02-45-0063
Side:ラブ
先程からの話を聞いていると、ますますアッシュさんがとんでもないと分かります。
いったい違法闘技場でどれだけの犯罪者や裏で有名な者達を殺してきたのでしょうか?
ある意味で闇の者達の処刑場のようになっていたのでは?
「確かに仰る通り、闇の者達の処刑場になっていたのかもしれませんな。
とはいえ本人にその意識が無いというのも………こう、何とも言えぬようになる話です」
「あの……総隊長、そちらの少年はいったい?」
「ああ、お前達には話していなかったか。
こちらはカルバス海国のデューエフ辺境伯家の三男で、ラブアトゥヌ・フェ・デューエフ殿だ。
見た目は少年だがヴァンパイアの方であり、私よりも遥かに年上の方だな」
「こ、これは失礼いたしました!!」
「構いませんよ。ぼくはヴァンパイアの仕来りで修行の旅の途中です。
その為、デューエフ辺境伯家の名は出せません。
名乗る事は出来るのですが、家の名を出して歓待を受けるなどは許されていないのですよ。
まあ、どうしても避けられない場合は仕方がないのですが」
「相手に恥を掻かせる訳にもいかないものね。仕方がない事はあるわよ。
あくまでも修行の旅であって、絶対に許されないという訳じゃないだろうし」
「ですね。絶対なんて言っていたら、むしろ実家の名を下げてしまうだけでしかありません。
なので守れる時は守るといったぐらいでしょう。
とはいえ面倒なので、なるべくなら断りたいですけどね。
無駄なお金を使わせるのもアレですし……」
「貴族家の者でも、やはり無駄だと思うのだな?
そういうのには金銭を惜しまないと思っていた」
「もちろん、そういう家もありますよ。
ですけど大半の家では面倒だし、無駄なお金としか思っていません。
見栄を張りたいのは基本的に新興の家ですし、長くある家はそこまで見栄を張らなくても地位は確保していますから」
「なるほど。地位が低いから、もしくは立場が脆弱だから行うのだな。
自分はここまで豪華に出来るというアピールもあるのだろうが」
「ですね。
とはいえ、そんな効果があるかも分からない事にお金を掛けるのも………と考えたら、無駄なのが分かると思います。
高位貴族になるほど、無駄に何かを使う事を嫌う。
そう考えると分かりやすいのではないでしょうか?」
「我が家もそうですね。効率よく無駄なく金銭を使う。
得ているのは領民からの税であり、無駄なものなどない。
父上がよく仰る言葉ですよ」
本当にそう思っているかは知りませんが、そうやって兵士達や騎士達にアピールするのは必要な事です。
我が家でも、こういった細かい事を積み重ねて民との信頼というものがありますからね。
小さい事といって侮ってはいけません。
ようやくヴォークソンの巣の近くまで来ましたが、ここで作戦を決める事になりました。
来るまでにヴォークソンの習性やピンクヴォークソンに関する話をしていたのですが、その情報を元に作戦を練るようです。
「さっきも言ったが、ピンクヴォークソンが居るというのがマズい。
アレと戦うのは女性のみにせんといかん。
最後ならば一斉に攻めれば勝てるが、それまでは女性達に頼むしかない」
「それは間違いないわ。
ピンクヴォークソンは通常のヴォークソンとは逆、男性に対する力を発揮するの。
特に体臭と汗、もっとも濃いのは血ね。
その血を精製して作られるのが、男性用の興奮剤よ。
滅多に手に入らないからか、物凄い高値で売れるわ」
「どんな爺でも勃ち上がって獣になっちまう薬さ。
それがピンクヴォークソンから作られる興奮剤だよ。
犯罪に使われる事もあるぐらいには強力だけど、すぐにバレるぐらいには匂いのキツいものだからね。
挙句、飲んだ本人にしか効かないし」
「それでも見境が無くなるぐらいに強力だから危険だけどね。
もちろん用量を守ればいいんだけど………どこにでも使い過ぎるバカが出て来るのよ。
一時期ピンクヴォークソンの興奮剤は犯罪に使われる悪しき物と言われた事もあったわ」
「もったいない話よねえ。
とはいえ、あの当時もコッソリと隠れて使わせてた貴族女性は多かったらしいけど」
「それは仕方ないんじゃないかい?
貴族の女ってのは絶対に跡取りを産む事を求められるからね。
種族によっては男じゃなきゃ駄目だの、女じゃなきゃ駄目だの言われるし」
「ラミアーとかは女しか生まれないけど、代わりに男だと相手の種族だものね。
ラミアーが産まれるまでは必死ならしいし、大変だと思うわ。
妹の方が跡継ぎを産んでしまって、姉妹の仲に亀裂が奔るというのもよく聞くもの」
確かにそれは厳しいでしょうね。姉が当主なのに妹の血筋が続く事になるとは……
当主としては立派な方でも、血を残せなかっただけでケチがついてしまう。
どれだけの名君でも跡継ぎが出来なければ2段も3段も下に見られる。
それが貴族家というものです。
「と、話が逸れたけど、ピンクヴォークソンと戦うのは私達に任せなさい。
貴方達がヴォークソンを倒すまで牽制しておくから」
「そうしてもらわんと、同士討ちを始める恐れがあるからのう。
ピンクヴォークソンの匂いを嗅ぐだけで興奮して暴れ回る事がある。
ましてや今回の巣におるのはピンクヴォークソンの統率者じゃ。
普通のピンクヴォークソンより強力だと考えて動かねばならん」
「流石に男の天敵と言われるモンスターだ、オレ達じゃ迂闊に近寄る訳にもいかない。
魔力由来の興奮作用だから、死ぬと効果は薄まるんだが……」
「生きている間は強烈だからなぁ。
かつて鉄級に上がったばっかりの頃に遭遇したが、あれは多くのチームとの合同で助かったくらいだ。
それぐらいピンクヴォークソンはヤバい」
「魔力由来ならば身体強化で防げるのでは?
私は香も防いだし、上手くいくような気がするのだが………」
「そうかもしれないけど、それで失敗したら目も当てられないわ。
だからアッシュも大人しくしておいてちょうだい。
流石にアッシュが暴れると誰にも止められないから」
「そうですね。この中で暴れると一番マズいのがアッシュさんです。
お願いですから近づかないで下さい」
「そうだな。君はピンクヴォークソンから一番遠い所に居てくれ。
代わりに暴走しているのを正気に戻してもらいたい。
駄目なら殴って気絶させてくれ」
「それでいいのでしたら、分かりました」
皆が声を出さずに安堵したのが分かります。
流石にアッシュさんが暴走したら冗談では済まないほどに被害が出るでしょう。
それだけで二個小隊が半壊しかねません。
最悪は全滅という事すらあるんです。それだけは何としても阻止しないと。
ぼくもそうですが、皆が視線を合わせて頷きます。
絶対にアッシュさんを暴走させないと。
ここまでなら戦闘に参加しない方がいいのかもしれませんが、アッシュさんの強さはヴォークソンを倒すのに必要です。
無ければ困るというくらいですから、戦闘に参加させないなんて事はあり得ません。
となると暴走させないようにするしか道が無いんですよね。
強い方が居ると心強いですが、その反面こういった時に困るという事もあるのでしょう。
こういうのも実際に経験しないと分からない事だと思います。
アッシュさんが暴走したと想像するだけでも、背中に嫌な汗が流れそうになる。
本当に恐ろしい出来事ですから、絶対に無いようにしないと。
それ以外にはヴォークソンとの戦い方や位置取り、そしてピンクヴォークソンからどれだけ離れれば安全か。
そういった事を話し合い、ぼく達はヴォークソンの巣に向かいます。
ここからは荷車を置いて全員が戦闘態勢ですが、その最後尾にアッシュさんを置く形になりました。
とにかく可能な限りピンクヴォークソンから離れる。そして女性陣が倒せそうなら倒す。
これが作戦とも言えない作戦ですが、場当たり的になるのは仕方がないとのこと。
さて、それではぼくも血の剣とノコギリで戦いましょう。
アレなら十分に役に立つはずですからね。




