02-38-0056
Side:ラブ
流石にあの重い斧からは解放されたようで良かった。
アッシュさんは棒きれを持つかのように持ってるけど、ぼくにあんな事は無理だ。
そもそも斧の重さが大きくて、体重にも合ってない。
その所為で必ずと言ってもいいほどに体が流される。
もっと体が大きくなったら使えるだろうけど、今はどう考えても無理だと言うしかない。
それよりも血を操って木を伐ろうとしてるんだけど、こっちも変わらずに刃が入らない。
おかしいなぁ……母上は一撃で木を切り裂いてたんだけど、どうも上手くいかないみたいだ。
「もっと鋭くぶつける、「ガッ」。
駄目だ全然刃が入らないし、表面で止まってるだけでしかない。
多少の傷は付いてるけど、これで伐るなんて日が暮れちゃうよ。
もっと伐るには工夫しなきゃ駄目だね」
ぼくは考える。なぜ母上は伐れて、ぼくは全く駄目なのか。
そこには威力以上の秘密があるはずだ。
でないと一撃でスッパリと切り裂いたりなんて出来ない。
普通はどれだけ刃が鋭くても必ず止まるし、斧で伐る場合にもそうなる。
でも、母上は一撃で切り裂いた。
斧との違いは一目瞭然なんだけど、ぼくも一度しか見てないからイマイチ記憶に乏しい。
あの時の母上が剣の形にして切り裂いていたのは覚えてる。
でも、同じようにして使っているのに、表面が僅かに切れただけでしかない。
いったいどういう事なんだ?
何故ぼくの場合は上手くいかな「ズボォッ!!」………
「ふぅ………抜いた方が手っ取り早いと思ったが、案外と上手くいくもんだ」
「いやいや、やってる事おかしいから!
斧があるんだから、斧を使いなさいよ!
腕を回して無理矢理に引っこ抜くって、なに考えてんの!」
「………アレは参考にならないから放り投げよう。
見たって意味が無いっていうか、再現なんて絶対に出来ないし」
血でアレを再現するのは母上でも無理だろう。<鋭血の双剣士>と言われた母上でさえ不可能だ。
そもそも母上が得意なのは切る事であって、決して力任せに何かをする事じゃない。
とはいえアレはアレで凄いとしか言い様がないけどね。
ヴァンパイアでも大変な事を当たり前のようにやるんだから、流石にビックリだよ。
それよりも、気を取り直して伐る事を考えよう。
母上の様に双剣の形にした方がいいのかな?
僕は父上の様に長剣の形にしていたけど、ここは母上の真似をしよう。
五月蠅いのも居なければ、兄上に見られている訳でもないしね。
ちなみに五月蠅いのとは長女と次女だ。
母上は2人目の側室で、ぼくしか子供が居ない。
そして正妻と一人目の側室の間には男女が一人ずつ居る。
それが長兄と次女、次兄と長女だ。
そして長女と次女は<鋭血の双剣士>である母上の熱狂的なファンでもある。
だからこそ僕が真似をしていると五月蠅く言ってきてた。
「お前には無理だ」とか「無駄だから止めろ」とかね。
何となく今思い出すに、長兄と次兄の邪魔だから言ってきてたのかなとも思う。
まあ、それはどうでもいいや。
それよりも木を伐る事を考えないといけない。
ぼくのやり方と母上のやり方を思い浮かべて剣を作る。
おそらく同じ双剣が作れているはずだけど……「ガッ、ガッ」。
これだけであり、結局は表面が僅かに切れただけでしかない。
いったい何が違うんだろうか?
ぼくは剣が使える訳でもないし、その所為で違いが分からないんだろうか?
しかし血を操るなら斧と同じぐらいに切れなきゃおかしいんだけど……。
仕方ない、ちょっと斧を借りよう。
ぼくは斧の刃をジッと見てみる。
そのままジッと見てみて、そしてそれと同じように血の双剣の刃を作る。
そして伐ってみたものの「ガッ、ガッ」、何も変わらなかった。
いったいどういう事なんだ? なんで母上はあっさり切り飛ばせたんだろう?
「ラブ、あんたもあんたで何やってんのよ。さっさと木を伐りなさい。
あんたが一本伐るまでは戻れないんだからね、さっさと伐っちゃいなさいよ」
「あ、はい。すみません。
でも表面が僅かに切れるぐらいで、全然刃が入らないんですよ」
「だったら身体強化でもしてぶった切りなさいよ。
そうすれば切れるでしょうが」
「いやいや、血で操る武器はそもそも手に持ったりしません。
なので意味はありませんよ」
「手に持っていなければ、身体強化は効かないのか?
魔力由来なら何かに効いたりしそうだがな……」
「そんな事………あるのかな?
実際に試した事は無いけど、もしかして……」
「いいから、悩んでないでさっさとやりなさいよ!
やらなきゃ分かんないでしょうが!」
仕方ない。マーヤさんが怒り始めたのでやってみよう。
ぼくも身体強化のような事を血の武器にやった事は無いし、実際にやってみないと意味があるかは分からない。
それにヴァンパイアは身体強化が得意、その本当の理由が血の操作にも関わっていたら……?
ドッ、ドッ
「………少しマシになったのかな? となると身体強化と血の強化は同じじゃない?
身体強化の方法と血を強化するのでは、やり方が違うっぽいね。
となると一から練習しなきゃいけないのと、どんな方法が正しいのか調べないと」
「それはいいけど、今は木を伐る方が大事でしょうが。
どんどん伐っていきなさいよ、伐れるまで」
「ラブ。血の剣だが、出来るだけ薄くできないか?
何でも刃物は薄い方が切れ味が鋭いらしい。
その分だけ折れやすいのだが、血の剣なら大丈夫ではないかと思う」
「刃を薄く………」
そんな事は知らなかった。けど、確かに母上の双剣も刃が薄かったような気がする。
となると、ぼくは見ているようでしっかり見ていなかったのか。
今度は薄く鋭くする形で………よし、出来た。
これで木を伐れば!
ドチュ、バチュ
「「「………」」」
まさか木に当たった途端、唯の血になって飛んでいくとは思わなかった。
これじゃ完全な失敗だ。
「血の剣でも強度が問題になるみたいだな。薄くすればする程に脆くなるらしい。
……という事は、そこに必要なのが身体強化なのか?
先程も少しマシになっていたしな」
「ヴァンパイアの固有能力もなかなか大変ねえ。
一朝一夕で上手くなるなら、誰も苦労はしないんでしょうけど」
「まあ、そうですね。
とはいえ少しずつ良くなっていますので、このまま続けます」
「なら私は一度抜いた木を持って村に戻ろう。
あの程度ならそこまで時間も掛からないしな」
「引っこ抜いた木が6本も載ってるんだけどね………
まあ、アッシュなら簡単でしょうよ」
ぼくが悩んだりしている間に6本も引き抜いていたみたいだ。
とんでもない馬鹿力だと思うけど、アッシュさんには斧は要らないね。
と思ったら、荷車に斧を載せて行ってしまった。
どうやら本当に斧を返すみたい。
その事に呆れそうになるものの、ぼくは気を取り直して木を伐る為の工夫を始めた。
…
……
………
「ふむ。戻ってきたら切れそうなところまで行ってるじゃないか。
短時間で随分と切れるようになったな」
「ラブは全く納得していないみたいだけどね。
母親は有名なヴァンパイアで、子供の頃に木を一撃で切り裂いていたのを見た事があるらしいのよ。
そこに近づけたいみたい」
「木を一撃で………
それは凄いが、それこそそんな妙技に一朝一夕で辿り着くのは無理だと思うぞ?
様々な試行錯誤を経て辿り着いたのだろうし、簡単に達成出来たら誰も苦労はすまい」
「そうなんですけどね。
でも工夫の余地があるのにしないのは駄目だと思うんです。
出来る事を全てやって駄目なら今の所は諦めますけど、そうでない以上はやらなければいけません」
「それはまあ、確かにそうだな。
出来る事をやってないのに諦める訳にはいかないだろうし、納得もできないだろう。
とにかく夕方帰るまでに一本は伐るようにな」
ガッ、ガッ…………ドォン
「倒しました。けど、コレじゃないんですよね。
それでも薄い刃でも壊れなくなりましたが……」
どうも強化の仕方が違うんだと思う。
血を操ってるんだから血を強化すればいいはずなのに、血を強化するだけじゃ壊れる。
かといって普通に身体強化をしても大して強くならない。でも母上は一撃で伐り倒していた。
いったいどうやったら出来るんだろう?




