03-07-0087
Side:アッシュ
「ぬ………?」
私は起きたが、どうやら寝ていたらしい。
先程なにかの夢を見た気がするが、夢らしく全く覚えていない。
というか、ここは何処なのだ?
薄く何かの光が漏れて………ここは神殿か?
上の方の窓から私の顔に光が当たっていて、それでどうやら目が覚めたらしい。
起き上がった私は、寝ていた自分の右にある大きな像を眺める。
確かこれは浄化の女神の像だったような……? 臭い女が熱心に崇めていたのを思い出す。
神殿では小さな神を模した像を買えるらしいが、それを持って熱心に祈っていたな。
何故か自分の体と心が清められるようにと願っていたが、だったら私の所に来るなと思ったものだ。
それも熱心に来ていた女の一人だったからな、余計に冷めた心で見ていた。
体と心を清めたいのであれば、尚のこと来る所を間違えておるとしか思えなんだからな。
ガチャッ!
「うん?」
音がしたのでそちらを向くと、何やら白い服を着た女性が入って来たのが見えた。
その女性は淡々とした表情で私の前まで来ると、何の感情も浮かばないような表情で私に問いかけて来た。
「貴方は何者ですか?」
「…………これは唐突な質問だな。
何者かと問われて、正しく答えられる者が果たしてどれだけ居るのだろうか。
私は私、だとしか言えないな。それ以外の答えは無理だ」
「では質問を変えます。貴方はいったいどのような種族ですか?」
「生憎だが、私は自分の生まれも両親も知らない。
分かっているのは物心ついた時には既に違法闘技場で働いていたこと、そしてその後に奴隷闘士として22年働かされた事だけだ。
だから私は私が何の種族なのかも知らない」
「………そうですか」
「それがいったい何か?
ここは神殿だし、段々と思い出してきたが、確か私は<コッカトリスの毒>にやられた筈だ。
貴女が助けて下さったのかもしれないが、それと私の種族に何の関係が?」
「<コッカトリスの毒>など、神殿長ぐらいしか浄化できません。
ですが神殿長は現在シュトムナートの町へと出ており不在なのです」
「なら私はどうやって助かったので?」
そう聞いた途端、淡々とした表情の女性は浄化の女神の像を見る。
私も釣られて見るものの、唯の石像でしかない。
いったいどういう事だ?
「貴方がここに運ばれた時、既に意識不明の状態でした。
そしてこの浄化の女神の像の前を通ったその時、像から光が溢れたのです。
そして光が治まると貴方の毒は消えていました」
「………聞きたい事は色々とあるのですが、まず一点。
何故、私の体から毒が消えたと分かったのですか?」
「私は浄化の女神の女官です。
それぞれの神様に奉仕する女官がそれぞれ居ますが、私はこの髪の通り浄化の女神の加護を頂いています。
ですので【浄化魔法】が使え、その中には【毒探知】の魔法があるのですよ。
それで調べれば、体の中に毒が在るか無いかは分かります」
「なるほど。で、毒を調べたら無かったので、私の毒は綺麗に消えていたと?」
「そうです。
神の御業としか思えない光景であり、長く神に奉仕してきた私にとっても初めての光景でした。
それ故に聞いているのです、貴方は何者ですか? と」
女官殿は先程の淡々とした顔ではなく、今度は熱の篭もった真剣な眼差しで聞いてきた。
しかしなぁ………それを聞かれても困る。
「申し訳ありませんが、先程と同じ答えしか返せません。
そもそも私自身が聞きたいぐらいなのです。
私の種族もそうですが、年齢も生まれも何もかもを私は知らない。
その私に聞かれても困るのですよ」
「しかしで「お止めなさい」すね……」
別の声が聞こえてくると、そちらには随分と歳のいった黒髪で褐色の女性が居た。
どうやら闇妖精族の女性らしいが、あの年齢だとかなり上の方だろう。
きちんと座っておかねば。
「まだ病み上がりでしょうから構いませんよ。
それよりもクーレイア女官、それぞれの方に歩んできた道というものがあります。
それは軽々しく聞いてよい事ではありませんよ」
「副神殿長、仰りたい事は分かります。しかしこの方の髪は灰色ですが、青白い灰色なのです。
私のような青白い色ではなく、灰が混ざった青白さ。で、あるならば、他の神の加護も混じっています。
そのような事は聞いた事がございません」
「神殿の戒律を忘れましたか? 加護の全ては神がお決めになること。
そこに下界の者が口を挟んではならない。
貴女のしている事は、貴女が信ずる神様を疑う事に他なりません」
「………」
私としては妙な追及が無くなってくれれば何でもいいのだが、何か話が重くなってしまったな。
「私は知らない」で終わる話なのだが、この副神殿長の話し方だと私が隠しているという風にもとれる。
なんだかなぁ……
「とにかく助けて頂いた事に違いは無いようですし、喜捨を……」
「ありがとうございます。
が、私どもは何も出来ていません。なので少なくして下さい。
正当ではない過分な物を頂いては、よろしくありませんので」
「分かりました。それではこちらを」
私は小銀貨で2枚出したのだが、副神殿長は1枚受け取っただけであった。
なので一枚を戻す。
私は相場を知らないので、どれだけ渡していいか分からないのだ。
それが終わると、私は逃げるように挨拶をして神殿を後にした。
なんだかちょっと居づらかったのもある。
流石に言い争いを目の前でされても困るのだが、私としては突っ込まれても答えようが無いからな。
そもそも意識が無い間に起きた事を言われても困るし、それを問い詰められても……としか思わない。
「あっ! アッシュ、無事だったのね?」
空から声を掛けられたが、予想通りにマーヤだった。
そのマーヤはすぐに私の左肩に乗ってきたので、そのまま歩きながら話す。
「おっと、マーヤか。
どうやら無事だったのだが、無事だった理由が意味不明で何とも言えない。
それより私の荷物はどこにあるんだ?」
「ハンター協会に全部置いてあるわよ。盗られる訳にもいかないし」
「なら良かった。
ハンター証もそうだが、お金の大半も鞄の中に入っていたからな。
手持ちは小銀貨1枚と大銅貨が2枚しかない。
荷物が無くなっていたら厳しいところだった」
「それより話を聞いて驚いたわよ。
<コッカトリスの毒>が綺麗に無くなったんだって?
それも浄化の神の石像がビカーって光ったら」
「それを言われてもな、私は気を失っていたので分からないんだ。
なので朝から女官の方に問い詰められたのだがな、私は見てもいないし記憶も無い事でしかない。
それを問い詰められても……」
「それは困るわね。自分の知らない事じゃ分からないし、答えようが無いもの。
それより大変ねえ、出発と思ったら盗賊に絡まれるし、その次は暗殺者でしょ?
いったいどんな確率よ、本当」
「それを私に言われても困る。
移動馬車が襲われた以上は戦うしかないし、捕まえてみたらアレだ。
そして護送して来たら暗殺者がやって来るのだから、私の所為ではないと思うぞ?」
「まあ、アッシュの所為ではないわね。
運が悪かったというしかないけど、王城にとったら運が良いのよね。
愚かな貴族家を潰せるみたいだし」
「私やロッドン殿は運が悪かったが、代わりにどこかの領地の人が助かるなら仕方ないか。
それなら諦めもつく」
「一応言っておくと、王城に運ばれた盗賊は無事だそうよ。
それと素直に喋ってるみたい。
流石に自分達がゴネると本当にマズいと分かってるみたいね」
それなら彼らの主の家も助かるかもしれないな。
それよりもロッドン殿と話して、出発の日取りを決めないといけない。
すぐに出発は、おそらく出来ないだろう。
私達も事情を聞かれる可能性が高い。




