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 Side:アッシュ



 私は3頭の山狼の死体を持って移動し、木を引っこ抜いた後の穴に埋める。

 ラブが吸い尽くしたのか完全に干乾びており、とてもではないが売る事も出来ないからだ。

 そういえば統率者の素材で良いナイフを作れないだろうか?

 それとも村の人がもう作っているかもしれないな。


 錆びない便利なナイフが手に入るなら、お金を出してでも買っておきたい。

 特にウィンドウルフの牙と、ライトニングディアーの角なら良いナイフが出来るはずだ。

 私は木を引っこ抜いて荷車に載せながら、村に戻ったら聞いておいた方がいいなと覚えておく。


 ラブの伐った木も荷車に載せたら、再び村まで運ぶ。

 今までと違い大量の木屑が出ていたが、積もったそれはフカフカなのかマーヤが投げて遊んでいた。

 一番年上だが一番子供っぽいなと思い出しつつ、私は荷車を村まで牽く。


 解体所に寄ってウィンドウルフとライトニングディアーの事を聞いてみた。

 すると……


 「あの統率者の素材かい?

 確かにナイフにする予定だけど、既にシェリアさん達が予約済みだぜ?

 お前さんが倒してきたんだから、一番の権利はお前さんにあるんだが………

 売る時に言っておかないと、後は早いもん勝ちだ」


 「あー、やっぱりそうですか。

 今日、木を抜きながら、そういえばあの素材はどうなったのかなと思い出しまして……」


 「そうだったのか。

 まあ、お前さんは強いけど新人だって聞く。なら新人がやりがちなミスもするか。

 とりあえず自分が倒した獲物の権利は自分にある。

 売る時に言っておかないと、その権利は放棄したと見做(みな)されるから注意しろ」


 「分かりました。これからは気を付けます」


 しまったな。売る時に言わなければいけないなんて知らなかった。

 お金を貯めるのが先で、そういう部分はまったく聞いてなかったな。

 新人にはよくある失敗だと言っていたから諦めるか。

 そもそも知らなかった自分が悪いで終わる話だし。


 もしかしたらハバン殿も意図的に言わなかったのかもしれない。

 「失敗しないと分からない事は、失敗して覚えろ」と言っていたしな。

 危険の無い失敗なら、失敗して覚えた方がいいのだろう。

 でないとすぐに忘れたりするのが生き物というものだ。


 私は荷車を牽いて材木置き場に行き、木を下ろしたら南の森へと行く。

 そしてラブとマーヤに戻る事を言い、木を引っこ抜いて載せたら3人で戻った。

 木屑は鍬(くわ)で一ヶ所に集めておいたが、早速とばかりに何かの虫が動いていたな。

 隠れ家に丁度良かったのだろうか?


 村に戻った私達は鍬(くわ)を村長に返して、荷車屋に荷車を返す。

 そして村長から貰った木札を持ってハンター協会へ。

 そして受付に居た支部長に提出したのだが……呆れられた。


 「一日で木を67本持って帰って来たって何ですか?

 いや、アッシュのやった事ですから間違いはないのでしょうが。

 流石に簡単に出来る事ではありませんよ、コレ」


 「そのうちの10本ぐらいはラブがしたので、実際に私がしたのは57本ぐらいです」


 「それでも十分すぎます。

 そもそも一人当たり、一日で2本から3本が平均ですからね。

 実際に3本持って帰って来れたら十分なのですよ。

 村長がアッシュに任せるとか言い出すはずです。

 これを見ればそう言い出すのは当然でしょう」


 「ですねぇ。

 アッシュの御蔭で今年は木材集めに出る必要はなくなりそうで助かります」


 「いつも通りの植林には出ないといけませんけどね」


 「それでもアレだけで済むんですからマシですよ。

 【土魔法】使いに切り株を抜きやすくしてもらい、皆で抜けばいいだけですからね。

 どうせ抜くのは男性陣の役目ですし、私達は見ていれば済むんですから楽なものです」


 「ラブが伐った木の切り株が残ってるけど、アッシュは木を引っこ抜いたから残ってないわよ?

 アッシュは自分で穴を埋めてたしね。

 だから切り株を抜く必要はほとんどないんじゃない?」


 「「………」」


 何故か私に対して妙な視線を向けて来る支部長と受付嬢。

 呆れているような、それでいて胡乱気(うろんげ)なような………

 全てまとめて言うと「何やってんだコイツ?」という目だ。

 そんな目を向けられてしまった。


 「ゴホンッ! まあ、アッシュですからね、何でもアリなんでしょう。

 これ以上は考えても無駄ですし、楽になっているだけに素直に喜びましょう」


 「まあ、それで構いませんが。

 それよりも騎士団はどうなりましたか?」


 「まだ戻って来ていませんね。

 彼らは自分達のテントなどがありますので、村の外で野営を行います。

 近づく事は無いでしょうが、近くに行くと五月蠅いですので注意して下さい」


 「誰もあんな連中のところに好き好んで行かないでしょう。

 子供達が行こうとしたら止めるくらいね。

 まともな大人は行かないわよ、あんなムサいところ」


 まあ騎士や兵士なんて基本的に男だ。

 もちろん女性騎士や女性兵士もいるが、基本的に部隊としては分けられていると聞く。

 理由は一緒にすると下らない事をするバカが出て来るからだ。これも臭い女達が言っていた。


 自分達は私を買っている癖に、男性兵士は性欲の獣だとか言っていたか。

 呆れながらも相槌を打っていたのを思い出す。


 まあ、それはともかくとして、だからこそ女性騎士や女性兵士と一緒に派遣される事は無い。

 そもそも女性騎士や女性兵士は、基本的に女性警護の為の者達だ。

 貴人の女性を警護する事が多いが、中には女性の移動の為に駆り出されたりもする。


 この時の女性というのは、いわゆる所の娼婦の事だ。

 戦地で迷惑を掛けない為に娼婦を同道させる貴族も居るので、そういった際の娼婦の警護として女性騎士や女性兵士が駆り出されると聞いた。

 今回の村への遠征軍は全て男性なので、娼婦の用意などはされていない。


 まあ、娼婦を動員するのは戦争の時ぐらいなので、国境のモンスター退治などに連れて来ないのは当たり前となる。

 おかしな兵士が暴走しなければいいのだが………


 「まあ、ムサいかどうかはともかくとして、騎士団はまだ戻ってきていませんので私達も情報はありません。

 なので山鹿とヴォークソンの巣がどうなったかは不明です。

 そもそもどちらから攻めているのかも分かりませんし」


 「それ以前にライトニングディアーもピンクヴォークソンも厄介よ?

 ライトニンゲディアーの雷角は感電して痺れる恐れが高いし、何と言っても騎士や兵士の装備は鉄の鎧。

 金属は雷を通しやすいから相当に危険なんだけどね? 騎士団は分かっているのかしら?」


 「アッシュみたいに腕や足だけならなんとかなりますが、胴も金属で覆うと相当にマズい気がします。

 それに山鹿の群れでしょう? 場合によっては逃げ帰ってくるかも……」


 「とにかく帰ってくるまでは分からないですし、私達は酒場に行って食事をしたら宿に戻ります。

 今日は村と南の森との往復で疲れたので」


 「それはそうでしょうね、っと出来ましたか。

 アッシュのはすぐに終わりましたが、少年の物が時間が掛かってしまいました。

 アッシュのは銅10級です。統率者の事も含めれば余裕でこの級位ですよ。

 村や町への貢献という意味でも、今日の木材運びで完全にクリアーしていますしね」


 「ぼくのハンター証、なぜか銅3級なのですが……?」


 「それは木を10本ほど伐ってきたからです。

 先程も言いましたが、一日に2本から3本なのです、普通は。

 アッシュが運んだにせよ、一日で10本を伐れれば十分でしょう。

 後は戦闘能力というか狩りの能力ですが……」


 「今日、普通に山狼を殺してたわよ?

 その後に干乾びるまで血を吸ったから、アッシュが引っこ抜いた木の穴に埋めてたけど」


 「流石に血が吸い尽くされている死体を持って帰ってきてもな。

 カラカラに乾燥していたし、あんなのゴミにしかならないだろう。

 使えても牙ぐらいだろうが、牙だけで売れるのか?」


 「普通の山狼では難しいですね。

 狼の咬む力は強いですが、だからといって牙まで強いとは限っていません。

 統率者ほどになれば変わりますけどね。

 何故か分かりませんが、同じ種族でも統率者だと強靭なのです」


 なるほど、だからシェリア殿達が予約したわけか。


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