02-61-0079
Side:アッシュ
私は2つ目の部屋の<混沌の種>を全て消し、いよいよ3つ目の部屋へと入る事になった。
この時点で今まで持っていた澱の魔力量を超えているのだが、果たして私は大丈夫なのだろうか?
多すぎる魔力に破裂したりしないよな?
「さて、3つ目の部屋に行く前に言っておく事がある。
もし駄目ならすぐに部屋から出な。
それと、おかしくなったヤツが居たら問答無用で叩き出す。
いいね?」
「当然でしょ。ステージ3と4の<混沌の種>は本当にマズいもの。
私は今までに何度も見た事があるから大丈夫だけど、アッシュとラブはマズいかもね。
駄目ならすぐに出さないといけないわ。
おそらくアッシュは大丈夫だと思うけど……」
「だね。<混沌の種>を吸収しても問題ないくらいだ。
アッシュは問題ないだろうさ」
「ぼくは気分が悪くなったらすぐに出ます。
おかしくなるのも嫌なので」
「よし。それじゃ、入るよ」
マスターが開けた木の扉から入ると、先程マーヤから出ていた靄と同じような感じの塊があった。
間違いなくこのおかしな色だったので、やはり先程マーヤから漏れていたのは<混沌の種>の中身らしい。
私は近くにある小さな<混沌の種>を持ってみる。
そして手の平を目の高さに持って来て見ていると、徐々に小さくなっていく事が分かった。
やはりコレも消せるみたいだ。
「大丈夫なの、アッシュ。狂ってない?」
「狂ってはいないし、問題なく小さくなっていく事が判明した。
後はコレを吸い込んでも大丈夫かどうかだが………少しずつやってみるしかないな。
先程のマーヤのような失敗をしても仕方ない」
「それ、お願いだから言わないでくれる?
普通はさ、目の前でアッシュが大丈夫なんだから、私も大丈夫だろうって思うじゃない。
そしたら、あんな風になるなんて思わないわよ」
私の左肩に乗りながらマーヤが言うが、そもそも慎重に事を行うのは当たり前だと思うのだがな?
モンスターを統率者にしてしまう危険な物だと教えてくれたのは、いったいどこの誰だったのだろうか……
呆れて来るものの、私は気合を入れて少しずつ吸い込んで行く。
散々やってきたので、大凡の力加減は分かっているつもりだ。
なので、少しの吸い込む力で様子を見る。
すると……
ドクン!!
「う………?」
「なに? 危険ならすぐに止めなさい!」
「アッシュさん、すぐに吸い込むのを止めて下さい!!」
「アッシュ、止まれ!!」
「いや、大丈夫。
何というか………魔力がほとんど含まれていない?
澱のような魔力が増えた感じがしないのだ」
「そぅなの?」
「ああ。しかし代わりに………体が活性化してる?
何だか今までより体がスムーズに動かせそうな気がする」
「………いやいや、意味が分からないんだけど?
そんな健康に良い食べ物みたいに言われても困るのよ。
って、本当にそんな感じなの?」
「ああ。
何故か分からんが体が活性化しているというか、元気になっている感じだな。
疲れが取れたというか、爽やかな朝と言えば伝わるか?」
「意味が分かりませんね? いったいアッシュさんの体の中で何が起きてるんでしょう?
それと、魔力がほとんど含まれていないという事は、そのおかしな色の中身とはいったい……」
「残念ながら考えても分からないね。
少なくともアッシュ以外には害しかない物さ。
何故かアッシュは問題ないみたいだし、恩恵しか受けないようだ。
だったら全部吸収しちまっておくれ。
こんな物あったって邪魔だからね」
「了解。
なんだか無性に体を動かしたくなるが、とりあえず全て吸収してしまおう」
私は何故か元気になる<混沌の種>を吸収していき、全て終わったら慎重に上へと戻って行った。
音をさせても困るからなのだが………妙に体が動かしやすいな?
何故か指先にまでしっかり意思が伝わっているような、そんな感覚だ。
今までとは全く違う、新しい自分になったような、それでいて今までの自分の延長線上に自分がある。
何と言うか、非常に説明し辛くて悩む。
だが、自分の体が自分じゃないくらいに上手く扱えているんだ。
それは間違いない。
「まあ、言いたい事は分かるよ。
行きよりも帰りの方が遥かに足音が小さかったからね。
それだけ上手く自分の体が使えてるって事だろうさ。
それよりも、それぞれの場所に行っては<混沌の種>を減らしていってくれると助かる。
出来るのはアッシュだけだからねえ」
「次の場所はヴァルカネッサのオゥリーだっけ?
この国の王都からそこまで離れてもいない場所かー。
………もしかして王か王族から何か言われた?」
「…………はぁ、流石にアンタが居ると誤魔化すのは無理かね?
アッシュは分かってないだろうから説明すると、オゥリーの町は鉱山の町であり、鉱山は全て国の物なんだよ。
勝手に金属類を他国に売られても困るんで、昔から変わらず鉱山は国の物なのさ。
当然、鉱山街も国の物となる」
「ぼくの祖国でもそうですが、自分の領地に鉱山があると、国から年間にある程度の金銭が支払われるんです。
何もしなくても貰えるので、鉱山が領地内にある家は恵まれていると言われてますね」
「儲かるから裏でコッソリと……というのは無いのか?
もしくは鉱山があっても黙っているとか」
「そもそも鉱石を精錬して金属にするには炉が必要よ。
それも大量生産するには巨大な炉が要るの。
そんな物を建設したら、流石に国の監査にバレるわよ。
それなら何もしなくても得られるお金の方がありがたいって事ね。
鉱山から掘り出すのも精錬するのもタダじゃないし」
「なるほど。
掛かる費用や仕事量を考えると、面倒なものは国に放り投げた方が良いとなるわけだ。
そして国は金属類を他国に出さずに自国で使えると」
「そういう事さ。
とはいえ鉱山が多い国とか、豊富に採れる国は違うけどね。
そういう国は国家が計算して輸出してるよ。
金属類はどこの国も欲しがるものだから、買い手は必ずつく。
特に鉄は必ずと言っていいほどに売れるからねえ」
「赤鉄や聖鉄の材料でもあるからね。
もちろん銅も優秀な金属になるから重要は大きいし、金銀に至っては貨幣で使うもの。
率先して掘り出されるわ」
金属というのも考えてみると、身近な物なのだなと改めて思う。
貨幣を始め、確かに身近に大量に存在するのだ。
ならば国が他国に出したくないと考えるのもよく分かる。
しかし……それと巡回先に何の関係が?
「おそらく坑道か鉱山に問題が起こって、それの対処にアッシュが使いたいって事なんじゃないの?」
「あっさり言い当てるのは止めてほしいねえ、簡単に分かる事ではあるんだけどさ。
それはともかく、アッシュにやってほしいのはモンスターの駆除だよ」
「それって地元のハンターで事足りるのではありませんか?
鉱山街ってハンターが多い所ですよね? 運ぶ仕事もありますから」
「そうなんだけどねえ………まあ、いいか。
笑い話にしかならないんだけど、オゥリーには鉱石運びの仕事をする奴らばかりで、肝心の強いハンターが碌に居ないんだとさ。
儲かるモンスターが出る場所じゃないから、ってのが理由だよ」
「ああ、そういう………」
「儲かるモンスターが居ないなら、確かに強いハンターは居ないでしょうね。
ですが……」
「そう、普通は数に任せて倒しちまえばいいとなる。
しかしね、地下の方で空洞にぶつかったらしいんだけど、そこに大量のモンスターが居たらしい。
今は【土魔法】で崩したから来れないようだけど、掘ってる先でぶつかってるからね。
国としては何とかしたいのさ」
「有力な鉱脈があるかもしれないし?」
「残念。あるのが既に分かってる」
「ああ、そりゃ駄目だわ。
何としても国はモンスターを殲滅するでしょうよ」
「特に金鉱脈ともなればね、国が諦める筈が無いのさ」
「それは無理ですね。絶対に諦めないでしょう。
たとえ多くの犠牲が出たとしても殲滅しますよ。
それ以外に選択肢はありません」
金と言えば最上級の金属であり、最も価値の高い天然の金属だ。
どの国も金鉱脈など、喉から手が出るほど欲しいだろう。




