02-49-0067
Side:アッシュ
どうやら私は暴走していたらしいが、今は何とか無事だ。
どうも暴走していた間の私は紫色の肌という、初めての色になっていたらしい。
その色の理由もよく分からないが、とにかくピンクヴォークソンを殺し終わった私は荷車に載せていく。
他のメンバーの荷車にもなるべく多く載せ、それが終わったら村へと運ぶ。
出来る限り多くを運ばねばならないので、私の荷車には大量に小さくした獲物が載っている。
もちろん魔力はマーヤが使っているので、相当に減っている私は必死に呼吸から魔力を取り入れながらだ。
「はぁっ! はぁっ! はぁっ! はぁっ!」
「これが疲れているからじゃなくて、呼吸で少しでも魔力を取り入れる為だっていうのがねえ。
流石はアッシュとしか思えないわ、本当」
そう言われてもな。荷車を牽くのは大した事でもない。
なぜか小さくなると重さも軽くなるので、その分だけ大量に積める。
もちろんだが、それだけ魔力を消費するので私も必死だ。
少しでも多くの魔力を取り込もうとしないと、枯渇して倒れる恐れすらある。
そうならない為にも全力全開で魔力を取り込まねばならないのだ。
流石に枯渇して倒れたら、荷車から溢れたピンクヴォークソンとヴォークソンの下敷きになって死んでしまう。
しかし少しでも持って帰らないと勿体なくて仕方ないし、何より女性陣が怖い。
その所為もあり、私は必死に荷車を牽きつつ魔力を取り込んでいる。
どれだけ必死かと言えば、喉がカラカラだが魔力を吸い込む呼吸は止められない程だ。
喉が厳しいが、その文句は言っていられない。
そもそも私達の収入にも関わってくるのだから、そういう意味でも手は抜けない事でもある。
必死に頑張っていれば終わりは来るもので、私達は村が見える所まで戻って来た。
が、その村から黒煙が上がっているのが見える。
私達は急いで村へと戻り中を確認すると、家から出た人達が恐怖で怯えた顔をしていた。
私は錬金術師の店に急ぎ、無事だった錬金術師の店の前でヴォークソンを並べていく。
最後にピンクヴォークソンを下ろしたら大きさを戻してもらい、これでようやく一息吐く事が出来た。
村の入り口近くに居た錬金術師も今は戻ってきており、ヴォークソンの睾丸を切り取りつつ話を始める。
なぜ村から黒煙が上がっているのか、家が焼かれたのは何故か?
「ありゃファイアリザードだ。
突然村に現れたかと思ったら火を吐きやがってな、その所為で一軒の家が燃やされちまった。
ちょうど鉄級の連中に貸している家になるんだが、そこを燃やされたのは偶然だ」
「そもそもファイアリザードって火山なんかに居るモンスターじゃない。
なんでこんなトコに出るのよ?」
「そんな事はオレ達に言われても知らん。
村長も言っていたが、そもそも村がファイアリザードに襲われるなんて初めてだ。
お前さん達の言っていた情報を加えると、なんとしてもヴェルイーを潰したい連中がやってるとしか思えねえよ。
村長は一応まだ分からんから決めつけるなと言っていたがな」
「まあ、それに関しては正しいのではないか?
証拠も何も無いのに勝手に決める訳にはいくまい。
それを元に報復し、しかも間違っていたら目も当てられんだろう」
「当たり前だが、そんな事は村の大多数も分かってる。
とはいえ統率者も含めて、こうも立て続けに色々起こるとなぁ……。
隣国か、それとも近隣の貴族か。
そういう下種な勘繰りもしたくなるってもんだ」
「でしょうね。ここまで立て続けに色々と起こるのは流石におかしいわ。
誰かが故意に起こしていないとあり得ないでしょうね。
だからこそ、誰が、何の為に? っていう部分が重要になるんだけど………。
個人的な怨みだと分からない事が多いわ」
国内貴族の怨みや憎しみだと、本当に分からないだろうからな。
何もしていないのに怨みを買うなどという事もあるのだ。
自分に心当たりが無くとも、攻撃がこのまま続く恐れもある。
外国からなら完全にお手上げかもしれないが、それ以上に厄介なのが国境だ。
ここは国境に一番近い村であり、その所為でここをやられると国境の守りが維持できなくなる。
そうなったら北のガルバス海国は動くかもしれない。
「中央から命令されると貴族は否と言えんだろうからな。そうなると嫌でも攻めなければならなくなる。
最前線の辺境伯は大変だ。戦争は物資も金銭も大量に消費してしまう。
命令する方は簡単だろうがな」
「ええ。
補填はある程度は受けられるでしょうが、全て賄ってもらえる訳でもありませんからね。
持ち出しが多くて疲弊するだけなので、出来る限りしたくはないでしょう」
「そう考えると、少なくとも北のガルバス海国の辺境伯は無いな。
むしろ安全なままの今の方がいいはずだ。
わざわざ揉める必要は無いし、国境が変われば辺境伯じゃなくなっちまう。
それじゃあ、損しかねえだろう」
ならば国内の貴族か、それとも全く違う国がやっているかだ。
二国間で戦争を起こしたい輩が介入している可能性がある。
しかし……前にも思ったが、上手くいかなくて犯人が戻って来たか?
「その可能性があるわね。
普通はほとぼりが冷めるまで戻ってこないものだけど、どうしても戦争が起こってくれないと困るんでしょ。
ここまでやるって事はさ。
それとも天然でファイアリザードが居たのかしら?」
「そりゃねえだろうよ。
お前さんがさっき言った通り、ファイアリザードなんてモンスターがここに出て来る事すらおかしい。
っていうか、話し合いはどうなったんだ?
ファイアリザードは逃げたが、かといって二度と来ないとは決まってないんだぜ?」
「こっちを執拗に狙ってくる可能性があるわね。
とはいえ私達も戦いが大変だったから、少なくとも今すぐの討伐は無理よ。
特にアッシュの魔力が底を尽きかけてるのもあるし」
「妖精族のお前さんがじゃなくて、アッシュがか?」
「そうよ。どうしようも無いんだけどね、こればっかりは。
……っと、そういえばピンクヴォークソンの解体はまだなの?」
「アレ見りゃ分かるだろうが、今は血抜き中だ。
なんといっても一番大事なのは血だからな。
屋内じゃ絶対に出来ねえ作業であり、外でやらないと錬金術師が完全装備をしていても狂わされかねないぜ。
統率者のピンクヴォークソンなんてな」
「確かにそうでしょうね。あの血を見ていても、近づこうとは思いませんよ。
むしろ見ているからこそ絶対に近づきません。
ピンクヴォークソンだと分かっているのに近づくヴァンパイアは唯の愚か者です」
「だろうなとオレも思うが、いったいなんでピンクヴォークソンの事を聞いたんだ?」
「心臓近くにある<混沌の種>を取り出してないのよ。
このピンクヴォークソンって異様なまでに強かったから、もしかしたらヤバめの<混沌の種>を持ってるかもしれないの。
もしファイアリザードが攻めて来て食べたら……」
「そりゃ流石にマズいな。分かった、今のうちに<混沌の種>だけ出しておく。
これで最悪の状況になったら村が終わりかねん。そうなる前に出来るだけ可能性は減らしておかないとな。
それよりアッシュは戦えないのか?」
「戦えないんじゃなくて、あのピンクヴォークソンが異様に強かったのと、その所為で暴走したアッシュは相当の魔力を身体強化で使っちゃったのよ。
だからもし攻めて来たら、身体強化なしで戦わなきゃいけないわけ」
「要するに、いつもの強さが無いって事か。そりゃキツいな。
そもそもファイアリザードは強いモンスターだし、そいつと戦うにしても既に満身創痍ってなぁ………ちょっと勘弁してもらいたいところだ」
「そういうこと。
せめて今日一日来なければ多少は回復すると思うんだけど………予想以上に減っているのが気になるのよねえ。
まさか、あの澱になっている部分まで使っちゃうとは予想外にも程があったわ。
アレが残っていれば何とかなったかもしれないけど……」
「騎士団と力を合わせて何とかするしかありませんね」
ラブの言う通りだな。
もしファイアリザードとやらが攻めてきたら、皆で戦うしかあるまい。




