02-41-0059
Side:アッシュ
ハンター協会を出た私達は酒場で食事をし、終わったら宿へと移動。
2人部屋をとって中に入り、後はゆっくりとするだけとなった。
とはいえ起きていても灯りの無駄なのでベッドに入り、寝ながら魔力の練習をする事に。
しかし何の進展も無いまま寝入ってしまう。
…
……
………
ドンドンドン! ドンドンドン!
「お客さん、起きて下さい!
騎士団の方が来ています! お客さん、起きて下さい!!」
ドンドンドン! ドンドンドン!
ドアが激しく叩かれ、何かを喋っている声で目を覚ました私は、仕方なくドアを開けて話を聞く事にした。
大きな音だったのでマーヤもラブも起きてしまったらしい。
後ろでゴソゴソする音が聞こえる。
「なんでしょう?」
「すみません。騎士団の方が用があるから起こしてこいと……」
「私達には何の用も無いのですが、とりあえず宿の方に文句を言っても始まりませんね。
私が行ってきましょう」
「お願いします。
とにかく起こして連れて来いの一点張りで、私どもも何も聞いていないのです」
どうやら宿の者にさえ何も言っていないようだ。
どれだけ横暴な事をしているのだろうかと思うが、臭い女と同じぐらい面倒な奴らと思えばいいだけか。
私は対処を臭い女を相手にする時と同じように考え、面倒だが丁寧に接する事にした。
宿の玄関まで進むと、イライラしたような騎士団の隊長が居たが、もう一人は誰だろうな?
地図を奪うように持って行ったヤツともう一人居るぞ?
「私に用があると伺いましたが、いったい何の用でしょうか?」
「「………」」
何故か2名とも私の頭を見ているようだが、いったいどういう事だ?
「灰色の貴様なぞ呼んでいない。その汚い頭で出て来るな!
それよりオレンジの髪の者がいたはずだ。
我らが使ってやるからさっさと出せ!!」
「………<生命神協定>をお忘れで?
事と次第によっては王都のハンター協会に報告しますよ?」
「何を下らぬ事をぬかす。我らに脅しでもかけておるつもりか!
もしそうだというなら、覚悟はできておるのであろうな!!」
キィン!
目の前の地図を持って行ったヤツがいきなり剣を抜いたが、私は特に気にしていない。
何故ならブルーオーガになれば一撃で殴り殺せるからだ。
そのうえで私はマーヤを守ったという事にしかならない。
どうも聞いた話、生命神の加護を持つ者の権限は結構強いようなのだ。
なので私はマーヤを守るという名目で、騎士を叩き潰す事も不可能ではない。
「何をやっているのだ、こちらは治療してもらう側なのだぞ。
そのような態度で断られたらどうする? 貴様に責任がとれるのか!!」
「………」
「分かったらさっさと剣を仕舞え。愚か者め!」
「………チッ」
そう言って渋々と剣を仕舞う態度の悪いヤツ。
いったい何故こいつはここまで態度が悪いのだろうか?
「私は今回の派遣軍の総隊長をしている、バーナンド・クル・ファゼード。
ここファゼード辺境伯家の次男となる」
「これは申し訳ありません。自分は銅10級のハンターでアッシュと申します。
確かにオレンジの髪の仲間は居ますが、いったい何の用でしょうか?
何も聞かされていないのですが……」
「貴様、何も話しておらぬのか?
生命神協定を盾に治療を拒否されたらどうするつもりだ。
何故その程度の事も考えぬ!」
「………」
あからさまに態度の悪いヤツが不機嫌になったが、そもそも濃い顔だが格好いい方は辺境伯家の方だろうに。
何故こんな態度が許されているのだ? 普通は貴族家の方に対してする態度ではない。
いったいこの領の騎士団はどうなってるんだ? 忠誠心の欠片も見えないが……
「すまないが山鹿の巣で黄色い鹿に苦戦してしまい、多くの怪我人が出てしまったのだ。
ハンターの協力があれば良かったのだが……」
「は? ……そこの方が死体漁りなど要らんから地図だけ寄越せと言い、支部長から地図を奪って行きましたが?
私はその場に居たので覚えています」
「なんだと?」
「………」
濃い顔の恰好いい男が明らかに怒りを滲ませた声を放つと、流石にマズいと思ったのか態度の悪いヤツが目を逸らした。
どうやらハンターを死体漁りなどと罵ったのは独断で勝手にやったらしい。
通りであんな下らない事をするはずだ。
普通はわざわざ揉め事や諍いなどを起こそうとはしない。
相手の顔を一応は立てておくものだ。
何かあった際に協力を拒否されたら困るからな。
しかしこの態度の悪いヤツは、そんな事も理解していなかったらしい。
「後で覚えておけよ、貴様。キッチリと報告するからな」
「………」
流石に辺境伯家の方を本気で怒らせたのだと思ったのだろう。縮こまるようになってしまった。
もしかして辺境伯家の方は恰好いいので、やっかみを受けているのだろうか?
なんだかそんな気がするぞ?
そう思った矢先、上からマーヤが下りて来て私の左肩に座った。
どうやら上で一部始終を聞いていたみたいだ。
「ふぁ~あ……あんた達が五月蠅いから寝られないじゃない。
で、聞こえてたけど、治療でしょ? 一人頭大銀貨1枚ね。
ただし、とある条件を聞き入れてくれるなら一人小銀貨1枚でいいわよ?」
「その条件とは?」
「全兵士を集めた場で、そこのバカに全裸で土下座謝罪させなさい。
私達ハンターを死体漁りと言った事も含めてね」
「なるほど、受けましょう」
「なっ!? ふざけるな!
なぜ私がそんな事をせねばならんのだ!!」
「ならば治療に掛かった大銀貨は全て貴様が払え。たとえ奴隷落ちしたとしてもな。
我が辺境伯家に傷を付けたのだから当然であろう。
私がいつまでも優しいと思うなよ?」
「………」
「奴隷落ちか全裸土下座か、好きな方を選びなさいな。
どっちも嫌なら治療はお断りね。
お前の所為で死んだのだから、お前が怨まれなさい」
「………」
態度の悪かったヤツは視線をキョロキョロ彷徨わせて、必死に逃げ道を探しているようだ。
何故か私の方を見てくるが、私が助けるとでも思っているのだろうか?
助けてやる義理など欠片も無いのだが……
「くっ! 貴様、さっさと助けろ!
代わりにお前が謝罪などをすればいいだろう!」
「いったい何を言っているのかサッパリ分かりませんが?
私には何の関わりもありませんよ。
まして私に剣を向けたのはどこの誰でしたっけ?」
「………」
どうやら私に剣を向けた事を都合よく忘れていたらしい。
全て自分が悪いという自業自得っぷりだが、未だに必死に逃げ道を探しているところを見るにプライドだけは高いようだ。
そんな態度に呆れたのか、マーヤが飛んで2階に戻ってしまった。
どうやら付き合いきれないという事らしい。
「【生魔法】使いが上がってしまいましたので、私もこれで失礼します。では」
そう言って階段を上がろうとした際に大きな声を上げた。
「わ、分かった! 謝罪すればいいのだろう!
いちいち嫌らしいやり方などしおって!!」
「既に部屋に戻ってしまっていますので、もう遅いですよ。
手遅れです」
そう言って私は部屋に戻った。
あの男は自分が決めるまで誰もが待ってくれると思っていたらしい。
即断即決しなければ死ぬという場面が、あの男の人生には無かったのだろう。
だからあんなにも決めるのが遅いのだ。
皆が待ってくれるなどあり得ないというのに。
部屋に戻るとマーヤは既に寝ており、私もベッドに入って目を瞑る。
その後は大きな音が聞こえて来る事も無く朝を迎えたが、ライトニングディアーの角にやられた兵士達は大丈夫だったのだろうか?
治療を頼むという事は死んではいないのだと思うが、痛みで眠れなかったはず。
私も傷が酷い時には一睡も出来なかったからな。辛い気持ちはよく分かる。
同情はするが助けてやろうとは思わない。
そもそも私の力ではないし、助ける助けないはマーヤが決める事だ。
私が口を挟む事じゃない。




