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Side:ラブ
昨夜誰かが来たのは知ってましたけど、どうやら騎士団の人達が来ていたようです。
そんな言葉を聞いたような? 気もするんですけど、あまり覚えていません。
それはともかく、山鹿の巣に居たライトニンゲディアーの所為で兵士が負傷したそうです。
ぼくも本で読んだ事がありますが、ライトニングディアーはその名の通り、角を放電させながら突撃してくるモンスターとなります。
黄色い髪の方と同じく【雷魔法】が使えるようで、モンスターの中でも厄介なのが知られているんですけどね?
マーヤさんがライトニングディアーだって言ってましたから、騎士団の人達も知っているはずなのですが……
その割には何の対策もせずに突っ込んだようにしか聞こえない被害です。
どういう事なんでしょう?
「わたし達ハンターの事を死体漁りとかホザいていたのが居たじゃない? あいつ、勝手な事をしているヤツだったみたいよ。
もしかしたら適当に地図を読んだだけで、書いてある文字まで読めなかったんじゃない? 頭が悪そうだったし」
「いやいや、騎士団にある者が字も読めないなんて……」
「いや、居るぞ?
昔、臭い女の相手をさせられていた時、騎士であるにも関わらず満足に読み書きも出来ない愚か者が居るとか怒っていたのが居た。
たしか親族の子か何かだったらしく、強く言えないとか何とか……」
「………まあ、臭い女の相手はともかくとして、確かに面倒な関わりの親族となれば、簡単に排除するわけにもいかないでしょうね。
そうなるとそんなバカが残るし、そういうヤツだからこそ偉そうにするわけで……」
「確かに聞く人物像とよく似ていますね。
辺境伯家の者に対して舌打ちをするわ、あからさまな渋面をするなんて、普通はありえませんよ。
余程に自分が何もされないという確信でもなければ絶対にしないでしょう」
「そうよ。
となるとアッシュが言う通り、辺境伯家の親族か何かで間違いないでしょうね。
まあ、そんなヤツが幾ら吠えたところで、私には何の意味も無いんだけどさ」
「<生命神協定>がある限り、生命神の加護を持つ方は不当に扱われたりしませんからね。
そういう意味では権力の通じにくい方なんですよ。マーヤさんは」
「王族でも拒否は出来るんだけど……むしろ王族はしっかりしてるのが多いから、貴族よりも遥かにマシなのよ。
バカな貴族よりも切実だから」
「王族が健康を害したとなれば大問題ですからね。
そうならない為にも、迂闊な事は出来ないでしょう。
それに王族であるからこそ厳しく育てられると聞きます。
むしろ貴族の方が甘いのでしょうね」
「それは領地を統治するのと、国家を統治するのの違いではないか?
国家の問題ともなれば、その問題は計り知れない程に大きいだろう。
それに比べて地方領だと、国家と比べればな……」
「全然小さいわよね。流石に一地方領と国家では桁が違うわよ。
王族はそれだけの責任を背負っているとも言えるから、そう簡単に下らない事をしないのでしょうね。
もちろん中にはバカも居るけど」
「それは大抵の場合において、育てるのに失敗しただけでは?
王族ともなると、様々な貴族の思惑も絡みますし。
愚かな王子を望む者も居ますよ。結局は、その愚かな王子と共に破滅しますが……」
「それはそうだろう。
そんなのが王座についてみろ、国が傾きかねないのは奴隷闘士であった私でさえ分かる事だ。
他の王族も貴族も全力で妨害するだろうさ。彼らだって国を傾けたい訳ではないだろうしな」
「まあ、甘い汁を吸う為にも国に傾いてもらっちゃ困るでしょうね。
そういう意味では腐った貴族も国を憂う貴族も一致してると言えるわ。
残るは国を売ってでも自分が得をしたい連中よ。
こういう奴らが一族まとめて始末されるの」
「ですね。ぼくの祖国でも何度も似たような事があったと聞きます。
なんで自分は上手くいくと思うんでしょうね?
今まで多くの愚かな者が失敗してきたのに、自分は成功すると思ってやるんですよ。
頭が悪すぎるとしか思えません」
そんな話をしつつも宿の井戸で顔を洗ったり歯を磨いたぼく達は、朝の酒場へと朝食を食べに行く。
中に入って注文し、席に座って待っていると、2階からいつもの女性達と男性達が下りて来た。
あの人達って毎日だけど飽きないのかな?
経験も無いぼくには分からないけど、毎日同じ事しても飽きないって不思議だと思う。
……とはいえ、ぼくが本を読むのと変わらないのかも。
「今日も早いねえ。こっち、いつものセット! ……で、騎士団の事は何か聞いたかい?
こっちは全くと言っていい程に情報が無いんだよ。
ま、集めてないから当たり前なんだけどね」
「あれだけ部屋に篭もってたら、そりゃ情報を集める暇なんて無いでしょうよ。
それはともかく、騎士団ならライトニングディアーを倒せたんだと思うわ。
ただし、かなりの怪我人を出したみたいだけどね」
「ほう、怪我人が大量に出たのか。
いい気味じゃ! ワシらを死体漁りなどと罵るからそうなるのだ。
情報も何もなく簡単に勝てるのなら、ワシらハンターは苦労などせんわ!」
「そうだな。まことに申し訳ない」
ぼく達は気づいていたんですが、どうやら山髭族の人は気づいてなかったみたいですね。
「ガーンド。こちらの方は辺境伯家の方で、今回の騎士団の総隊長をしているバーナンド様だ」
「あ、ああ。……その、すみませぬ」
「いや、構わないさ。まさか現地のハンターと揉め事を起こすなど私も思わなかった。
まことに申し訳ない、こちらの監督不行き届きだ。
それと………改めて治療をお願いしたい」
「昨日の条件はどうするの? 私はどっちでもいいけれど」
「既にあの者は我々がテントを張っている所で磔にしてある。
怪我をした者達に殴られ蹴られたが、まだ死んではいない。
アレには向こうに行ってから全裸で土下座をさせよう。なので小銀貨1枚でお願いしたい」
「私から言ったからね、いいわよ。
あの愚か者がどうなったか見るのも楽しいだろうし、アレだけは治療してやる気は無いけど……いいわよね?」
「もちろんだ。あの男は土下座をさせた後、再び磔に戻す事になるだろう。
今回の事は我が辺境伯家を愚弄する事でもある。
アレの親が五月蠅く言って来ようとも、対処は幾らでも可能だ。
特に生命神の加護のある方を舐め腐ったのだから」
確かにアッシュさんの言う通り、濃い顔をしているけど恰好いい人間族ですね。
あの愚かな者は人狼族でしたし、あまり顔の出来が宜しくありませんでした。
その嫉妬というのは多分にありそうな感じです。
どんな種族でもそうですが、嫉妬というのは狂わせてしまいますからね。
あの愚か者も元々はそうではなかったのかもしれませんが………辺境伯家に泥を塗った時点で終わりでしょう。
それを許せば辺境伯家が舐められます。
当然、それはあってはならない事ですので……
「なら食事が終わったら行かせてもらうから、それまでは待ってちょうだい。
それとアッシュとラブもついていきてね」
「分かった」
「分かりました」
その時、ぼくの顔を見た総隊長の人が驚いた顔をしました。
「もしやガルバス海国の辺境伯家である、デューエフ家の方では?」
「ええ。ぼくはデューエフ辺境伯家の三男で、ラブアトゥヌ・フェ・デューエフと言います。
とはいえ今はヴァンパイアとしての修行の旅の最中ですから、気になさらないで下さい」
「そうですか……
ヴァンパイア族には厳しい修行の旅があると聞きますが、まさかそのような歳で出る事になるとは……」
「いや、普通は後40年は先の筈なんですけどね。でも、ぼくは三男なので……」
「ああ、そういう……。
私は次男ですが、お互いに大変ですね」
「そちらもですか。
生まれ落ちた家が家ですので、仕方ないのでしょう。
きっと……」
ぼくはバーナンド殿と顔を見合わせると、お互いに苦笑いをしてしまった。
それも含めて仕方ないんだろう、きっと。




