02-43-0061
Side:マーヤ
わたしは朝食を食べ終えると、アッシュの肩に乗って村の外にまで出る。
そこには多くのテントが立っており、その中心に磔にされた者が見えた。
近くには鎧などを脱がされたものの、肌に焼けた跡がハッキリ残っている兵士達も居る。
相当に痛かったでしょうね。
ま、それもこれも全てコイツが悪いんだから、わたしを恨まれても困るわよ?
ついでに情報を語らなかったのもコイツでしょうしね。
それよりも睨んでくる奴らが鬱陶しいから帰りましょうか?
「なんだか睨んでくる奴らが居るわね?
面倒臭いから帰りましょうか?」
わたしがそう言った瞬間、怪我をした兵士達は殺意の篭もった眼で周りを凝視し始めたわ。
途端にわたしを睨んでいた奴らは視線を逸らした。
なるほどね、そういう事か。
「そこの磔にされているバカと一緒になって、偉そうにしていたゴミが居るみたい。
ここの辺境伯はその程度の軍しか持っていないって事になるんだけど………
わたしを睨んできたバカどもは全く理解していないのかしら。呆れるわ」
そのわたしの一言に対し、磔にされているヤツが喚き散らし始めた。
「き、貴様如きがなんだというのだ!!
さっさと貴様が頭を垂れて治療をしておればよかったのだろうが!!」
「へーえ……って事は、さっきわたしを睨んできた奴らもコレと同類って訳かー。
ねえ、今度はヴォークソンの巣に行くんでしょ? なら睨んできた奴らを最前線に出せばいいわ。
わたしはそいつら治療しないし」
「ふむ、確かにそれはいい事だ。
この愚か者と一緒になって下らぬ事をしてくれていたのだ。
その覚悟は出来ていよう? ……なあ?」
「「「「「………」」」」」
この中に多少は居たみたいだけど、そこまで数は多くないわね。
とはいえ相当の殺意が向けられているという事は、排除したくても出来なかったのでしょう。
でも、わたしという生命神の加護を持つ者に喧嘩を売った。
もちろんだけど、わたしには何の権力も無い。でも権力者が困る力がある。
そして【生魔法】使いの扱いが悪い所なんて、他の【生魔法】使いも当然行きたがらない。
必然、貴族家としては困った事になる。
かつてからもそうだけど、似たような事は何度もあった。
わたしだって、あの国の○○家は止めた方がいいとか、そっちの国の○○家の領地には近づかない方がいいとか、何度も何度も聞いてきたわ。
それだけ愚か者が多いんだけど、その後に【生魔法】使いを呼び込むのには苦労をしてるのよ。どこの貴族家もね。
当然だけど、わたし達は奴隷じゃないの。助けてもらえて当たり前じゃない。
【生魔法】を使うかどうかは本人に委ねられており、目の前で見殺しにしたって構わないのよ。
それは<生命神協定>において認められている。
当然、わたしは敵を治療するようなお人好しじゃない。
「「「「「「「「「「敵……」」」」」」」」」」
「当たり前でしょ。
【生魔法】使いを自分の都合よく使えるなんて勘違いをしてるんだもの、そんヤツは【生魔法】使いにとって敵でしかない。
そして敵の治療をするバカは居ないわ。
そんな当たり前の事すら分かってないの? 【生魔法】使いは王族の治療すら拒否できるのよ?」
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
「王族の治療すら拒否できる【生魔法】使いが、お前達如きに頭を下げるとでも思ってんの?
だから愚か者だと、バカだと言ってるのよ。
この地方領では偉そうに出来たんだろうけど、わたしからすればお前達如きが何様のつもりだ? って話なのよねえ」
「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」
実際に王族の治療すら拒否できるって事で、ようやく【生魔法】使いがどういう存在か理解したようね。
実際には王族の治療を拒否するのは難しいし、根本的には余程の事が無いと断らないんだけど。
だって拒否すると面倒臭いのよ。
王族がやらなくても忠誠心から、こっちに面倒な事をやってくる連中が居るの。
とはいえ、そんな国からは出て行くから、結果としては国の為にならないんだけどね。
忠誠心だけで何も考えないバカって、どこの国にも居るから困りものなのよ。
それはともかくとして、わたしは兵士達の治療を始める前に全裸土下座をさせる。
コレが条件だし、コレをしないなら大銀貨1枚だもの。
わたしはどっちでもいいわ。どっちにしても損は無いし。
磔にされていた男の縄が解かれたけど、男は土下座をしようともしない。それどころか服を着たまま。
どうやら謝罪をする気も無いみたいだし帰りましょうか。
「うぐぐ…………ぐぐ」
男は凄い葛藤をしながら服に手を掛けたけど、そこから進まない。
どうしても自分のプライドが大事みたいね。
仕方ない、ここはわたしが折れましょう。
「しょうがないから、わたしが折れてあげるわ。条件を変えてあげる。
タダで治療してあげる代わりに、あの愚か者とわたしを睨んできた奴らをヴォークソンの巣で殺せ。
これがタダの条件よ」
「喜んで、受けましょう。
お前達、ヴォークソンの巣で亡くなった者が出た。
我らは悲しみを乗り越えて任務に励んだのだ。よいな!!」
「「「「「「「「「「ハッ!!」」」」」」」」」」
「な!? ふ……ふざけるなぁっ!!!!」
愚か者は未だに服を着て帯剣していたからか、剣を抜いてわたし、というかアッシュを襲って来た。
しかしアッシュは動じる事も無くレッドオーガになると、男の剣を左手の指で挟んでキャッチした。
いや、とんでもない事をサラッとするわね……
「なぁっ!? ……ぐっ、この! 離せぇ!!!」
「いや、離したら切りに来るだろう。なんでそんな事をしなきゃいけないんだ?
それにこんな脆い物じゃ、私を切るのは無理でしかない。
「ベキィ!」……ほら、言った通りだろう?」
事も無げに左手だけで剣を圧し折ったわねえ。
流石はアッシュとしか思えないけど、騎士も兵士も目が点になってるわよ。
当然でしょうけど。
「そもそも理解していなかったのだろうが、宿で剣を抜いたろう?
あの時に既に殺す事は簡単に出来たのだよ。お前如きはな」
そう言ってブルーオーガにまで身体強化を引き上げたアッシュは、足を少し上げて地面に下ろした。
ドゴォン!!!
その凄まじい音と振動に愚か者は尻餅をついて怯え、地面についた両手を使って後ずさりを始めた。
気持ちはよく分かるわ。
目の前の舐めていた相手が、実は自分をあっさり殺せるバケモノだったのだものねえ。
それは逃げたくもなるでしょうよ。
実際に素手で握り潰されかねないもの、腕とか足とか……
「君はとんでもないな。
それだけの力があれば、私の副官にだってなれるぞ。
今すぐ辺境伯家の軍に来たまえ!」
物凄く興奮してるけど、あの情けないヤツとは実に対照的ねえ。
この程度の器が無ければ、辺境伯家の者とは言えないか。
「申しわけありませんが、自分は巡回狩人なのです。
ですので、ここの出身でもなければ、期間が終わったら別の所に行く事が決まっています。
なので申し訳ありませんが、お受け出来ません」
「君は巡回狩人だったのか。という事は王都の紐付きとなるな。
残念だが、流石に王都の紐付きを騎士団に入れる訳にはいかない。
とはいえ本当に惜しいとしか思えない逸材だ。
そこまでの力を持ちながら粗野ではなく、きちんと礼儀を弁えている。
そこのゴミより余程に優秀だ」
そのゴミをチラリと見ると、顔が青褪めたままで怒りも何も無いように見える。
となると、アッシュの強さを見て、完全に心が折れたようね。
なら兵士達の治療をそろそろ始めましょうか。
今までなら嫌でしょうがなかったんだけど、今はアッシュっていう便利な魔力タンクがある。
だから魔力の消費が多い【生魔法】も使いやすいのよね。
そういう意味でも助かるわ、本当。




