02-57-0075
Side:アッシュ
マーヤの拷問話は横に置いておくとして、私はマスターに報告を続ける。
これを終わらせてしまわないと、私はここに居続ける事になってしまう。
それは遠慮したいところだ。
「話を元に戻しますが、山鹿の統率者が乱入した後、それらとも戦闘になりました。
何故か山狼の統率者と協力して倒す事になったのですが、山狼の統率者は山鹿の統率者に負けてしまい、その後は私と一騎打ちです」
「山狼の統率者が山鹿の統率者に負けたのかい?
そりゃまた、随分と厄介な種が統率者になったみたいじゃないか。
それとも統率者になる時に進化したかね?」
「進化が正しいと思うわよ。山鹿の統率者はライトニングディアーで、山狼の統率者はウィンドウルフだもの。
流石にウィンドウルフといえどもライトニングディアーには勝てないわ。
あの雷角を受けたら体が痺れて動けないもの。それの直撃を受けたら、ねえ……」
「そりゃ勝てないさ。
まさかライトニングディアーの統率者とは、これまた厄介なものが出たもんだ。
よく勝てたね、アッシュ」
「あの「ビリビリ」は厄介でしたが、最初に受けた際に鉄に向かってくるのが分かったんです。
なので金棒をライトニングディアーに投げて、自分の「ビリビリ」を喰らうように仕向けました。
まあ、一度しか出来ませんでしたが」
私がそう言うと、マスターもマーヤもラブも呆れたような表情をした。
武器を投げたからだろうか?
「そうなんだけど、根拠がありそうで無いような事に躊躇なく武器を投げるからだよ。
普通は武器が無きゃ戦えないと考えて、手放すなんて事はしない。
それをあっさりやる根性に呆れてるのさ」
「とはいえその後に勝つ手段も思いつきましたし、身体強化を強くして蹴り殺しましたよ。
正しくは首の骨が折れて死んでいましたが……」
「素手でライトニングディアーと戦って、挙句勝つとか……
アッシュを知らなきゃ鼻で笑ってるだろうさ。
知ってるから呆れるしかないんだけども」
「そもそも、その戦いを止めたのは私よ?
既に死んでるのに気づいてないアッシュは、その後も蹴り続けてたもの。
私が「もう死んでる」って言って止めたの」
「まあ、そういう事もあるだろうし、確実に仕留めるという意味では悪い事じゃないさ。
死んだと思い込んで後で襲われるよりはね」
そう言われると微妙な気分になるな。
あの時にやらかしてるのは事実だし……
「なんだか微妙な顔つきになったけど、もしかして新人の失敗をやらかしたかい?
それで怪我も無かったのなら良い事さ。
失敗しないと覚えない事は世の中に多いんだ。怪我なく学べたのなら運が良かったと思うべきだよ」
「マーヤの言葉で気を抜いたら、後ろから山狼の統率者が立ち上がっていたようなんです。
マーヤが倒してくれた御蔭で助かりましたけど」
「流石は統率者かい。
ライトニングディアーの雷角を受けて生きているなんてねえ。
それはともかく無事で良かったよ」
「私が助けたんだから当然よ。
その後に戻って報告、そして次の日に色々と調査に出たわ。
そして左の山にあった山狼の巣の更に先に、襲ってきていた山鹿の巣を発見。
しかもライトニングディアーがもう一頭いたわ」
「………流石にそれは多いね。
もしかして<混沌の種>をバラ撒いたバカが出たかい?」
「それは分からないわ。
ただ、右の山にあったドーヴァルの巣の向こうにヴォークソンの巣もあったのよ。
これで流石に私達も統率者が多すぎるという判断になったわ。
しかも巣が近くにあるのに、そこまで殺し合いをしている様子も無いし」
「特に山狼と山鹿の巣が近くにあって、山狼の側が襲ってないのは不自然さ。
とはいえライトニングディアーが二頭と考えれば、迂闊に攻めないのは当然とも言えるけどね。
幾らウィンドウルフでも、ライトニングディアー二頭には勝てない。
どう足掻いてもだ」
「それはね。とはいえヴォークソンの巣の近くで発見したのが、そこに居るラブよ。
ヴォークソンから投石を受けて結構なダメージを受けてたの。
ま、わたしが治療してあげたから無事だけどね」
「あの時は本当に助かりました。あやうく殺されるところでしたからね。
血も節約しなければいけないので、大鼠や山兎などを探すついでに山の中をうろうろしてたんですけど、まさかヴォークソンの巣があるなんて思わず………」
「不運だとは思うけど、安易に森の中へ入るのが悪い。
幾らヴァンパイア族で、最後はコウモリになって飛べば済むとはいえ、危険に自分から突っ込むのは話にならないよ」
「最初は木の6級だったしね。
その程度でしかなかったんだから、安全に大して緩くても仕方ないんじゃないかしら?
流石に私達と居て、それも無くなったみたいだけど」
「それはそうでしょう。
ファイアリザード相手だって必死でしたよ」
「ファイアリザード?
あの火山にいるモンスターがどうかしたのかい?」
「出たのよ。
ま、それは後で話すとして、ラブを助けたわたし達は領都の軍が来るまで間引きを続けたわ。
で、領都の軍が来たんだけど……」
「ハンターを見下して侮辱でもしたかい?
いつもの事とはいえ、何故わざわざ揉め事を起こすんだか……」
「それもあるけど、揉め事を起こしたのは辺境伯家の血筋のヤツだったわ。
ただし何代か前の当主の血筋みたい。
跡取りが残せなかった血筋の方みたいね」
「生まれた子が女だったのかねえ?
あそこの辺境伯家は人間族だから、基本的には男に後を継がせるはずさ。
居ないなら女でもいいんだけど、男児優先だったと思う」
「そいつは人狼族だったから、おそらく正式な血筋じゃなくなってからなんでしょうね。
人狼族の血が入ったのは」
「だろうね。
それはともかく、正統な血筋じゃない方が揉め事を起こすなんて、本当によくある事でしかない。
血筋しか誇るものが無いんだろうけど、そういうヤツほど五月蠅いんだよ。いちいち」
「分かる。そいつもそういうヤツだったわ。
夜中に押しかけて来て、「ライトニングディアーとの戦いで負傷した兵士が出たから治療しろ」と言って来たの。
だから、全裸で土下座したら一人小銀貨一枚でやってやるって言ったのよ」
「ちなみにですが、言った相手は横に居た辺境伯家の次男で、バーナンド様に対してです。
揉め事を起こしていると知らなかったバーナンド様は怒り、その後で全裸土下座の許可を出していました」
「とはいえ、あの男はやる気が無かったみたいだから時間切れ。
わたしは部屋に戻って寝たけどね」
「それでいいさ。
そもそも<生命神協定>も知らないって、辺境伯家の血筋以前の問題だ。騎士や兵士失格でしかない。
そういった事は座学で教えられるだろうに、元は辺境伯家の血筋だとして甘くしてたのかねえ……」
「甘くしてたのか、それとも外面だけは整えてたのか。
わたしにも従って当たり前みたいな感じで言ってきたからね。
実家の方も五月蠅かったみたいよ?
辺境伯家の次男が総隊長だったけど、勝手な行動でハンターと揉め事を起こしてたくらいだし」
「我々を死体漁りと言っていましたからね。
流石にシェリア殿達も怒っていましたよ」
「シェリア? ………もしかして光妖精族の、左目の下に黒子が2つ並んである女かい?」
「え? ………ええ、確かにシェリア殿はそこに黒子が2つ並んでいました。
それが何か?」
「………まさかそんな所に居たとはね、通りで探しても見つからなかったはずさ。
その女は<男狂いのシェリア>と言って、一部では有名なハンターなんだよ。
実力は高い癖に男漁りしかしない事で有名でね、<精霊の秘薬>を使って何度か若返ってるという噂もあるくらいだ」
「それ聞いた事があるわね。
でも、わたしが聞いたのは<童貞喰いのシェリア>だったはず……」
どっちにしたところで、そんな二つ名が付いている人物だったのか。
喰われたエンシュは………ま、私が気にする事じゃないな。




