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01-12-0012




 Side:アッシュ



 この森のヌシのような大きさの猪である、ファングボーアを倒して血抜きの最中。

 この猪と先に戦っていた連中の一人である槍の男が息を潜めていた。

 仲間割れで去って行ったはずが、どうやら諦めきれなかったようだ。

 欲望に濁った眼をしている。


 「そいつはオレ達が先に狙っていたモンスターだ。

 だったらオレ達の物のはずだろうが」


 「お前の仲間はそんな事を言ってないぞ? オレやアッシュに礼を言って去って行った。

 欲に濁っているのはお前だけだ。仲間達を言い訳に使うな」


 「くっ! だったらそれはオレのもんだ、返してもらうぞ!」


 「何を言っているのやら。

 倒したのはアッシュなのだから、獲物はアッシュの物に決まってるだろ。

 もし先に戦ってたというなら、お前達以前にも戦ってた連中なんて居ただろうよ。

 ならそいつらの物って事になるが………それがいいのか?」


 「そんな奴らは居ない! オレが先だ!!」


 「ここではな? 王都に持って帰って聞いてみりゃいい。

 そしたらお前達以前に見かけたとか、戦ったってヤツは出て来るだろうさ。

 そしたらお前の物じゃないな」


 「…………ふ、ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 槍持ちが槍を構えて襲ってきたが、地面の影が突然伸びて槍を弾き飛ばしてしまった。

 おそらくは【影魔法】なのだろうが、あんな魔法もあるんだな。

 本当に多彩というか、凄いと思う。


 「たかだか銅級のお前如きが、銀8級のオレに勝てると本気で思っていたのか?

 随分とふざけたヤツだが、鉄級にもなれていない分際でよく勘違いできるものだ」


 「…………」


 「まだナイフがあるから負けてない、か?」


 そう言いながらハバン殿はナイフを手の平でくるくる回している。

 あのナイフ………もしかして槍の男の物なのでは!?


 私は慌てて槍の男の腰を見たが、槍の男も気づいたのか慌てて探っている。

 そしてナイフが見つからないらしい。


 つまり先程の影攻撃の間にナイフも奪っていた事になる。

 尋常じゃないな、これが銀8級の実力か。

 本気での殺し合いなら、きっと気づかない間に殺されていると思う。


 槍の男もそれを理解したんだろう、少しずつ後ずさりしながら逃げようとしている。


 「なんだ。あれだけ調子に乗っていた分際で、実力差が分かったら逃げるのか?

 それは随分と甘いと思わないか? なあ!!」


 ヒュッ!!


 そんな音がしたかと思うと、ナイフは槍の男の頬を掠(かす)めて飛んでいった。


 ドッ!


 そして槍の男の後ろの木に刺さったが、男は力が抜けたのか地面に尻をついてしまっている。

 圧倒的な実力差というのはこういう事を言うんだろうなと、私は目の前の光景をボーッと見つめてしまった。

 それくらいに実力差がある。


 「そもそも鉄級にすらなれないヤツが調子に乗ったところで意味なんてねえんだよ。

 悔しかったら鉄級にまで上がってみせろ。

 分かったらとっとと行け、今なら見逃してやる。

 ………行け!!!」


 「!!!」


 槍の男は立ち上がると慌てて槍を掴み、そして後ろの木に刺さっている短剣を抜いて逃げて行った。

 恐怖して逃げた割には一応しっかりと短剣を抜いていく辺り、余裕はあったように見える。

 本当に恐怖に呑まれていたら、短剣や槍なんて置いて逃げるだろう。


 「ハバン殿に脅された割には余裕がありましたね?

 本当に恐ろしいなら武器の事なんて考えず一目散に逃げるでしょうに」


 「まあ、あれぐらいならハンターの性(さが)って言えなくもないけどな。

 いついかなる時も武器を肌身離さず、いつでも戦えるようにしておく。

 已むを得ずに休まなきゃいけない事もある。そういう時は必ず武器を持ったまま休むんだ」


 「武器を持ったままですか?」


 「ああ、絶対に武器から手を離すな。たとえ仲間が居たとしてもだ。

 最悪は仲間だと思ってたヤツが敵になる事もある」


 「………そういう経験が?」


 「何度もある。とはいえ、一度目で警戒は常にするようになったがな。

 とにかく欲に塗れてるヤツは何をするか分からねえ。

 欲に濁った眼を隠して、仮面を付けている連中も居る。

 とにかく他人とは一線を引け、最低限以上は信用するな。

 巡回狩人は地元の者じゃないんだ、そういう難しさもある」


 「外から来たヤツだから、地元のヤツじゃないから何をやってもいいだろうという事ですか……」


 「それもあるが、一番は外から来たヤツを気にしないって事だ。

 長く居るヤツなら変だと思うが、他所から来たヤツが居なくなっても不審には思われにくい。

 だからこそ狙われる可能性が高いんだ。

 定住狩人も地元じゃないなら最初はそうだ。余所者扱いから始まる」


 「厳しいですね………っと、これ以上は血が抜けないようです」


 「デカいからな、これ以上血を抜くのは【水魔法】使いしか無理だろう」


 「【水魔法】使いは出来るんですか?」


 「奴ら水に関係するものなら操れるんだ。

 生きていたら無理だそうだが、死んでいるなら血を操る事も出来る。

 だから【水魔法】使いが居ると血抜きは簡単に終わるんだよ。

 マスターがそうだったらしいからな。

 若い頃はやり過ぎて干物みたいにしちまった事があるらしい」


 「そこまで出来るって凄いですね」


 「まあな。

 何でも金が無くなってきたら、獲物を狩って塩を使い、干し肉を作って売ってたらしい。

 あんまり塩のキツい干し肉じゃなかったらしくて、よく売れたそうだぜ。

 今は【水魔法】使いの連中にそんな仕事を与えてるって聞く」


 「あの塩塗れの干し肉は、確かに食べるのが嫌になります。

 たまにそれだけ出される事があって、仕方なく塩のスープに浸してました。

 どのみち濃くなるだけなんで、スープは捨ててましたね。

 干し肉に残った塩だけで十分すぎるので」


 「あの干し肉はなぁ………干し肉じゃなくて塩肉ってぐらいに酷いからな。

 それより本当に血が出ないなら、この状態で持って帰るしかないぞ。

 アッシュは大丈夫か? 流石に2人でも難しそうだが」


 「ちょっと待ってください」


 私は深く呼吸を行い全身に力を巡らせ、肌が赤くなったら持ち上げる。


 「ふんっ!! ……よし、なんとか大丈夫です。

 このまま王都まで持っていきましょう」


 「1メートルを軽く超えるファングボーアをよく持ち上げるもんだ。

 とんでもないが、さっさと戻るか。

 オレが先を歩いて案内するから、ついてきてくれ」


 「了解です」


 結構な重さをしているが、だが持ち上がらないという程でもない。

 ファングボーアの腹を首の後ろに乗せるような形で持ち上げ、腕と手を使って落ちないように支える。

 力を取り込んで体を強くしておかないと無理なくらいには重いが、流石は大きなモンスターだけはある。


 「見ているだけでとんでもないのが分かるが、その肌の色がレッドオーガの所以か。

 その大きさのファングボーアを持ち上げるパワーなら、そりゃとんでもない戦闘能力をしてるだろうよ。

 そもそも体は大きいが、足の速さも筋力だからな。対応できて当然か」


 「対応できて当然と言われても、私にとってフーダは厄介な相手だったのですが」


 「普通でも厄介なんだよ。

 オレみたいな素早い戦い方を得意とする者でもフーダは厄介な部類に入る。

 それを100体相手にして、普通に勝ってる時点でおかしいんだぞ?

 そのパワーを見てりゃ勝てなくもないのは分かるが」


 「当たるを幸いに武器を振り回してましたし、肌に力を集中するとフーダの攻撃も切れない程度まで弱まるんですよ」


 「………って事は、その力は身体強化系だな。

 ただ、肌が赤くなる身体強化系なんて聞いた事が無いが」


 「身体強化系………確かに体の力は強くなったりしますね。

 甘ったるい香も喉や鼻や目に使えば防げましたし」


 「となると、魔力由来の力って事になるんだが………元から力が強そうだしな?

 アッシュの本当の種族は分からないか」


 力が強くて、魔力で身体強化が出来る………?

 私も聞いた事ないな、そんな種族。


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