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01-09-0009




 Side:アッシュ



 私は穴倉街道において大鼠や兎を捕まえつつ、血抜きの仕方などを習っている。

 本当なら水に漬けておくと更に良いらしいが、この近くには水源が無い。

 なので血抜きだけで済ませるしか無いようだ。


 「血を抜くのもそうだが、何より重要なのは冷やす事だ。

 冷やす事で肉は腐りにくくなるんだが、血の温かさですら肉が腐る原因になる。

 だから早めに血を抜かなきゃいけないんだし、早く冷やさなきゃいけない訳だ」


 「温かさで肉が腐りやすくなる、か。

 まさかそんな事があるとは思わなかったが、こういうのも学ばなければ分からなかった事だ。

 私だけなら適当に殺して持って帰っていたと思う」


 「だろうな、気持ちは分かる。

 オレだって最初はそうだったし、そこからの積み重ねで今があるんだ。

 最初から巡回狩人ってのはキツいが、それでも慣れればやっていけるとは思う。

 今の巡回狩人は元々定住組だ。

 だからこそ上手くいってないのかもしれん」


 「今までと違う事に上手く合わせられないからですか?」


 「ああ、それもある。

 あるんだが………今の巡回狩人は、自分で巡回狩人を選んでる。

 だがな、言葉は悪いが定住狩人として上手くいっていた奴らじゃない。

 むしろ逆で、上手くいってなかったからこそ巡回狩人になった連中なんだ。

 つまり元々の実力が高くない」


 「なるほど。それで成果が上がって無いわけですね。

 元々上手くいっていなかったから、上手くいかないと思い込んでるというのもあるのでは?」


 「その辺りは色々と言われてるが、何が原因なのかまでは分かってねえ。

 もしかしたらだが、マスターはその辺りもお前さんを通して探りたいのかもしれん。

 なぜ巡回狩人が上手く行かないのかをな」


 「私を通して?」


 なぜ私を通してなどという事になるのだろうか?

 元々から巡回狩人は居るのだから、その者達に聞けば済むと思うのだが……


 「アッシュは分かってねえが、元々は定住狩人だって言ったろ?

 つまりそっちで頭が固まっちまってて、巡回狩人として見落としがあるんじゃないかって事さ。

 上手くいかない理由だが、それは巡回狩人と定住狩人では違うかもしれん。

 そこが知りたいわけだな」


 元々は定住狩人をしていた者達だから、定住狩人としての常識で固まっているという事か?

 だから何も知らない私を突っ込む事で、何が問題なのかを浮かび上がらせたいと……。

 おそらくそのようなところなのだろう。


 「言いたい事は分かりましたが、そもそも私では何が問題なのかすら不明では?

 そもそもの知識が無いんですし……」


 「まあ、そうなんだがな。

 ………これは内緒にしていてほしいんだが、巡回狩人を地元の連中が邪魔している可能性もある。

 要するに中央から来た査察か何かと勘違いして敵視してるんじゃないかとも言われてるんだ」


 「査察と勘違いですか………ああ、巡回して回るからですね」


 「そうだ。

 中央の紐付きのヤツがウロウロしていると考えれば気に入らんという連中はいる。

 特に地元出身の奴らというのは郷土愛が強い。

 オレには分からんが、そういう奴らは地元に何かをしに来たと思い込んだだけで邪魔をしてきたりする」


 「私にも分かりませんが、そういう連中が居るんですね。

 覚えておきます」


 「ああ。とはいえ全員が全員そういう奴らでもない。

 駄目な奴は関わらなくてもいいが、極力は挨拶して溶け込もうとするのが大事だ。

 地元の奴らを敵に回しても上手くはいかないしな」


 「分かりました」


 そう返事をしつつ、私は別の巣穴に顔を近づけ臭いを嗅ぐ。

 またもや臭いにおいがしてきたので、この穴の奥にも何かが居る。

 それが分かった私は地面を踏みつけ、そして出て来たヤツを掴んで持ち上げた。

 するとそれは茶色で汚れている耳の長い生き物だと判明。


 「それが穴兎だ。

 茶色なのはそもそもの色だが、兎の中には穴に潜らずに暮らしているヤツもいる。

 そういうヤツの中には緑の毛のヤツとかもいるが、総じて蹴り足と噛みつきが強力だから注意しろ。

 こっちの肉なんて簡単に食い千切るぞ」


 「それは恐ろしいな。

 先程の鼠といい歯が丈夫そうだし、こんなのでやられたら肉が噛み千切られるのも当然か。

 それに結構暴れるんだな」


 「さっきの大鼠が暴れなさ過ぎたとも言えるがな。

 もしかしたら、さっきの大鼠は飢えていたのかもしれん。

 飢えている獣は凶暴になるか、体力も無く動けないかだ。

 動ける体力があれば凶暴になるが無ければ何も出来ん。

 その状態で見極めるといい」


 「という事は、さっきの鼠は穴から出て来る体力はあったという事か。

 無ければ他の者に喰われているかもしれないし、出てきてくれて良かった。

 流石に穴の奥までは手が届かない」


 「とりあえずナイフで兎の首を切れ。

 切る場所は先程の鼠と変わらん。

 首を切って血を出し、そしてある程度の量が出るまでは置いておくしかない。

 斜めでも良いが、なるべくなら下に向けて血抜きがしたいところだ」


 ズ、バッ! ブシュッ……!


 こちらも随分と血が出て来るものだが、首を切られた事で激しく暴れる兎。

 しかしながら私の力には勝てないのか、徐々に体の動きは無くなってきた。

 どうやら死にかけているらしい。


 「死にかけというのも確かだが、それ以上に意識が無くなっているんだよ。

 血抜きに重要なのは生かす事だ。何故なら心臓が動いてないと血は排出されない。

 つまり死んでしまうと血の動きが止まるので、血を出すのが難しくなってしまうんだ。

 だから獲物として持って帰る場合は注意しろ」


 「獲物として持って帰る?

 その言い方だと、持って帰らない物もあるという事ですか?」


 「ああ。そういうヤツは大抵の場合、素材を必要とするだけなんで、その場で解体するんだよ。

 さっき言った虫の甲殻なんかはそれに当たる。

 虫の死体なんて持って帰っても買い取ってくれないんでな。

 解体して素材になる部分だけ手に入れたら捨てるんだ。

 後は喰いたいヤツが勝手に喰う」


 「兎や鼠の場合は違うと」


 「兎や鼠は肉が食えるからな、だからこうやって血抜きなんかをしなくちゃいけないわけだ。

 肉が売れるモンスターは大抵の場合において、しっかりと血抜きをしなきゃ売れない。それは覚えておくといい。

 ま、自分で食うなら適当でもいいんじゃないか? 代わりに不味いがな」


 「それは腐るから?」


 「いいや、そもそも血が臭いだろ? それが焼いた肉にもベッタリ付くんだよ。

 若い金の無い頃はそうやって買い取って貰えなかった肉を自分で焼いて食ったもんさ。

 それが不味いのなんのってな。

 そりゃ買い取ってくれないと納得したもんだ」


 そこまで不味いのか、なら血抜きをしっかりとしてない肉を食べるのは止めよう。

 流石に不味い物をわざわざ食べたくないし、無理に食べる必要も無い。

 それは嫌だから最悪以外は避けたいもんだ。


 兎の血抜きが終わったので一旦王都に戻り、そして肉屋に鼠と兎を売却。

 ちょっとドキドキしたものの、無事に売れて大銅貨4枚と2枚になった。

 兎が4枚で鼠が2枚だ。

 安いなと思ったものの、兎も鼠も持ってくる者が多いらしく安値にしかならないそうだ。


 「売るヤツが沢山いるなら、それだけ安くなっちまうのは仕方ねえ。

 売るヤツが少ないのは高く売れるが、そもそも役に立たねえモンスターを狩っても売れないから金にはならん。

 何が売れるかはその時々によって変わるから、情報収集は怠(おこた)らないようにな」


 ハンターと言っても色々とあって大変だ。

 ただモンスターと戦って倒せばいいだけだと思っていたが、随分と甘かったらしい。

 出発までにしっかりと学ぼう。でないと何も出来ないままになりそうだ。


 そうなったら行った先でも苦労するだろうし、もしかしたら生活が成り立たないかもしれない。

 流石にそれはマズいとしか言えないからな。

 これから生きていく為にも、しっかりと覚えないといけない。


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