02-58-0076
Side:アッシュ
「あの女は転々と居場所を変えるんだよ。
ま、国境に居るならそっとしておくか。そこに居てくれる方がハンター協会としては都合が良い。
おそらく向こうもそれを見越して居るんだろうけどね。
<男狂いのシェリア>しか居なかったかい?」
「シェリア殿はチームを組んでおられました。
他のメンバーは青い髪のリザードマンでスーニア殿、緑の髪の妖人族でデュー殿、そして赤い髪の人間族でベリ殿。
この3名と共にチームを組んで………いましたけど?」
マスターが名前を聞くたびに表情を変え、最後にはガックリと項垂れた。
もしかして、あの3人も二つ名のある人物だったのだろうか?
「あんたがそんな態度って事は、他の3人も有名な者達なのね?」
「ああ、同じ界隈で極めて有名な連中さ。
<万年発情期スーニア>、<淫乱妖魔デュー>、<乱交魔ベリ>。
どいつもこいつも淫乱過ぎて問題を起こした連中ばっかりじゃないか。
なんでそいつらが一ヶ所に集まってんだい?」
「そんな事を言われても知らないわよ。
その4人でチームを組んでいたし、鉄級の若い子達を食べてたわよ?
国境の村では出会いが少ないとか言って」
「そりゃそうだろうさ。
でもそいつらは都会に居たら居たで、男を喰い散らかす面々だ。
なんでそんな連中が田舎で大人しくしてるかは………考えない方がいいね。
大人しくしているなら放っておくのが一番だ。
あそこの支部長を任せているファムナには気の毒だけど、頑張ってもらおうかい」
あそこの支部長の名はファムナというのか。初めて知ったが、もう会う事も無いだろう。
それはともかく報告を再開するか。
「話を戻しますが、その後は騎士団と共にヴォークソンの巣へと行き殲滅。
ただしその戦闘の中で私は暴走したそうです」
「暴走?」
「ヴォークソンの巣の統率者はピンクヴォークソンだったのよ。
こいつが<狂血墳>というのを使ってきて、その所為でアッシュが暴走。
そもそもレッドオーガからブルーオーガになって耐えてたのに、それでも駄目だったぐらいだから相当に強いのでしょうね」
「ん? レッドオーガはともかくブルーオーガ?」
「あれ? 知らない? アッシュは身体強化の度合いで体の色が変わるみたいなのよ。
最初がレッドオーガ、それを超えた強化をすると青い肌のブルーオーガ。
そして暴走した時には紫色に変わったわ。差し詰めパープルオーガね」
「あの暴走は凄かったですよね。
ピンクヴォークソンが凄い速さと力で殴られ、地面と平行に吹っ飛んでいきましたから。
アレで死ななかったピンクヴォークソンを誉めるべきだと思います。
それほどの一撃でしたよ」
「確かに凄いけど、地面と平行に飛んでいくってメチャクチャ過ぎるだろうに。
とんでもないパワーだという事しか分からないよ」
「あれは自分の目で見ないと分からない事よ。でもアッシュも使えないみたいなのよね。
あの時のパワーは暴走してたから出せたみたいで、冷静な時にはブルーオーガまでしか無理みたい。
何度もやらせてみたんだけどね、肌が紫色になる事はなかったわ」
「あの時はそれだけではなく、アッシュさんから湯気みたいな物が立ち上り、周りの景色が歪んでましたからね。
あそこまでの【身体強化】なんて見た事がありませんよ。
あれっておそらく魔力ですよね?」
「多分ね。
強すぎる魔力がアッシュの体から噴出してたんだと思うわ。だからこそアレだけの魔力が一気に無くなったのよ。
アッシュの体の魔力が9割ぐらい無くなったもの。それも僅かな時間だけで」
「…………えらく魔力が多いね?
初めて会った時には感じなかったほど魔力を持ってるじゃないか」
マスターが私を見てそう言うが、おそらくそれは澱のようになっていた魔力が認識できなかったからだろう。
「アッシュの中には澱のように沈殿した魔力があったのよ。
おそらく貴女はそれが認識出来てなかったんじゃない?
燃やすのと凍らせるのは得意だけど、それ以外はあんまり得意じゃないでしょうが」
「五月蠅いね、それでも普通のヤツよりは遥かに出来るさ。
しかし、澱のように沈殿した魔力ねえ………そんなのは感じないけど?」
「今はもう無いわ。
長年まともに使われなかったから沈殿してたんでしょうけど、パープルオーガになった時に根こそぎ使ってしまってるもの。
その後の戦闘でも使ってるから、今は沈殿してなくて正しく循環してるわ。
だからこそ魔力が異常に多い事が分かるのよ」
「なるほど、そういう事か。
それなら分からなくもないけど、益々アッシュの種族が何なのか分からなくなったね?
そこまでの魔力を持つオーガみたいな種族なんて、今までに聞いた事も無いよ」
「確かにそうですね? というより【身体強化】で色が変わる方が特徴的ではないでしょうか?
そっちも不明なのは横に置いておきますけど……」
また話がズレているので修正しよう。
私も気になるというか、私が一番知りたい事でもあるが、考えたって答えの出ない事だ。
だったから考えてないで、さっさと報告を終わらせよう。
「再び話を戻しますが、騎士団と共にピンクヴォークソンを討伐。
その後に村へと戻ると、今度はファイアリザードに襲われていました」
「急にだねえ。訳が分からないけど、どういう事だい?」
「それ以外に報告のしようが無いのよ。多分だけど【転移魔法】が使われたんだと思う。
でないと、いきなりファイアリザードが国境の村を襲うって意味が分からないもの」
「場所は北の国境だ。
一番可能性の低い所にファイアリザードとなると、誰かが【転移魔法】で連れて来たぐらいしかないか。
わざわざ檻に入れて運ぶバカは居ないだろうしね。
そんな事をすれば目撃されて簡単にバレる」
「ええ。それに倒したファイアリザードの中からも<混沌の種>が見つかったわ。
それもステージ3にギリギリ届いていないぐらい大きな物よ」
「その大きさだという事は、おそらく誰かが大量に喰わせたんだ。それしか無い」
何故か断定して話すマスター。
するとマーヤが代表してマスターに言った。
私やラブが言っても無視されるかもしれないが、マーヤが言えば教えてくれるだろう。
「なんでそう決められるわけ?
何か知ってるなら情報を寄越しなさい」
「………誰かに話すんじゃないよ?
<混沌の種>をどれだけ食わせても、ステージ3には進まないんだ。
どうにもステージ3以降に進む為には時間か何かが必要ならしい。
国の研究所はそう結論をつけてる」
「時間………。っていうか、国の研究所?
そんな事を研究するって正気じゃないわよ!?」
「元々は<混沌の種>をどうにかして減らせないかという研究さ。
で、今は密かに弱いモンスターに大量に食わせて、それを討伐する事で<混沌の種>を減らしてるんだよ。
なので昔ほど<混沌の種>に悩まされる事は無いんだけど……」
「代わりに討伐させるのが大変ってわけね。
それでも数が減るだけマシって思うけど、スライムに食べさせたりして減らせないの?
スライムの統率者なんて聞いた事が無いし」
「それは昔に研究されて失敗なのが分かってる。
スライムなら仮に統率者になっても問題ないと思われてたんだけど、スライムは<混沌の種>を食べない。
幾ら大量に与えようとしても、絶対に取り込まないし溶かさないんだ。だから無理なのさ」
「流石に誰でも考えつく事なら実験はされてるか。
しかしスライムが食べなかった<混沌の種>は、その場に残されるってこと?
そしてモンスターが食べて力を取り込む……」
「そんな感じだね。そんな事が自然の中で繰り返されてる」
そうやってモンスターは争い殺し合いを繰り返しているわけか。
スライムが食べないとは思わなかったが、スライムは<混沌の種>を危険な物と判断しているのかもしれないな。
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