01-11-0011
Side:アッシュ
「えっ!? 銀8級? ………本物だ、銀8級。
<黒影のハバン>さんだぞ! 本人だ!!」
ハバン殿は<黒影のハバン>と呼ばれているらしいな。
しかし……そんな事に喜ぶより、早く逃げてくれ。
そろそろ本気でこいつ突進してくるぞ。
「そんな事はどうでもいい!
それより早く逃げるぞ! お前達じゃ勝てん!!」
「そんなこと、やってみなけりゃ分からないだろ!!」
「お前らの武器は何一つ効いてなかっただろうが! いい加減にしろ!!」
「ぐっ………」
「ブルァァァァァァァァァァッ!!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
ドゴォォォン!!!
私は既に息を吸ってレッドオーガ状態になっており、突進してくると同時に棍棒を頭に振り下ろしてやった。
しかし突進の勢いがそれで治まるはずも無い為、私は振り下ろして当てたタイミングで横に跳んだ。
足が速めに横に跳んだものの、猪の突進も結構な速度になっていたのか私とぶつかった。
とはいえ私は腕防具で受けつつ横へと跳んでいたので、そのまま轢かれるという事は無くて飛ばされるだけで済んだ。
いや、済んだと言えるのだろうか? かなりの衝撃を受けたが……
「ゴホッ! ぐっ、痛いがそれでも助かっただけマシか。
それよりモンスターはどうなった?」
私は腕防具を通して受けた痛みに顔を顰めつつも、猪のモンスターを探す。
すると、私の居た場所よりも先で横倒しになっているのを発見。
私はナイフを抜きつつ素早く近づくと、一気に振り下ろして首に突き刺そうとした。
ドスッ………
音がしただけで首の毛と皮を貫く事は出来なかったようだ。
しかし困ったな………
「てめぇ! オレの獲物に何してやがる!!」
「お前達は何も出来なかったんだろうが!
あそこまでにしたのはアッシュだというのに、何をホザいてやがる!!」
「おい、止めろよ。オレ達じゃ勝てなかったんだぞ。
流石にお前が言ってる事はメチャクチャだ」
「だったら獲物を取られてもいいってのかよ!!
オレが見つけたんだぞ!!」
「だけどオレ達は何も出来てなかったじゃないか。
傷も付けられなかったんだぜ? それでどうやって勝つっていうんだ。
それに仲間の事はどうでもいいのかよ。
さっきから「オレの獲物」としか言ってないじゃないか」
「いや、そりゃ………」
「お前、結局は仲間であるオレ達の事なんてどうでもよかったんだろ?
自分が儲かりゃそれで良かったんだよな?
だから儲けが取られるのが嫌で仕方ねえってわけだ」
「いや、そうじゃねえけど……」
「じゃあ、なんだってんだよ!
仇を討ってくれたんだから礼を言うのが先だろうが!!
それなのにテメェと来たら「オレの獲物、オレの獲物」だ。
仲間の事なんざ全く考えてねえじゃねえか!!」
「仲間も2人死んじまったし、オレ達のチームは解散だ。
だがテメェとは2度と組まねえ。
仲間が殺されたにも関わらず自分の事しか考えてねえヤツなんかと組めるかってんだ!!」
「おい、ちょっと待てよ。それは言い過ぎだろうが!!」
「どこが言い過ぎだってんだ。
ハバンさんが邪魔になるから逃げろっつってるのに、それでも獲物がとか言ってたのはお前だろうが!!
そっちのヤツがあそこまで強くなかったら、オレ達まで死んでたかもしれないんだぞ!
死ぬならお前だけで死ね、オレ達まで巻き込むな!!」
「まったくだ。お前なんかと組んでたら、命が幾らあっても足りねえ。
そんなヤツとは組んでいられねえからな、悪いが金輪際お前と組む事は無い」
「チッ、くっそ……! 勝手にしろ!!」
そう言って槍を持ったヤツは走って行ってしまった。
私としては何とも思っていないが、確かに彼は仲間の事より自分の獲物だとしか言っていなかった。
おそらくはアレが彼の本性なのだろう。
「ああいう危機的な時にこそ、そいつの本性っていうのは出ちまうもんだ。
善い悪いは別にして、それでチームが解散なんてよくある事でしかない。
それより仲間達はどうする?」
「オレ達が背負って連れて帰ります。王都で一緒に育った友達だったんで。
あいつもそうでしたが、そう言えば昔からあんな感じだったか?」
「………そういえば、そうだったな。昔から自分の事に関しては五月蠅かった。
となると何にも変わってなかったってわけか。オレ達が忘れてただけで」
「そうだな。
とりあえずオレ達は仲間を背負って戻ります。ありがとうございました」
「ああ、気を付けろよ。
そこまで森の入り口から遠くないとはいえ、迷ったりすると出られなくなるからな。
森を出るのはあっちだ、あっちへと真っ直ぐ行けば出られる」
「ありがとうございます。
そっちの君もありがとう、仲間の仇を討ってくれて」
「いえ、自分は何とかしないとと必死だっただけです」
「それでもあんな凄いパワーで殴れるんだから十分すぎるだろう。
オレ達にとったら仲間の仇を討ってくれた時点でありがたい事さ。
それじゃ」
そう言って斧と剣の2人は仲間の死体を背負うと、ハバン殿が言った方向へと歩いて行った。
それはともかく、首が切れないんだがどうしたら……
「切れなくて困ってるようだが、こいつ虫の息だが死んでないな?
アッシュのパワーを喰らって死んでないとか、どれだけ厄介なヤツなんだか。
ま、オレに任せとけ」
ハバン殿はそう言うと、右腰にある短剣を手に取り……そして離した。
何がしたいのか分からない……と思ったら、突然首から血が噴き出す。
どうやら切ったみたいだが、恐ろしい程に速くて見えなかったらしい。
「音もなく素早く切る。
格好いいが、実は【影魔法】の応用なんでオレ達シャドウしか出来ない。
もし同じ事をしようと考えてるなら諦めろ」
「あ、そうなんですね。
もしかしたらと思ったんですけど止めておきます。
流石に【影魔法】ではどうにもならないので」
「さっきのは武器に影を纏わせて切れ味を上げる魔法だ。
【シャドウエッジ】と呼ばれるものだが、そこまで難しいものじゃない。
あくまでも【影魔法】の中ではな」
「へー………」
私は猪の重い体を持ち上げて、体を斜めにして血を出しながら聞く。
「アレだな。
この体を持ち上げられる馬鹿力の方がよっぽど凄いと思うのは、きっとオレだけじゃないと思うぞ?
正直に言ってコイツ多分だけど1トン超えてるだろ。
それを持ち上げてるっていう自覚は………無さそうだな」
「ですが斜めに傾けてるだけですし、地面から離れるように持ち上げてませんよ?
あくまでも斜めになるように片方を持ち上げてるだけです」
「普通はそれすら無理だと思うんだがな? コイツ間違いなく森のヌシだぞ。
ここまでデカいファングボーアに会うなんて聞いた事も無いしな。
ビッグボーアならこの大きさのも多少は居るだろうが、アレはここまで毛や皮が硬くはないんだ」
「ファングボーア………この牙ですか?」
「そう、この真っ直ぐの槍みたいな牙。これがファングボーアの特徴だ。
他の猪系のモンスターは曲がっているんだけど、ファングボーアは真っ直ぐなんだよ。
だからこの牙は武器に加工される事が多い。
ここまでの大きさだと、さっきのヤツが五月蠅かったのも分からなくはないんだ。
かなりの金額で売れるだろうからな」
「ですが、それは倒せたらでしょう?」
「まあな、だからコイツはアッシュの獲物って事で間違いないさ。
………だから諦めろ」
ハバン殿が諦めろと言った方向から、さっきの槍のヤツが現れた。
どうやらどこかに行くフリをして、私達の隙を虎視眈々と狙っていたようだ。
どうしても諦められなかったんだろう。
明らかに欲に濁った眼をしている。




