02-53-0071
Side:アッシュ
村の人達が来たのでファイアリザードの片づけが始まったが、村の人達は完全にお祭り気分で行っている。
子供達も出て来てお手伝いをし、村は不安が解消された事で浮かれていた。
特に家を一軒燃やされているので、不安が目に見える形だったのが大きいのだろう。
皆が解体している横で、私達は心臓付近から取り出した<混沌の種>を見ていた。
私としては驚きだったが、ファイアリザードの体の中にあったのはステージ3の<混沌の種>では無かったのだ。
「これもステージ2ね。
ギリギリの大きさとは言えるけれども、それでも間違いなくステージ3には届いてないわ。
アレだけの大きさだったのにステージ2というのも奇妙だけど、それでもこの色と大きさを見れば間違える事は無い」
「ですね。
私もそう思いますが、<混沌の種>を悪用してもステージ2止まりなのでしょうか?
私も詳しくは知りませんが、もし食べさせた量と出来上がる大きさに差があるのであれば………」
「大量の<混沌の種>を食べさせてから倒せば、<混沌の種>そのものの数を減らせる?
だから今まで大きな問題にはなってない?」
「もしそうであるならば、アレだけ統率者の数が多かった理由に説明が付くな。
どこかから違法に捨てに来た者達が居て、そいつらが食べさせた。
または殺されて放置され、それを食べたモンスターが統率者に変わった」
「もし後者だと、物凄いマヌケね。
違法に投棄しようとしたら殺されてしまうなんて。
でも、ここの住人からしたらマヌケの一言じゃ済ませられないぐらいに腹立たしいでしょうけど」
「それはそうでしょうね。
そのうえ、そうなると間違いなくハンター協会の責任です。
その予想は誰にも話さないで下さい。私が本部に問います」
「それがいいわ。変な噂になっても誰も得をしないもの。
むしろ余計な揉め事になるだけよ。
そうなるくらいなら、内々で何とかした方が良いに決まってるもの」
「それより全員で倒したのですから、全員に権利があると思うんですが………どうします?」
私がそう支部長に問うと、支部長も困った顔をした。
何故なら今回は騎士団が居るので難しいのだ。
まったく何も無いとは出来ない。
とはいえ村から出せる物は多くないし、全員で均等に割ると大した金額にはならないのだ。
「兵士には1人2杯までと決めてお酒ですかね? 騎士の方は3杯とかでしょうか。
出来てそんなところですし、そこまで食材もお酒も多くは置いていませんからね。
実際、余っている物は定期的に行商に売るくらいですし」
「そうでしょうね。
わざわざ置いておくなんて事はしないし、したって腐るだけだもの。
そりゃ売れる間に売るわよね。
そうじゃないと儲からないし、行商の者達だって食べる物が無いと困るもの」
「それに新鮮な野菜は食べないと病になりやすいと言われていますしね。
行商の者達ほど、そういう事に五月蠅いのです。
もちろん病になるのは大きな問題ですので、当たり前ですが」
行商というのは大変なんだなと思いつつ、私は村の人達の解体を見ていた。
すると、国境の方から馬車が来るのが視界の端に映る。
………こんな時間に?
ファイアリザードが攻めて来たのは、村の南西というか西南西の方だったので、私達は西を向く形で立っている。
そして国境からの道は村の西にあるんだ。だから見えるのだが……
その馬車が「ガラガラ」とやってくるが、やはり目立つからか下りて来て話しかけてきた。
が、どうやら商人は後ろの馬車内に乗っていたらしい。
御者の男がおそらく護衛も兼ねているのだろう。
「いやぁ、これはファイアリザードだと思うのですが、これをどうされるのですかな?
私には様々な所に伝手があり、色々な所に口を利く事も可能ですぞ?」
「申し訳ないのですが、今は売る事を考えておりませんので……」
「なんと、それは勿体ない。
私ならば肉以外の全てを買い取っても構いませんぞ? 一括で全て支払っても構いません。
大銀貨3枚でどうですかな」
「いや、私の一存では決められませんので……」
「そもそも本物のファイアリザードだと大銀貨3枚は安いであろうよ。
大銀貨5枚、つまり小金貨が妥当じゃ。
村長殿よ、安値で買い叩かれるだけだから乗らん方がよい」
「誰だ貴様は! 私と村長殿が話している横から邪魔をしてくるな!!」
「ワシはハンターで、このファイアリザードを倒した一人じゃ。
当然、金などを受け取る権利がある。
お主にどうこう言われる筋合いなど無いわ。
買い叩こうとする商人など引っ込んでおれ」
「なんだと!?」
ガーンドと商人が揉めそうになったところで、バーナンド様が割り込んで止めに入られた。
「止めたまえ。討伐したモンスターは討伐した者に権利がある。
商人が頼む事は出来ても、決める権利は無い。
あるのは討伐した者だけだ」
「下っ端如きが何様のつもりだ! 私は王都に店を構える<ロックテン>の者だぞ!!
田舎者風情が、己の立場を弁えろ!!」
「ほう、悪名高き<ロックテン>か。
誰かを騙して儲ける事しか考えていないという罪人の店と聞く。
そのような店に実に相応しい為人だな。
噂通りという事か」
「ふざけるな、田舎者のカスがどこまで調子に乗るつもりだ!!
これだからクソみたいな田舎になど来たくないというのに、愚か者どもめが辞めていきおって……!!」
「ほうほう、なるほど。悪名高き<ロックテン>も風前の灯火か。
それはそうだろうな、アレだけ悪名が轟いていれば店の者は逃げるだろう。
当たり前の事だな」
「貴っ様ぁぁぁぁ! やれぃ!!!」
商人が御者の者にそう命令するが、御者の者は全く動かない。
当然その理由はあるのだが、騎士や兵士に剣を突きつけられている以上は動く事など無理だ。
商人の斜め後ろに居たので分からなかったんだろうな。
そもそもなのだが、バーナンド様の身形を見れば迂闊な事など言わないと思うが……
元奴隷闘士の私でも丁寧に接した方がいいと分かるのに、なぜ商人がその程度の事も分からないんだ?
「なっ!? 私に対するこの仕打ち、絶対に許さんからな!!
こうなったら、この領地の悪評を徹底的にバラ撒いてやる!!
それで商人も寄り付くまいが、全てお前達の所為だ。覚悟しておけ!!」
「そうか。ならば私はお前達を拘束せねばな。
私の名はバーナンド・クル・ファゼード。ここファゼード辺境伯家の者である。
我が家の領地への攻撃、それに対して黙っているわけにはいかんのでな。
ああ、私への侮辱もそうだが、そちらも含めれば………コレだ」
バーナンド様は首の横で手をトントンとしている。
要するに首を落とすと言っているのだが、それを聞いて商人は目が点になっていた。
どうやら本気で辺境伯家の方だと理解していなかったらしい。何故だ?
「そ、そ、そんな事などある訳が無い! 嘘を吐くな!!
貴族の家の者の鎧には、豪華な彫り物がしてあるのが当然。
貴様の鎧には無いではないか!!」
「ああ。あの役にも立たぬ、見せびらかす為の物か?
あんな物、国境を守る辺境伯家で採用される訳があるまい。
ここで必要なのは本物の強さであり、見せる為の下らぬ装飾では無い。
その程度も知らぬ者が偉そうに語るな。
そこの愚か者どもをひっ捕らえ、身包みを剥げ!」
「「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」」
商人と護衛はあっという間に身包みを剥がされて捕らえられたが、それよりも積荷の方が遥かに問題だった。
「総隊長! こやつらの積荷の中には<ブヌクスの香>と<アロゲイナの葉>が大量に乗っております!!」
「なんだと!? どちらも禁制の物ではないか!!」
どうやら商人は禁じられている物を運んでいたらしい。
実に悪徳商人らしいが、どうしてこう分かりやすい事しかしないのだろうか?
「バカだから悪徳商人なのよ。
ずっと悪徳商人を続けられる者なんて居ないわ。
必ず最後には見つかって破滅する。
にも関わらず、破滅の足音すら聞こえない愚か者なのよ」
「さっきの話しぶりだと、今までは別のヤツにやらせてたから明るみに出なかったんじゃないかい?」
そういえば先程そんな事を言っていたな。
アレはそういう意味か。




