけ。爺さんはそうなったら納得するまで無理だ、戻って来ねえよ。
それよりアッシュっていうお前さん、なかなかに良い体してるじゃねえか。
ウチの騎士団に入れたいぐれえだが……」
チラリとオーガ族の方がマスターを見るも、マスターは無言で顔を左右に振る。
なぜ無言なのだ? 普通に口で否定すればいいだけだろうに。
「簡単じゃ。陛下がお主を巡回狩人にしておきたいという事よ。
とりあえず観察は終わったし消えたでの、次はコレを吸い込んでくれ」
「分かりました」
私はステージ1の小さな<混沌の種>を吸い込みすぐに消す。
すると興奮した御老人は次々に私に吸収させていく。
いったい何がしたいんだろうか? 訳が分からないままにやらされているが……
「爺さん、そろそろ説明してやらないと可哀想だぜ? オレ達も何も聞いてないんだからな。
…………駄目だ、また帰って来なくなりやがった。仕方ねえ、こっちの用件を先に終わらせるか。
そこのバカは後で謝れよ、いつも言ってやってるってのに直しゃしねえ」
「………」
「マーコック卿は正しいんだけど、その反面喋るのが下手で誤解を受けやすいんだよ。
アッシュが<コッカトリスの毒>にやられた時も「庶民の命など捨て置け」と言ったが、アレは国家にとって騎士達を王城に運ぶ方が大事だからさ」
「そんな事を言ったの?
言い方ってものがあるでしょうが! わたしの仲間よ!?」
「おお、こりゃシャレにもなってねえな。
オレンジ髪の妖精族の仲間となったら、流石に悪く言うのはマズい。
ま、オレじゃないからどうでもいいがな」
「………申し訳なかった」
「それだと悪いから謝ったっていうより、アンタを怒らせたくないから渋々謝ったって感じにしかならないよ?
むしろ邪魔してないかい?」
「むー………そんなつもりはなかったんだけど、確かにそうなってるかも」
「それは横に置いといてくれ。
それよりも今回の事で阿呆を炙り出せたんでな、アッシュには陛下が褒美をってさ。
本来なら王城に招く訳にはいかねえが、<コッカトリスの毒>なんつー危険な物を使う連中は一つしかねえからな。
ついでにそっちも潰せるんで、陛下もホクホクだ」
「<コッカトリスの毒>は極めて毒性の強い危険な猛毒だ。
使うのは<ソードモラ教>の連中しかいない。
アレらは何でもありの教団だし、スラムの子供などを連れ込んでは邪教に染め上げちまう。
そんな最悪の連中だ」
「ああ。そしてそいつらに対して手を出す事が可能になったってわけだ。
今まで表に出て来ずコッソリしてた野郎どもが、今回は表に出て来た。
そして裏に居る阿呆は奴らと連絡をとる手段を持っているって訳だ。
そいつを手に入れれば……」
「一網打尽ってわけね。
そこまで上手くいけばいいけど、肝心の貴族が暗殺されたらどうすんのよ?」
「既に鳥で手紙を送ってある。
向こうで確認されたらすぐに動くだろう。腐ったヤツはウチの隣の隣なんでな。
そして隣のヤツは昔からの知り合いだし、オレ以上に国の為にならねえヤツが大嫌いなヤツなんだよ。
だから確実に証拠なんぞを確保してくれる」
「それならいいけど、アッシュへの褒美ってなに? 死にかけたんだから結構な褒美を貰わないと損よ?」
「というか、<コッカトリスの毒>を喰らって生きている方が驚きだがな。
オレも浄化の女神の石像が光ったとか言われて半信半疑だったが、少なくとも喰らったヤツがこうして生きているくらいだ。
事実なんだろうさ」
その話をされても困るのだが、聞かれても素直に答えれば済むか。
そもそも私は知らないんだから答えようがないしな。
それより吸収はいつまで続くのだ? 私は澱のような魔力が増えるからいいが……
「ぬう! まさか<混沌の種>を全部使い切っても分からんとは思わんかったわ。
むむむむ………別の所から<混沌の種>を運ばせねばならんな」
「止めてくれないかねえ? せっかく王都から<混沌の種>が無くなったってのにさ。
また持ってこられても困るんだよ。
それにアッシュには消していってもらわなきゃいけないし」
「仕方ないのう。
とはいえ想像で何となくの当たりはついておるのだがな」
「へえ、そりゃなんだ?」
「おそらくこの者が綺麗にしておるのは邪気じゃ。
かつて邪神が集めていた物と言われておる」
「そんなもんだったのかよ? 腐った神様の力とか勘弁してくれ」
「ばっかもん!!! 何を勘違いしておるか!
邪神とはこの世の穢れを集め、一心に受け止める神ぞ!」
「いや、だから……」
「違うわ!! かつては邪神がおられたからこそ、邪気が世に広がらずに済んでおったのだ!
しかし邪気の多さと重さに耐えきれなくなった邪神は、他の神々に頼んで己の全てを砕いてもらったと言われておる。
それが今は<混沌の種>と呼ばれておる物じゃ。
そういう伝承が神殿にはある」
「神殿に? ならば<混沌の種>を吸い取れるこの者は……」
「邪神の生まれ変わりの可能性がある。
邪神は一説には非常に濃い灰色の髪だそうじゃ。
が、この者はそこに青白さが混じっておる」
「白に青さが混じってるって、浄化の女神?」
「そうじゃ。
邪神と浄化の女神は、対の神であると伝えられておる。
つまり邪神の生まれ変わりに浄化の女神が加護を与えた。そう考えるのが自然であろうな。
実際に<混沌の種>を吸収しても問題なく、しかも浄化しておるのはそういう事だと考えられる」
「という事は、アッシュは神子ってこと?」
「あくまでワシはそう思うというだけじゃ。
神殿などは絶対に認めまいがな」
神殿以前にそもそも私がその事を信じられんのだが………。
神の生まれ変わりとか言われても、意味が分からない。
私はそんな生き方などしてきていないぞ?
むしろ底辺の生き方しか知らないぐらいだ。




