02-56-0074
Side:アッシュ
手紙で呼ばれた私は、ヴェルイーの村から領都ウェドンを目指す。
といってもそこまで苦労もせずに到着し一泊。
そして馬車に乗ると、そのまま王都まで乗っていく。
またもや暇な時間が続くが仕方ない。
これは諦めるしかない事だ。
…
……
………
王都に到着したものの、道中では色々な事があった。
盗賊に襲われた事が一度あったが、金棒で殴り殺していくと私の方が怯えられたりもしたしな。
なぜ盗賊を殺して私が怯えられねばならないのか。
そうは思うが、仕方がないのかもしれない。
結構な大きさの盗賊団だったのか、50名近くいたのでほぼ皆殺しにしたのだ。
その後は手足を圧し折りながら尋問。聞き出したアジトを強襲して金品を全て入手。
その時には乗り合い馬車は既に居なくなっており、徒歩で進まなくてはいけなかった。
それでも盗賊を壊滅させたのは事実だし、それが評価されたのも間違いない。
更にはお金も儲かったし、なぜか盗賊団は何冊か本を持っていた。
それは旅の暇つぶしにとラブが読んでいたな。
中に一冊、子供向けの魔力の使い方を解説したものがあったので読ませてもらったが……
中に書いてあったのは、私が知っている事ばかりであった。
本というのは安くないはずなのだが、私でも知っている程度の事で、わざわざ高い金銭を支払うのだろうか?
それとも私と同じように知らない者は騙されるのだろうか?
「子供向けの魔力解説本は、基本的に学校で使われるヤツだろうさ。
こういう感じで子供に教えなさいっていう意味で書かれた本だ。
実践しなきゃいけないアッシュが読むもんじゃないよ」
私は王都のハンター協会でマスターに報告をと思っていたのだが、その前に遅れた理由を問われたので答えていたのだ。
「他にも貴族の馬車が立ち往生していたから助けたら、何故か歓待される羽目になったのよ。
普通は助けたって庶民を招いたりなんてしないでしょうにね。
呆れるほどラブに熱視線を送ってたわ、あの母娘」
「そこのヴァンパイア族。私もラブと呼ばせてもらうけど、をかい?
どこの貴族か知らないけど、相手を辺境伯家の三男だと知ったうえでやってる……なんて事は無いか。
知ってたら、そんな視線は向けないだろうからね」
「まあね。アロンバウタ男爵とか言ってたわよ。
他にも色々と気を引こうとしてたけど、悉くラブの仮面に阻まれて失敗。流石に最後には諦めてたわ。
というより、動かない仮面を見て気づいたみたい。相手も貴族家の者じゃないかとね。
最後は頻りに謝っていたもの」
「なるほど。その態度だと気づいてるね。
相手が貴族で下らない欲を向けたってなったら恥にしかならないんだよ。
それも他国の辺境伯家の方に対してやらかすとは………呆れるしか無理だね。
それはともかく最初から報告しな」
やっと本題に入るみたいなので、私は最初からマスターに報告していく。
まずはヴェルイーに着いてからだ。
「向こうでは山鹿が増えているという情報が何度も聞けました。
実際、かつては村人も罠で山鹿を狩っていたようですが、最近は山鹿も罠に掛からなくなってしまったと言っていましたので」
「罠で獲れなくなった、か。
なかなかに厄介な状況だったんだろうけど、続きを頼む」
「はい。
で、私は原因を調査すべく出ましたが、一日目で鉄級の男性チームが山狼の群れに襲われているのを確認。
これを撃退しましたが、その山狼のボスもその時に確認しています。
結果としてその日は戦いになりませんでしたが、結構な強さをしていましたね」
「なるほど。強さを知るって事は後で戦ったか。
それはともかく、山鹿をエサにするのも増えていた訳だね。
そういうのはどこでも起こる事だから当たり前として、間引きが上手くいってなかったのかい?」
「山鹿の増える早さの方が早かったのでしょう。
そもそも森の中の巣には大量の山鹿が居ましたし、あれを全て倒すのは相当に苦労をしますよ。
国境の村のハンターでは無理でしょう」
「弱いのか、それとも数が居ないかのどっちだい?」
「数が居ない方です。国境の村ですから田舎ですし、田舎の者はどうしても都会を目指しますので。
なので光妖精族や妖人族の方がハンターをしていたくらいです。
寿命が長いのはいいですけど、そこに頼るのは……」
「次代が育たなくて困るって言いたいんだろう?
言いたい事は私らもよく分かるけど、どこの田舎も残念ながら同じさ。
大抵はハンターの子供がハンターをやってる。それで何とかしているのが現状だ。
そもそもの成り手が少ないっていう事情もある。
親がやらせたくないんだよ」
「危険だからね。その危険な仕事をしてほしい親は居ないでしょ。
村の為にやるとかじゃない限り、都会の儲かる所に行くのは当たり前よ。
それはどこの国でも変わらないわ」
マスターがチラリとマーヤを見てから口を開く。
さっきから度々そうしているが、もしかして2人は知り合いかな?
「まあそうだね。それで、その後は?」
「その後は国境に近づいていく方の右の山でドーヴァルの巣を発見。
これの排除に乗り出す為、領都に軍の派遣を要請。
そして少しでも数を減らしておく事にしました。
その途中で左の山の奥に山狼の巣も発見。こちらへの対処もする事になりました」
「そりゃまた……という事は領軍との合同で潰したのかい?」
「いえ。山狼を殺して血をドーヴァルの巣まで垂らしたりする事によって、互いを争わせる事に成功。
両者を潰そうとしたのですが、最後に山狼の統率者と一騎討ちをしていると山鹿が乱入。これも統率者でした。
なんとか勝利しましたが、その際にマーヤに助けられています」
「私はガルバス海国から拉致されてたんだけど、アッシュ達に助けてもらったのよ。
まさかお風呂に入っている最中に襲われるとは思わなかったわ」
「通りでアンタがアッシュと一緒に居るはずだよ、【拷問官】。
久しぶりなのにアッシュの肩に乗るとかしてるから、別のヤツと勘違いしそうになったけどね」
「その二つ名で呼ぶの止めてくれる? 既に忘れてるヤツがほとんどなんだからさー」
【拷問官】? また物騒な二つ名だな。
いったい何故マーヤが【拷問官】なんて呼ばれてるんだ?
「アッシュ。あんたは知らないだろうけど、この女は【生魔法】を悪用して、治療しながら拷問をし続けるようなヤツさ。
まあ、もちろん向こうが悪いんだけどね。
しかし子爵家の次男坊に拷問の限りをつくし、心を完全に砕いたのはコイツなんだよ」
「治療しながら拷問って………」
ラブが驚いているが………余程に怒り狂ったんだろうな。
でなければ、マーヤの性格でそこまでするのはおかしい。
もちろん私達に見せていた姿が嘘という可能性もあるが、しかしそのような感じには見えなかったがな?
嘘を吐かれた事も無いし。
「確か「妾にしてやる」だったかな? それとも「使ってやるから従え」だったかねえ?」
「ワザと言ってるわね。正確には「黙って従え、羽虫」が正解よ。
妖精族を羽虫扱いして許されると思ってるとは、とんだお笑い種じゃない。
そこまで侮辱されたら徹底的に壊すに決まってるじゃないの。
おまけにわたしは【生魔法】使いよ? その国の王も何も文句なんて言ってこないわ。
しょせんは次男だし」
「後継でもなければ、わざわざ庇う必要もありませんね。
となると生贄にして終わりでしょう。
そこの子爵家でしたっけ? その家も見捨てるでしょうし」
「見捨てるも何も、最後には完全に治療してやったけど、その後に当主が自ら首を切り落としてたわ。
その首を床に転がして、わたしに謝罪をしてきたもの。
何故あんなまともな当主から、あんなクソ息子が出来たのか。
当時は不思議に思ったわね。今は分かるけど」
妻の方の親族に歪められでもしたかな?
過剰に持ち上げられて育てられると、そういう勘違いをした子供になると聞く。
どうせそんなところだろう。




