01-07-0007
Side:アッシュ
「昨夜、お前さんが握り潰してくれた御蔭で逃げられなくなったらしくてよ。
それで騎士団に突き出そうとしたら暴れたんだ。
とはいえ右腕っつーか右手首が握り潰されちまってるってんで、碌な抵抗は出来てなかったけどな」
「そうそう。右手が使えないヤツがオレ達から逃げられる訳もねーってんだ。
おかげで金は返って来たし大助かりだぜ。
なんでもハンター協会から少しだけど謝礼が出るんだとよ。
もしかしたらマスターに会えるかもしれないぞ?」
「マスターなら昨日会ったが、滅多に会えないような方なのか?」
「えっ? お前会ったのか!? ………って事は有望な大型新人かよ」
「大型かどうかは知らないが、お前は巡回狩人に決まったと言われた」
「………そ、そうか。気を落とさずに頑張れよ」
「ああ、もちろん頑張るつもりだ」
「お、おお………そっか」
「?」
なんだか急に態度がよそよそしくなったというか、同情気味になったな?
マスターに会った事があると言った時には何やら剣呑な感じだったが、巡回狩人になったと言ったら一気に同情だ。
つまり新人でも知っているぐらいに厳しいのだろう。
私としては、それでも自分の力で稼げるだけ遥かにマシだし、どのみち最初はどこに行こうとも覚えねばならないのだ。
だったら巡回狩人だろうと定住の狩人だろうと変わらないと思っている。
覚えねばならない事は山ほどある訳だしな。
周りの者達に挨拶をした後、ハンター協会の宿舎を出て食事に行く。
どこか近くに店がないかと思い案内板まで行くと、ハンター協会の近くに食堂を発見。
そこに食事に行く事にした。
中に入ると多くの客が居たが、私は適当に注文をして待つ。
昨日の店とはメニューが違っていたが、周りを見るとボリュームが多そうに見える。
おそらくは安くて多い量が出て来る店なのだろう。
そういうのがあると聞いた事がある。
臭い女どもはそういう店には貧民が行くものだと言っていたが、私などは無駄に高いぐらいなら安くて量が多い方がいいと思うがな?
どのみち闘技場で食わされていた物よりは美味しいのだ。
ならば量が多い方が良いに決まっている。
運ばれてきた食事を食べた後、私はハンター協会に行って椅子に座る。
おそらくはハバン殿が来てくれると思うのだが、駄目なら適当にモンスターを倒しに出よう。
そう思って待っていると、ハバン殿がやってきた。
相変わらずの黒ずくめだな?
「おっと、早いなアッシュ。
とりあえず今日から多少の間、お前さんに教える事になったんだが……。
お前さん今現在、幾ら持ってる?」
「小銀貨1枚と大銅貨を8枚持っています」
「22年働いてその程度かよ。思った通りだったな、ほれ」
ハバン殿はそう言って私の方に布袋を放り投げて来た。
ジャラジャラと音がするのを聞くに、お金が入っていると思うのだが………なぜ?
「そりゃ闘技場のオーナーだった、バグロサス男爵の妹が持ってた金だ。
それ本人が持ってたもんで闘技場とは関係ないからな、こっそり頂いてきたんだよ。
それぐらいはお前さんが貰っても罰は当たらねえさ。
なあ、サブマスター?」
ハバン殿がサブマスターと言ったのは昨日の受付嬢だった。
まさか………
「そうあっさりとバラされても困るのですけどね?
昨夜戻っていたのは知っていますが、無駄に奪ったりはしていないでしょうね?」
「大丈夫だ。流石に国に目を付けられるような余計な事はしないさ。
探せるだけ探して資料を得て来たし、証拠物も押収して来た。
それより<運び屋>がブツブツ言ってたぜ? 「また便利に使って……」とか」
「仕方ありません。あの者は大変に珍しい【転移魔法】使いですからね。
それだけの金銭を支払っているのですから、扱き使うに決まっているでしょう。
当たり前の事です」
「【転移魔法】?」
「【転移魔法】っつーのは一瞬で移動できるっていう凄い便利な魔法だ。
それで田舎町から一瞬で帰って来たって訳だな。
空色の髪である空間の神の加護を持つヤツしか使えないらしいっていう、かなりのトンデモ魔法だと思えばいい」
「なるほど、そんな魔法があるんですね」
「ハバン、貴方もシャドウらしく【影魔法】が使えるでしょうに。
自分も珍しい魔法が使えるという事を横に置くのは止めなさい」
「【影魔法】……」
「簡単に言やあ、影に隠れたり潜ったりする魔法だ。
お前さん、初めてあった時オレが部屋に現れたの分からなかったろ?
アレはオレが影に隠れてたからだ」
「それ以前に影に潜って侵入したんでしょう?
音もなく部屋の中に侵入するのは貴方ぐらいですよ」
そんな事が出来るのか。凄いな【影魔法】というのは。
「お前さんみたいに素直に驚くヤツばかりだと助かるんだがなぁ。
大抵のヤツは自分がやられたらどうのこうのと思うんだよ。
その所為で面倒な事が多くてな。嫌になるぜ、まったく」
「後ろ暗い者ほど、自分がやられたら困るものですよ。
それよりもアッシュに狩りの仕方を教えてあげて下さい。
なぜか強制的に巡回狩人にされたようなので」
「それなー……マスターから聞いたけど、たぶん仕方ない事だぜ?
おそらく上から突き上げ喰らった可能性が高い。
マスターはあまりそういうところを言わないが、定住狩人だけだと絶対に偏るからな。
ハンターの少ない地域はどうしても厳しい」
「ええ、おそらくは私もそうだと思っています」
厳しい? ………おそらくはモンスターが強いか、お金が儲からないかのどっちかだな。
そういう所にはハンターも行きたがらないのだろう。
となると儲かる所や危険が少ない所に集中する。
「偏りの所為で、前から貴族の突き上げを受けていましたからね。
とはいえ我々からすれば、ハンターに移住してほしければ儲かるようにしろと言っているのですが………」
「貴族どもが身銭を切る訳がねーな、あいつら命令すれば何とかなると思ってやがるしさ。
とはいえ、それを王城が見てない訳が無いのによ。
暢気なもんだ」
「領地を治められない者は当然ながら評価が下がりますからね。
国だって無駄な金銭を使う訳が無いのですし、当然ながら爵位は落ちる。
貴族というだけで税から配当を得ているのです。
当然、国の査定を受けるのは当たり前」
「オレだって国の紐付きな訳で、当然ある程度の情報は貰ってるんだよ。
色々と裏でやんなくちゃいけない仕事もあってな」
「今回の事も………?」
「そういう事だ。
アッシュの事は表向きハンター協会だが、裏では当然色々な方が関わってる。
つまり、どう足掻いてもあそこの闘技場は終わってたってこった」
「そんな裏があったんですか……」
「貴族が関わってますからね、こちらからもお伺いを立てなければいけなかったのですよ。
まあ、国は当然のように喜んで潰すのですがね。
余計な者が居なくなれば、新しい者を取り立てられますので」
「どうしても同じ家が残り続けると腐るからな。
国としては新興の家に切り替えていきたいってところだ。
それでも生き残る家は立派な家というか、節度を弁えてる家って事になる」
「そろそろ出なければ行けませんし、まずは買い物をしてきたらどうですか? 背負い鞄は必要でしょう」
「それと縄とナイフだな。
っていうかアッシュは腰紐しかねーから、剣帯を買うのが先か。
貫頭衣も何とかしたいところだが、まずはハンターに必要な物を買い揃えてからだ」
「おっと、忘れるところでした。こちらをどうぞ。
少ないながらも盗人の捕縛に寄与したお礼です」
「なんだ、早速なんかやってたのか」
何かをやっていたと言われても、私は寝ている時に寄って来たヤツを握り潰しただけなのだがな。
それも寝ている最中に勝手にやっているので、なんとも言い辛い。




