02-33-0051
Side:ラブ
目の前で錬金術師の方が軽やかに睾丸を切除していきます。
いやぁ、プロの方は流石ですね。
こういうプロの技を見るのって楽しい。
やっぱり本を読むのと、実際のものを見比べるのは違いますね。
素早く切り取っては溶液に漬けていく、その速さが凄い。
不思議な事にヴォークソンの睾丸は、何故か切り離されると急速に劣化すると本に書いてありました。
なので切り取ったらすぐに魔液に漬けないといけない。
そういう不思議な特性を持った素材なんです。
その本には、おそらくヴォークソンの魔力から切り離されると劣化するのだろうと書かれていましたね。
今でも思い出せます。
それはそうとアッシュさんは本当に強いなと思いました。
力でも兄上と同じかそれ以上に感じますし、そこから身体強化も出来るようです。
身体強化はヴァンパイアの真骨頂なのですが、ぼくはあまり上手く出来ません。
正直に言うと戦い自体が得意ではないんですよね。
元々は魔力が多かったので期待されていたらしいのですが………性格が戦闘に合わなさ過ぎました。
なので途中からは家族からも軽んじられていたのは知っています。
とはいえ、力で何でも解決出来るなら我が家は領地経営に苦労していないと思うのですけどね?
何故その辺りが分からないのかは理解できません。
知識や知恵ほど大事なものも無いでしょうに。
とはいえ領民の前で力強さを見せなければいけないのは分かりますよ?
ぼくも愚かではありませんからね。
しかしそれは兄上がやる事であり、三男のぼくがやる事ではありません。
むしろぼくがそれをやると、次期当主の兄上から目を付けられてしまいます。
成り代わろうとしているんじゃないかという疑心を持たれても困りますしね。
ですので強さの無い学問だけの三男というのは使いやすいと思うのですけど………何故か修行の旅に出されたわけです。
「なるほど。聞けば納得だけど、知識があるだけに大人びた考えをしているわねえ。
何と言うか、そこが旅に出された原因なんじゃない?
大人びているのは悪い事じゃないけど、相応の心というのも必要よ?
まだまだ若いし先は長いでしょうに」
「62ですから、確かに先は長いのですが………。
とはいえ子供でいる必要も無いといえば無いと思いますよ。
それに修行の旅に出されるという事は、ぼくを領地で使う気は今のところ無いって事ですしね。
ですので働ける所を探さないと……」
「このままハンターを続ける気は無いのか?
ハンターなら自分で稼げて本も買えると思うが……」
「………」
「そういう視点は無かったわけね。
ま、貴族の家の子って外に出されるか飼い殺しが多いから当たり前でしょうけど、自分の事を少しは考えたら良いわ。
好きな事をする為にハンターをしても良いわけだし、そこで手に入れたお金は好きにすればいいもの」
「確かに………ぼくはもっと色々な本が読みたいですし、だからガルセンツ王国に来たんです。
祖国の王都にある図書館の本の多くも読んでしまいましたし、それもあってガルセンツ王国を目指しました」
「………なぁ? その子の親御さん、もしかしたら祖国のどこかに行くだろうと思って送り出したんじゃないよな?
そしたらガルセンツに行くとは思わなかったって事は無いよな?
なんか嫌な予感がしてくるんだけどよ」
「その可能性は無いとは言わないけど、でも考えなくていいと思うわよ。
自分の意思でこっちに来てるんだし、貴族家にだってそう言えば済むわ。
本当に駄目なら行先を指定しておくべきでしょ。
それをしていない時点で、何を言っても無駄よ」
「それならいいんだが………貴族の怒りって理不尽だからな。
しかも他国とはいえ辺境伯家って完全に高位貴族だぞ。
ここの貴族様もそうだけど、高位貴族ってのはヤバいからな。
粗相をしたら殺されかねないし、関わらないのが一番だ」
「ガルセンツ王国って、そんな国なんですか?
実家はそんな事ありませんでしたよ?」
「それは貴方が三男とはいえ貴族家の者だからよ。
それと庶民に対する態度が同じな訳がないでしょうが。
腐っても貴族家というか、そういう影響は少なからずあるわ。
貴族と庶民が違うなんて当たり前すぎるくらいに当たり前の事よ」
そうなのか。今まで意識なんてした事ないから当たり前だと思ってた。
父上も母上方も兄上達もそうだったのかもしれない。
僕が見ていないところでは色々とやったり言ってたんだろう。
こういうのは権力者側からは見えない。
そう本にも書いてあったしね。
「本から得た知識というのも悪くはないけど、経験して得た知識というのも重要よ?
そういった事でしか得られない知識というのはあるし。
何よりヴァンパイアとしての修行じゃ、別に親や家の所為じゃないでしょ?
確かに早いけど」
そうなんだよね。
ぼくもヴァンパイアに生まれた以上は修行の旅は仕方ないと思う。
でも明らかに早いんだ。
兄上達は100を超えてからだったのに、ぼくだけ62歳でだもん。
明らかにおかしいよ。
「それは確かにそうだな、っと……これで終わりだ。
後は解体所に持って行って売りな。
それにしてもヴォークソンを持って来たって事は、まさか……」
「ええ、ヴォークソンの巣があったわ。
わたし達が見た限りにおいて150くらいは居たんじゃないかしら?
全部討伐するのは難しいから、騎士団が到着してからになるわね」
「領都の騎士団が来てくれりゃいいがな。遠いし遠征費用も嵩む。
領内だから何も派遣しないって事は無いと思うが………適当な一個小隊が来て終わりとかじゃないのか?
何だかそんな気がするぜ。軍は金食い虫だからな」
「それでも国境がマズいとなれば派遣するわよ。するしかないんだもの。
もし国境で問題が起きたのに、碌に騎士も派遣しなかったらどうなると思う?
確実に国内の他の貴族が叩いてくるわ。
つまり辺境伯としたら出さざるを得ない状況になってるってわけ」
「メンツだとかいうヤツか。
とはいえ派遣してくれるんだったら、なんでもいいな。
っと、オレは媚薬作りを始めるんで、そろそろ解体所に行ったどうだ?」
「そうね。そうしましょうか。
アッシュ、それじゃ行くわよ」
「了解」
マーヤさんが小さくした獲物をアッシュさんが持ち上げて移動します。
筋骨隆々で凄いですけど、どこまで戦えるのかは分からない感じです。
なんだかヴォークソンとの戦いも、特に力を出していない感じがしたのですよね。
もしかしたら相当に強いのかもしれない。
そう思うとアッシュさんについていくのが賢い選択なのかな?
まさかヴァンパイアの自分があそこまで戦えないとは思わなかったけど、とにかくまずは助けてもらおうっと。
知識や記憶で役に立つと言えば、仲間にして貰えると思う。
もしかしたら血抜き要員として雇われるのかもしれないけれど………
でもそれも悪くないかな?
簡単に食事にありつけるって事だし、ぼくとしても願ったり叶ったりといったところでもある。
【血煙】を使えば逃げられるし、【血霞】を使えば敵の目を潰したりという支援も可能だ。
全く役に立たないという訳でもないから、ここはしっかり役に立つぞとアピールしておこう。
今後の為にも。
それに色々な本はこの村にもありそうだしね。何か探してみなきゃ。
もしかしたら持っている本を譲ってくれたり貸してくれる方も居るかもしれないし。
っと、解体所についたので早速出しているけれど、解体所の人も驚いてる。
「小さいのがいきなり大きくなったんでビックリしたよ。
そこの妖精族の方がやったのかい? 聞いた事はあったけど凄いねえ」
「当然よ。わたし達の種族特性のようなものだし、他の種族には真似できないわ!」
胸を張って誇ってるんだけど、230歳の割には子供な方だなぁって思う。




