01-10-0010
Side:アッシュ
兎と鼠を売った私は、少し早いものの食堂に行って食事をする事になった。
ハバン殿と食事をしつつ、午後からの話をする。
「アッシュはそもそも強いみたいだからな、それなら北に行った方がいいかもしれん。
北というか北東の森での狩りの仕方も教える。
ただし森の中は厄介だから、本来は新人を卒業してからなんだがな。
それでもアッシュならいけるだろ」
「森ですか……?」
「ああ。
敵は藪の中に隠れている事が多いし、木の陰に隠れている事もある。
森に行く前に様々に買わなきゃいけない物があるが、これも必要な物だと思って諦めろ。
お前が行った先にも森はあるだろうから、早めに慣れておいた方がいい」
「分かりました」
食事を終えた私とハバン殿は商業区へと移動し、必要な物を買っていく。
まずは私のズボンと上着だ。
布製の物だが、それなりに分厚い物となった。
なんでも森の中では木々や枝で擦れて傷を負う事があるらしい。
その傷に良からぬ物が入ると、それだけで死ぬ事すらあり得るとのこと。
なので分厚い布製のズボンや上着は必須らしい。
それと中古のブーツを買って武具屋へ。
何を買うのかと思ったら、腕用と足用の防具だった。
腕当てと脛当てだが、腕当ての方は手首から肘までを覆う金属製の物だ。
脛当ても金属で出来ている。
「それらの簡易用防具も咄嗟の時には役に立つ。
モンスターの中には不意を打つのが得意なのが居てな、ハンターの中には腕や足を噛み千切られるヤツが居る。
そうなったらハンターなんて続けられないからな。
だからこれらの防具は必要不可欠なんだ」
「腕や足を食い千切られる……」
「ああ。冗談じゃなくその可能性があるのが森だ。
だから新人には薦めないし、金に困ってる新人は引き留めるのがベテランの仕事でもある。
多くの新人はその簡易防具すら付けてない。だからこそ噛み千切られて死ぬんだよ。
そんなヤツが多いから、いつまで経ってもハンターの数が足りないってわけだ」
「腕や足を噛み千切られたら、その後は生きていくのも大変なんじゃ………」
「まあな。中には再び森に行くヤツも居る。
復讐なのか、それとも絶望して食われに行ったのかは知らねえがな。
そうならない為にも防具は必要だってこった。
舐めてるとあっさり殺されちまうのがハンターでもある」
そうだな。改めて過酷な仕事に就こうとしているんだという事を思い出そう。
それでも奴隷闘士よりはマシだが、死ぬ可能性はあるんだ。
それは忘れてはいけない。
買い物を終えた私達は王都の北門から出発。
歩きつつ北東に見えている森へと進んで行く。
見えてはいたが思っているより距離があって驚いたものの、何とか森に到着。
そして私は進入しようとして止められた。
「待て待て。森は入ると簡単には出られないんだ。
迷ってウロウロし出すと余計に奥に行く事になったりする。
新人は森の出口が見える近くで戦うのが重要だ。
出られなくなったら終わりだからな」
「そんなに迷うので?」
「ああ、森はそっちの方が恐ろしいんだ。
木に傷を付けて目印にしておくとかな? そういう自分だけの目印を付けておくと分かりやすい。
それに、中には誰かが付けた目印もあるだろう。
そういうのがあったら、それを参考にして出るといい」
「つまり迷ったとしても慌てるな、という事ですね」
「そうだ。何よりも慌てておかしな動きをするのが一番マズい。
それをするなら立ち止まって、今の自分に出来る事を考えるんだ。
その方が生き残る可能性は高いだろう。
迂闊に動き回ると状況が悪化する事も多い」
「慌てず、先ずは冷静に、か」
「鳥系の種族の場合は、臭いを嗅いだりして出口を探すらしいけどな。
なんでも風の臭いが微妙に違うらしいぜ?
森の中心とかだと淀んだ風なんだが、出口に近いと新鮮な風の臭いになるんだそうだ。
便利だが、鳥系の種族じゃないと分からんからな」
「もしかしたら自分の鼻でも大丈夫かもしれませんし、参考にさせてもらいます」
「ああ、そういやアッシュは鼻で分かるんだったな。
それなら迷っても脱出できるかもしれないが、まずは迷わない事が重要だ。
決して無理はしないようにな」
その声を聞きつつ、私はゆっくりと森へと踏み込んで行く。
まずは森の入り口が見える所で戦う。決して奥へと踏み込まない。
これを守ってモンスターを探そう。
臭いで分かるかもしれないが、無理をする必要はそもそも無いんだ。
そう思い、私は森の入り口が見える距離までしか入らず、その後は森の入り口を見ながらウロウロしていく。
しかし浅い場所には何もおらず、モンスターの臭いすらしなかった。
「これは駄目ですね。
モンスターの臭いもせず、するのは土と葉っぱの臭いだけです。
踏み込んだ方がいいのか、諦めた方がいいのか……うん?」
奥の方から何か声が聞こえる気がするが、いったいなんだろう?
「奥の方から何か聞こえませんか?
言い争ってるのか、それとも叫んでいるのかは分かりませんが」
「………確かに誰かの声が聞こえるな。
仕方ない、木に傷を付けて進むか」
ハバン殿はナイフを取り出して横線を一本だけ木に付けると奥へと進んで行く。
ある程度奥へと進むと、次の木には二本の横線を付けたので順番なんだろう。
それを見つつ進んで行くと、大声を出している理由を理解した。
「ブルァァァァァァァァァァッ!!!」
「くそっ!! 仲間を殺しやがって!!」
「そこから退け!! この猪野郎が!!!」
狩人のチームが戦っているようだったのだが、既に2名が倒れている。
確実に死んでいるのが分かるが、片方は頭が潰れており、もう片方は右の上半身が食い千切られていた。
そしてモンスターは猪と呼ばれる姿のものだが、高さが私の胸ぐらいまである大きさだ。
私の背の高さが2メートルちょっとなのだから、あれの高さは150~160センチぐらいは確実にある。
信じられない大きさをしているが、それだけに狩人の攻撃は碌に効いていない。
槍で刺そうとしているが毛に阻まれているのか刺さらないようだ。
「クソがっ!! 仲間の仇だ!!」
もう一名が大きくて長い斧を振り下ろしたが、しかし毛と皮に弾かれたのか効かなかった。
この猪、思っているより遥かに強くないか? 武器が碌に効いていないというのは流石に……
「おい、お前ら逃げろ。こいつは森のヌシかもしれん。
迂闊に怒らせた所為で逃がす気は無いようだから、オレ達が気を引く」
「ブルルルルルルルルルッ!!!」
ズドン! ザッザッザッザッ……
地面に足を踏み下ろした後、その足で地面を掻く仕草をしている。
どう考えても突進してくるのは間違いない。
闘技場でも猪型のモンスターと戦った事があるが、総じて突進の威力と毛と皮の厚さに苦労したもんだ。
こいつらは本当に厄介で、とにかくスタミナが多く暴れまわり続ける。
一番いいのは足を潰す事なんだけど、生憎だが今の私は棍棒しか持っていない。
これで何とかするしかないが、ここは私が前に出るべきだろう。
ハバン殿のメインは短剣だからな。
「自分が前に出ます。
過去に何度か戦った事があるので、私の方がおそらくマシでしょう」
「すまんアッシュ、頼む。
オレのメインは短剣だからな。残念ながらこのタイプは不得意なんだ。
おい、今の内に逃げるぞ。準備しろ!」
「なんだと!? オレの獲物を横取りする気か!!」
「そんな事を言っている場合か!
お前らの仲間は2人も殺されてるじゃねーか!」
「五月蠅い! 下っ端が偉そうに口を出してくるな!!
オレは銅6級だぞ!!」
「オレは銀8級のハバンだ!
お前こそ下っ端の癖に調子に乗るな!!」
木級の上は銅級なんだろうか?
一番下と一番上しか習ってないから分からないが、少なくとも銀の方が上な事は分かる。




