03-01-0081
ここから第三章になります
Side:アッシュ
王都に戻って来てから2日後、私は山髭族のロッドン殿と共にヴァルカネッサ地方へと移動を始める。
とはいえヴァルカネッサ地方は王都の隣だった。
正しくは王領という王の持つ領地のすぐ隣だ。
とはいえ爵位は伯爵らしく、最高位の侯爵ではないらしい。
この国では公爵という位は使われておらず、王の親族は一代限りで終わりなのだそうだ。
王族という事は当然のように結婚相手は決められるし、そこに自由は一切無い。
更には王族の子というのは国で定められていて、国に正式に認められていないと王族の子とは認められないそうだ。
本物の王族の血筋であろうとも、国が認めていない子供は全て血筋不明の庶民となる。
これは絶対であり、王国法に定められているらしい。
なので酒場なんかに王族の血を引く庶民が居る事もあるそうだ。
とはいえ国が認めてないし、名乗る事も許されていない。
王族の血筋というのは非常にややこしいので、国が認めた子供以外は一切認めないとなるのは当たり前でもある。
特に国を割った内戦など始められても困るので、当然ながらそういった争いの元になる前に始末されてしまう。
それもまた、王族の血筋に連なる宿命と言えるのかもしれない。
「なので、王族の血筋にあるとホザく者がおったら離れろ。
それが本当だろうが嘘だろうが、確実に揉め事にしかならん。
碌な事にはならんのでな、絶対に関わるな。
ワシも昔絡んで酷い目に遭った。
ワシはそんな嘘を言うなと言った側なのにの、連日の取り調べと牢屋の往復じゃ。
今思い出しても腹立たしい」
「国の態勢を転覆させる、それの協力者かもしれないと疑われたんですか……」
「そうじゃが、否定しても関係なしに取り調べを受ける。
そういう話には非常に過敏に反応するのじゃよ。
当地の貴族も中央に疑われたくはないでな、それ故に徹底的に取り調べを行うんじゃ。
御蔭で本当に酷い目に遭うたわ。取り調べだけで15日間もじゃぞ。
ええ加減にせいと言うしかないわ」
「それは長いな………
まさか15日も詰め込まれるとは思わなかった。
確かに一切関わらない方がいいが、嫌がらせでしてくる事は?」
「それは無いの。
嘘であっても重罪じゃからな、鉱山で死ぬまで働かされる。
それを思えば、そんな愚かな事をするのは血筋に納得できん本物ぐらいであろうよ。
ワシが巻き込まれたヤツも、本物かどうかは知らんがな。
国は絶対に認めんし」
「そう考えると、本当に騒ぐ意味が無いな。
どうしても納得できん者ぐらいか、重罪でも構わずやるのは」
「うむ。とはいえ周りからすれば迷惑でしかないがの。
大通りの真ん中で、騎士と兵士に囲まれてからやれと言うんじゃ。
そうすれば、そやつ一人が捕まって終わりで済む。
にも関わらず聞かせるようにやりおって……!」
「それで巻き込まれたとなる訳か。
とはいえ反論したから仲間かと思われたんだろう?」
「まあ、そうじゃがな。
とはいえアッシュは巡回狩人、様々な所へ行くなら覚えておいた方がよい。
アレらに巻き込まれると、本当に碌な事にならん」
「そのアドバイスはありがたく頂戴しておくよ。
それはともかく、鉱山街というのは荒くれが多そうだが……」
「荒くれと言うよりは、肉体労働の者が多いだけだな。
そしてそういう連中は大抵の場合、殴り合いで決着をつけるというだけよ。
アッシュはその見てくれじゃからな、まず喧嘩は売って来んと思うぞ?
そこまで筋骨隆々じゃと、喧嘩を売っても負けるのが分かっておるからのう」
「なるほど。
私のような者の場合は、むしろ過ごしやすい可能性もあるのか……」
「過ごしやすいというか、他の者に比べて楽なだけじゃの。
喧嘩が始まると、それをすぐに賭け事にするからな。そういう事もあって喧嘩っ早いのが多いのだ。
しかしアッシュだと勝つ事が分かり切っておる。それでは賭けにならんわい」
「そういう意味だったのか。
とはいえ喧嘩を売られにくいなら何でもいい。
やり過ぎて犯罪扱いにされても困るのでな、私としては手加減するのも面倒だ」
「ま、アッシュであればそうであろうよ。
王領の隣とはいえ、まだまだ時間は掛かる。
ワシは昨夜遅くまで酒を飲んどったのでな、もう一眠りさせてもらう」
「ついたら起こそう」
「そこまで寝ておったら頼む」
そう言ってロッドン殿は横になった。
ヴァルカネッサに行く移動馬車は人気が無いのか、乗っているのはロッドン殿と私を除けば2名しか居ない。
なので中は広く、寝転がっても迷惑にはならないだろう。
実際にその2名は馬車の前の方に居る女性と子供だ。
見た目は猫人族なので、王都に行った帰りなのかもしれない。
子供は珍しくはしゃいでいないが、単に寝ているだけのようだ。
私はしっかりと寝てきているので寝られるはずもなく、それ故に魔力の扱いの練習をしている。
<混沌の種>から吸収した澱のような魔力だが、コレを扱う事は可能ではあった。
とはいえ、あくまでも可能なだけでしかない。
この澱のような魔力だが、無理矢理に使用するような形でしか使えないのだ。
そして一旦使い始めると、物凄い勢いで消費されてしまう。
慌てて止めたものの、その時点で20分の1は減っていた。
ほんの僅かな時間しか使っていないのにだ。
通りで暴走している間に澱のような魔力が枯渇していたはず。
それが理解できる程に消費が激しい強化であった。
もしかしたら制御できるようになるのかもしれないが、今のところはどうにもならない。
それでも奥の手として使えるだけマシだろう。
そしてその後に気づいたのだが、澱のような魔力が無くなった分だけ私の魔力の最大量が増えていた。
これから<混沌の種>を吸収していくのだが、私の魔力はどこまで増えていくのだろうか?
もしくはどこかで吸収出来なくなって破裂するのかもしれない。
マーヤもラブも、そしてマスターも気を付けろと言っていた。
なぜか私は吸収できるし体に問題も無いが、本当に問題が無いかは分かっていない。
なのでいきなり体の調子が悪くなる事もふまえて行動しろ。
そう念を押された。
確かに言われる通りなのだが、ステージ3と4の<混沌の種>を吸収してからは逆に調子がいいぐらいだ。
それは今も変わっていない。
今までに比べて体が動かしやすく、指先までしっかりと動かせている。
今までの自分と比べると感覚が鋭いのが分かるのだ。
だが段々とそれも薄れてきているのは感じている。
効果が無くなったのかと思ったがそうではなく、むしろ今の鋭さが普通になってきている感じだ。
だからこそ薄れてきているのだろうが、悪い意味では無い。
自分の体が上手く動かせるので、魔力の扱いや武器の扱いも向上した。
感覚が変わった恩恵は大きかったと言ってもいいだろう。
実際に大振りでなくとも上手く扱えるし、切り返しも行えるようになった。
ポールアックスでは大変だったのだが、それも今では楽に行えている。
今は馬車の中に置いているが、こればっかりは仕方がない。
実際に長物だから置かせてもらうしかないんだ。
そもそも馬車内では座っているので背負えないしな。
それでも刃の方は自分の近くに置いているので危険は無いし、柄は馬車の後ろの外へと突き出す形で置いている。
なので子供が触ったりもしないし、邪魔にもなっていないだろう。
私とロッドン殿は最後尾に乗っているし、それは移動馬車を守る為でもある。
盗賊に襲われた際はハンターだ、私達が率先して戦わないといけない。
特に子供が乗っているからな。
盗賊どもが何をしてくるか分からない以上は、警戒しているに越した事は無い。
前は御者がどうにかするだろうから、私達は後ろだ。
後は新たに乗ってくる乗客がどうかだが………そこはこれからか。




