02-51-0069
Side:アッシュ
私は荷車屋の主人から伐採斧を借りて、皆の所へと急ぐ。
主人からは「壊してもいいから絶対に勝ってこい」という、ありがたい言葉を頂いてきた。
が、本当に勝てるかは分からない。
少しの休憩で僅かなりとも回復したが、それでも今日の朝と比べれば9割以上の魔力が無くなっている。
そんな私が走って駆け付けると、そこには顔の高さ4メートル、体の長さは推定8メートルほどの巨大で真っ赤なトカゲが居た。
アレがファイアリザードらしい。
「アッシュ、気を付けて! あいつ普通のファイアリザードより遥かに大きいわ!
もしかしたら統率者かも!!」
マーヤから冗談のような言葉が聞こえてきたが、それでも戦って倒さないと村の人に被害が出る。
ここで私達が仕留めるしかない。
そう思った私は飛び出し、一気に接近すると斧で一撃を見舞う。
全力でやったつもりなのだが、刃がおかしな方を向いて失敗してしまった。
「すまない! やはり使い慣れない武器は駄目だな、肝心な時に上手くいかないとは!」
「落ち着けアッシュ。全力では無く、落ち着いて上手く使う事を優先せい!
ここで頼りにせねばなならんのは、お前さんなんじゃ! しっかりと落ち着いてやっていけ。
お前さんの攻撃なら通る筈じゃ。まず足から潰していけ!」
「了解だ」
私はガーンドに貰ったアドバイスの通り、まずは全力を出すよりも確実に刃を直撃させるという形に変えた。
このファイアリザードが統率者だとすれば、そう簡単に切り裂く事は出来まい。
だからこそ全力でやろうとしたのだが、それで刃が変な方を向くのでは話にならない。
尻尾の方では兵士が根本に必死に攻撃を仕掛けているが、まるで効いていないらしい。
どうやら相当の一撃が放てないと、傷を付けるのは難しいようだ。
ファイアリザードの鱗が硬く、天然の強固な鎧となってしまっている。
その所為でどうにもならないんだ。
しかし誰が国境の村にファイアリザードなどを放ったのだろう。
どう考えても壊滅させる気しかない。
そうとしか思えない所業だ。
いったい何故これほどの悪行が出来るのか理解できない。
世の中には頭のおかしい者も居るとは言うが……
「ぬんっ!!」
縦に小さくとも鋭く振り抜く。
その攻撃はファイアリザードの足に命中したものの、他の者達と同じく切り裂く事は叶わなかった。
まさか自分の力が効かないなんて思わなかったが、こうなると身体強化を使うしかない。ないのだが……
しかしそれだけの強化が出来る魔力が既に無いんだ。
「すーっ、ふぅーっ! すーっ、ふぅーっ!」
魔力を少しでも取り込もうと呼吸をしているが、しかしその量は必要な量からすれば少なすぎる量でしかない。
このままじゃ駄目だし、どうすれば………
「やぁっ!!」
その時ラブが戦っているのが目に入った。
いきなりというか、素早く血の剣を出してファイアリザードの顔を切ろうとしている。
もちろん効いてはいないのだが、しかしファイアリザードは鬱陶しそうに顔を左右に振った。
そうする事でブレスを吐かれないようにしているのだろうが、素早く剣を消して出してを繰り返している。
…………素早く剣を出し入れするのは無駄な血を消費しない為だと思う。
それは当然魔力も同じなはずだし、似た使い方は可能なはずだ。
私は今までと違い、一瞬でレッドオーガになるように意識する。
ブルーオーガはまだしも、レッドオーガは今まで散々に使って来たのだ。
ならば素早く使う事ぐらい可能なはず。
そう思い、素早くレッドーオーガになると斧を振り下ろす。
ズガッ!
「グゲェッ!?!?」
「よし! これなら何とかいける!」
私は結果で確信を得ると、攻撃の最初だけレッドオーガになり、すぐに解除するという使い方で攻撃していく。
それでも力が乗るまでは使っているので、普通の時よりも高い威力の攻撃が出せている。
だからこそファイアリザードの鱗を超える事が出来たのだ。
私は素早く身体強化をして解除するを繰り返し、ファイザリザードの表面を傷つけていく。
すると、怒ったファイアリザードが私の方を向こうとするので、私は常に側面に回りながら攻撃を仕掛ける。
私を正面に捉えられないファイアリザードは更に怒ったのだろう。
「ドスンドスン」と足踏みをすると、私の方に強引に首を持って来てブレスを吐いてきた。
しかし見えている攻撃を受けるほど私は愚かではない。
素早く胴体に接近すると、くっつく事で火球のブレスを回避した。
騎士や兵士達も逃げていたので平気だったが、それなりに危なかったのは事実だ。
私は更に後ろに回り、尻尾の付け根を攻撃。
私の振るった斧は、見事に鱗を割って肉へと食い込む。
ズドッ!
「ギュアッ!??!」
尻尾の付け根に傷を付けた私は、そこを近くの騎士や兵士に任せて移動。
側面から顔の方へと移動していくが、その途中の傷もガーンド達が広げる形で攻撃していく。
何も私が一人で戦わなくてもいい、傷さえ付ければそこから肉は抉れるのだ。
そして血を出させる事ができ、血を出させれば敵を弱める事も殺す事も出来る。
だからこそ私は首の付け根にも攻撃し、出血させたら他の者に任せて移動。
そして痛みで呻くファイアリザードを無視し、反対側の側面へと回った。
そこでは騎士や兵士が必死に攻撃していたが、やはり全くと言っていいほど効いていない。
なので私は小さく鋭く斧を振り下ろし、確実に傷を加えていく。
後は騎士や兵士に任せ、とにかく傷を付ける事だけを必死にやる。
既に魔力が限界に近く、使えても後1度か2度だけだろうと思う。
なのでこれ以上は一瞬の使用と言っても出来ない。
そのうえ本当に一瞬しか使ってないかは疑問がある。
ただの思い付きでやっているだけでしかないし、とにかく今はファイアリザードが倒せればそれでいい。
呼吸を繰り返して魔力を少しでも取り入れ、僅かでもいいので回復をしていく。
枯渇間際では身体強化も出来ないので、新たに傷を付ける事は出来ない。
傷を付けた所では、皆が必死になって傷を広げている。
そしてその度にファイアリザードの悲鳴が聞こえてきた。
「ギャァッ!? ギィッ!! ギュアァァ!?!!」
「効いとるぞ! このまま傷を広げて弱らせて殺すんじゃ!!
とにかく勝つのだ、勝つ事だけを考えろ!!」
「「「「「おお!!」」」」」
「我らも負けておれんぞ! ここで我ら軍の意地を見せるのだ!!」
「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉっ!!!!」」」」」」」」」」
私も斧を使いながら攻撃を何度も加えていくが、やはり鱗のある所を突破は出来ない。
それでも同じ場所と思われるところを必死に攻撃し、少しでも敵に傷を負わせようと頑張った。
が、それでも鱗を突破する事は出来ない。
一旦攻撃を止めて見ると、斧の刃はデコボコのボロボロになっていた。
それだけ鱗に叩きつけたのだから仕方ないが、これではとてもじゃないが切れないだろう。
押しつぶす事は出来るだろうから、身体強化で鱗を突破する事は可能だと思う。
そう思っても魔力が回復していないので身体強化が使えず、ファイアリザードの鱗を突破する事が出来ない。
そうしている今も、ファイアリザードは痛みに叫び暴れ回っている。
「ギャァァァァァッ!?!?!」
「おらぁぁ! 尻尾切ってやったぞーーっ!!!」
「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」
どうやら根元の傷を広げる形で尻尾を切り落としたらしい。
凄い事をするものだと思う。
あの尻尾、少なくとも太さだけで1メートル近くあったのだ。
それを少しずつ切っていき、最後には切り落としてしまうなど……
執念すら感じる気がするものの、その御蔭で尻尾攻撃を受けずに済む。
後はそれぞれの場所の傷を広げるだけだ。
それで勝利できるはず。




