02-37-0055
Side:アッシュ
あれから3日経ち、ヴェルイーの村に騎士団がやってきた。
それまで私達は外周に居たり狩りに出ている山鹿やヴォークソンを討伐している。
多少の数は減らせただろうが、今までよりも遠いので大変だ。
唯でさえ元々は森の浅い所でしか狩りをしていなかった。
にも関わらず今は奥まで行っているので、村に獲物を持って帰ってくるのにも苦労をしている。
その苦労が無いのは私達ぐらいだ。
とはいえ魔力という対価は支払っているので、文句を言われても困るのだが。
そんな今日。一応私達はハンター協会に来ているのだが、やはり予想通りの展開になった。
「我々についてこられても迷惑なだけだ。死体漁りなど必要ない。
情報だけ寄越せ、後は我々で対処する」
「分かりました。用意しておいた地図がありますのでどうぞ」
支部長は淡々と書き込んだ地図を渡しているが、他の皆は怒りが隠せないらしい。
私はどうでもいいという思いしかないし、マーヤもラブも想像通りなので何も無い。
私も先に知らされていなければカチンと来たかもしれないが、こんなものと分かっていれば腹も立たない程度だ。
地図を受け取った騎士団の隊長はさっさと出て行ったが、皆は出て行った後で爆発した。
「なんじゃ、あいつらは! ふざけおって!!」
「オレ達がっていうか、アッシュが集めた情報だぞ。
それを当たり前のように奪っていきやがる!」
「なんなんだ、あの高慢ちきな連中は。
アレが騎士だっていうなら、騎士ってヤツはクソと変わんねぇな!」
「いちいち、こっちを舐め回すように見て来てたわよ。気持ち悪い。
あいつら村の中で下らない事をやったら、目を潰してやろうかしら?」
「おや、シェリアは優しいねえ。あたしなら火達磨にしてやるよ。
ふざけるんじゃないってんだ!」
「はいはい。皆さん怒っても仕方ないので、その辺りで。
そもそも騎士団なんてどこの領地でも変わらず、あんなものですよ。
いちいち怒っていても意味なんてありません。
さっさと仕事をしてもらい帰ってもらえばいいだけです。
どのみち彼らは、私達にとって都合のいい者でしかありませんよ」
まあ、支部長の言う通りだな。
彼らは任務としてモンスターを狩らねばならないし、村にとっては都合のいい事だ。
そして彼らの任務がそれである以上、逃げる事は許されない。
逃げれば騎士団の名に傷がつくし、辺境伯家の名にも傷がつく。
「アッシュの言う通りよ。どうせ逃げられない連中なんだから、放っておけばいいのよ。
支部長の言う通り、騎士団なんてどこもあんなもの。変わらないわ」
「そもそも毎日訓練を繰り返してきた者達です。
それだけの積み重ねがある分、プライドも高いのは仕方ありません。
ですので、あんなものだと思っておいた方がいいですよ。
実際、ハンターとは練度が違いますから。特に集団戦の練度は」
そうマーヤとラブが言うと、ガーンドを始め全員が留飲を下げたようだ。
「ま、確かにワシらは集団戦なんぞ練習せんからのう。
あっても8人の連携じゃ。
騎士団みたいに100を超える人数の連携などした事も無い」
「それに、あれらには討伐を終えてさっさと帰ってもらうのが一番いいね。
一日でも長く居られると鬱陶しいし」
「そうね。できるだけ関わらず、さっさと帰ってもらいましょうか。
来たのは騎士団二個小隊200名だから、放っておいても駆逐してくれるでしょう。
それまで私達は村でゆっくりしていましょうか」
「村長から仕事が来ていますから、それは駄目ですよ。
南の森から木を伐り出して運んでくれという仕事です。
荷車屋にも分けて、新しい荷車を作るそうですから頑張って下さい」
「「「「「えーっ!!」」」」」
「「「「「………」」」」」
「「「………」」」
ガーンドとそういう関係になった山髭族の女性まで、女性陣と一緒になって文句を言っている。
なんだかそっくりになっている気がするが、アレはいいのだろうか?
とはいえ男性陣には何も言えない事だしな、おそらく諦めているのだろう。
「私は銀10級だしパス。
木を運ぶなんて事にいちいち力を使いたくないし」
「ならば私とラブだけで行ってこよう。
ラブは級位を上げなければいけないから、必ず参加だ」
「あー………やっぱりですか。
仕方ない、諦めて頑張ります」
「それがいいし、体を作るには動くしかない。
ま、まだそこまでの年齢ではないようだから、無理はしなくていいがな」
私はそう言うと、ラブと一緒に仕事を受ける旨を支部長に話して仕事を受領する。
そして荷車屋に行って借りると、南の森へと牽いて移動していく。
「マーヤさんはパスしたんじゃなかったんですか?
その割にはアッシュさんの肩に居ますけど……」
「私は運ぶのをパスしただけよ。
それに村に居ると、騎士団の連中に目を付けられそうなのが困りものなのよね。
私はタダで治療してやる気なんて無いし、それは<生命神協定>で決まっている事だもの。拒否一択よ」
「<生命神協定>?」
「昔、生命の神の加護である、オレンジの髪の者を奴隷のように扱う事が横行した時代があるの。
その時代、奴隷のように扱った奴らは皆バタバタと死んでいったわ。
それが生命の神の怒りだと言われてね、それで出来たのが<生命神協定>」
「生命の神の加護を持つ者を不当に扱ってはならない。
治療を行うか否かは生命の神の加護を持つ者が決める。
生命の神の加護を持つ者を騙してはならない。
この3つが<生命神協定>であり、これは各国で認められている協定です。
でないとその国からオレンジの髪の者が逃げ出してしまいますので」
「そうそう。わざわざ自分を不当に扱う国になんて居る必要がないのよ。
私達【生魔法】が使える者は【転移魔法】が使える者達と同じぐらい、幾らでも稼ぐ事が出来るんだもの。
不当に扱う奴らの所に何故いなきゃいけないんだか、って感じよ」
しかしな、権力者というのは欲深い者だし、あの手この手で……って、バタバタと死ぬんだったか。
権力者にとって一番恐ろしいのは権力を失う事と命を失う事だと聞く。
【生魔法】が使える者が居なくなれば死が近くなる。
それに耐えられる権力者は少なそうだな。
南の森に辿り着いた私は斧をラブに渡して間伐する木を探す。
そして見つけた木を伐るように言うと、斧を重そうに持ち上げた。
やはり6~7歳の体では大変なようだ。
それでも持ち上げて打ち込めているのはヴァンパイアだからだろう。
ガッ……ガッ……ガッ……
「これは駄目ねえ、全然刃が入ってないわ。表面を傷つけてるだけじゃない。
斧は重すぎて駄目なんだし、血を操って伐ったら?
そっちの方がよっぽど練習になるでしょ」
「そ、そうですね。正直に言って、そっちの方がいいです。
流石にこれは重すぎませんか?」
「普通の伐採斧だと言われたが、こんな物なんじゃないのか?
私は斧の違いも分からないので何とも言えないが……」
「木を伐る斧っていうのは刃が鋭いのよ。当たり前だと思ったろうけどそうじゃないの。
手斧のように色々な用途で使う物はそこまで刃を砥がずに使うんだけど、木を伐る斧は鋭利な刃にしてあるのよ。
そうでないと伐れないからだけどね。
手斧の方は逆に色々な用途に耐えられるように、そこまで鋭くしないの」
「鋭くすると、その分だけ切れ味が落ちた時に砥がねばならないからか。
そうするとすぐに減って来てしまう」
「そうよ。だからこそ伐採用の斧は鋭く切れるようになってるってわけ。
それでも刃が入らないんだから、そもそもの筋力と体格に合ってないのよ。
だから血を操る練習をしたらって言ったわけ」
まだ体作りは無理だから、血を操るというヴァンパイア固有の能力の練習をした方がいいわけだな。
何れ銀級に上がる事を考えたら、一人での戦闘能力を高めておくべきだ。
しかし私のような筋力ではなく、ラブは固有能力でそれを達成するのが一番か。




