02-39-0057
Side:アッシュ
ラブが木を伐り倒したが、本人は全く納得していないようだ。
とはいえ気持ちは分かる。
一撃でスパッと切り裂ける者が居て、なぜ自分は出来ないのかと考えれば納得は出来ないだろう。
木を伐る仕事ではあるのだが、それと修行を分けるのは無理そうだな。
色々な事が頭の中に浮かんできて、試したくて仕方ないのだろう。
私にも似たような事はあったので分かるのだ。
ああいうのは納得するまで試さないと落ち着かない。
なので今は放っておくしかないだろう。私は私で引っこ抜いて運ぶか。
村に持って帰った時に村長に言われたのだ、出来るならば南の森の間伐を進めてくれと。
どうやらせねばならなかったようだが、その時間も無くハンターに頼もうにもモンスターの巣が見つかってそれどころではなかった。
なので騎士団が来たこのタイミングで頼んできたらしい。
木は沢山あって損は無いし、置く場所はあるので問題ないらしい。
実際に村の材木置き場は結構な大きさをしていた。
どうやら一気に伐って大量に運び、それで半年を暮らすのが普通だったらしい。
今までなら一ヶ月ぐらい掛けて木を伐って運んでいたらしいのだが、それが早く終わりそうだとのこと。
まあ、理由は私だ。
木を直接引っこ抜いて持って行ったのを見て、村長も目を丸くしていた。
その後に色々と聞かれたが、私が問題なく引っこ抜ける事が分かったのだろう。
それなら今の内に一年分の木を抜いておこうとなったようだ。
一年分というのも相当だが、ある程度の乾燥から薪にして炭にするので量は減るそうだ。
なのでどんどんと運び込んでもらって構わないと言われた。
それに残っていた材木も炭にする物はしているそうなので、無駄にはなっていないらしい。
家の補修などに使う乾燥した木材はそもそも置いたままだそうなので、そっちの方は気にしなくてもいいと言っていた。
長い丸太のまま放ってあるのを見たので、家が2軒ほど建てられるだけの材木は補修用に置いてあるみたいだ。
私は間伐用の木を見つけると、腕を回してレッドオーガになって引っこ抜く。
かつての闘技場時代には、斧を使ってタダでやらされていた仕事だったが、今は収入にもなるし貢献度も付く。
そういえば、あの町の材木の大半は私が採ってきていたのだが、今はどうしているのだろうな?
あの町のハンターかそれとも住民が頑張っているのだろうか?
それしかないと思うが、20年ほどは私がしてきたのだ。
今さら割り振られても、果たして木を伐って運ぶという事が町の者に出来るのか分からない。
いきなりやれと言われて出来る事でもないが……
下らない事を考えている間にも私は間伐材を引っこ抜き、荷車に載せては運んでいく。
誰も入っていないような奥の方の間伐をしているので、来年からは少々楽になるのではなかろうか。
手前は残してあるしな。
再び村まで運んで戻ってきたが、まだラブは「うんうん」唸っており、その近くの木の枝の上でマーヤが寝ていた。
見ているのも飽きたのだろう。
私はスルーして奥へと向かい、引っこ抜いたら荷車に載せる。
実は引っこ抜いた後の穴の処理をしていない。どうしよう?
これも埋めておかなければいけなかったはずだ。
切り株を残すならまだしも、私は完全に引っこ抜いてしまっているからなぁ。
戻った際に村長に聞いておくか。
そう思いながら抜いて荷車に載せると、再び「うんうん」言っているラブの横を通って村へと運ぶ。
村に着いた私は材木置き場に居る村長に穴の話をすると、村長が家から大きめの鍬を持って来てくれた。
「これで穴をなるべく埋めておいてくれると助かる。
そのままにしておくと雨で土が流れていってしまうかもしれんからのう。
周りから適度に土を集めていって、できるだけ平らになるようにしておいてくれ」
「分かりました」
私は荷車に鍬を載せると、再び南の森へと歩いていく。
一ヶ月で半年分を集めると言っていたが、実際には村の者総出で集めていたらしい。
私が引っこ抜くのは、たとえ一年分でも今までより早く終りそうなので、大助かりなんだそうな。
まあ、引っこ抜くのにそんなに時間は掛からないしな。
確かに私の方が早いだろう。
南の森に戻った私は、荷車から鍬を取り出して穴を埋めていく。
周りから表面の土を削るように集めて埋めていき、終わったら次の穴へ。
それらを繰り返して全て埋めたら、今度は新たな間伐材を引っこ抜く。
そして埋めるを繰り返していき、溜まったら村へと運搬。
昼になったので村へと戻って食事にするも、考え事をしながら食事をするラブ。
マーヤは寝ていただけだったが、暇で仕方なかったらしい。
「一応は襲われた時の事を考えていたんだけど、アッシュが木を引っこ抜くからか、モンスターも逃げ出したんだと思うわ。
そんなメチャクチャなのが居るのに、襲おうなんて思わないでしょ。
わたしだって飛んで逃げるわよ、丸太を放り投げてきそうだし」
「流石に丸々一本の木を当たる速度で投げるには、私でもブルーオーガになるしかないと思うぞ?
それはともかくとして、ラブはそろそろ食べ終わってくれ。
終わってないのはラブだけだ」
「えっ? ……ああ、すみません。すぐに食べ終わります」
「こっちもこっちで困ったものねえ。
そう簡単に出来るようになれば誰も苦労しないわよ。
あなたの母親が長く掛けて編み出したのなら、そう簡単に出来るようになったりはしないわ。
同じ方法でなくてもいいでしょう? 木が伐れれば」
「まあ、それはそうなんですけど……」
ラブは結局なにかを考えつつ食事を終えた。
それでも終わったので私達は少し休み、トイレに行ったりなどを終えたら再び南の森へ。
また木を引っこ抜いていくのだが、どうやらラブは木を伐る事へと変えたらしい。
ようやく目的を思い出したようだ。
元々やるべき事は木を伐る事であり、母親の斬撃を再現する事じゃない。
それでも木を伐る速度は遅く、少しずつしか進んでいないようだ。
まあ、そもそも伐れないからどうにしかしようとし、そこで母親の斬撃を思い出したのだからな。
なかなか伐れなくて当然だろう。
「うーん………伐れないなぁ。
最初の頃よりはマシだけど、これじゃ全然だよ」
「なんというか、少しずつ削っていってるだけって感じね。
斧ならもっと深く刺さるわよ、普通」
「そうなんですよねえ……何が悪いんだろう?
やっぱりパワーが違うのかな?
でも今の所はコレが精一杯だし……」
「ノコギリのような物に出来ないか? そっちの方が伐れそうな気がするがな。
どうせ血を操るなら大きさは変えられるだろうし」
「ああ、なるほど。ノコギリなら確かに早く伐れるかもしれません。
とりあえずやってみます」
「ああ、がんばれよ」
私はそう言うと、荷車を牽いて村へと戻る。
ラブは頑張っているようだが、まずは普通の道具を再現した方が早いと思う。
何が役に立つかなど、マーヤの言う通りやってみねば分からないのだ。
だったら既存の道具を血で再現した方が早い。
その中に役立つ道具があるかもしれないしな。
私は材木置き場に木を下ろすと、再び南の森へと移動していく。
空の荷車を牽いて戻ると、そこには干乾びた山狼の死体が3つあった。
2つは脳天を撃ち抜かれているが、一つは足が4本とも切断されている。
「山狼に襲われたのは分かるのだが、この足が切断されているのはなんだ?」
「それをやったのはラブよ。
血のノコギリを複数出してね、それを使って戦った結果がそれ。
ラブったら戦いながらどうやったら切れるのか実験してたみたいなのよね。
気が付いてないんでしょうけど、普通に山狼が倒せてるのよ」
「実験をしていた所為で、相手が山狼だと気づかずに倒したのか……」
それもまた……と思えるが、ラブらしいと言えば終わる話でもあるな。




