02-32-0050
Side:アッシュ
「ンクッ、ンクッ、ンクッ、ンクッ………!!」
死体だった時のヴォークソンと違い、まだ生きているからだろうか?
ラブの血を飲む勢いが凄い。
それと、その小さな体の中にどれだけの血を入れられるのだろうか?
驚くほど飲んでいるが、特に問題はないようだ。
ヴァンパイアという種族も不思議な特性を持つのだなと関心した。
「それにしても、よく飲むわねえ。
飢えていたのは事実なんでしょうけど、その分だけ必死に体が血を補充しようとしてるのが分かるわ。
逆に言うと、どれだけ血を失ってたのかが分かるというものよ。
自分で戦って勝てないなら、血を失う一方なのは当然でしょうし」
「そうですね。っと、そろそろそこで終わりましょうか。
それ以上はヴォークソンが干乾びていってしまいます」
「分かりました……」
「どうやらまだ足りないみたいね。
仕方ないとは思うけど、そう簡単に満腹を感じたりはしないか。
それより小さくしたら進むわよ」
私は先程のヴォークソンを出してもらい、2体重ねて縄で縛ると布で包む。
それが終わると再び歩き始めるが、地面の方から臭ってくるので目的地は近い。
そうやって歩いていると、ヴォークソンが3体居る場所があった。
その中心の地面にバッグが落ちている。
「あれがぼくの鞄です。ですけど……」
「ヴォークソンが中身を出しているわね。
あいつらに理解できる知能があるのかしら?」
「珍しいから適当に漁っているだけでは?
それよりも一体ずつを受け持ちましょう。
私は左のヴォークソンを殺りますので、アッシュは右をお願いします」
「私は正面のヤツの脳天を貫いてやるわ。
そもそもラブが居るんだから、最短で殺しにいきなさい。
そしてラブは私達が仕留めたらすぐに鞄を調べるのよ。
荷物が全てあるかの確認ね」
「分かりました」
「それじゃ行くわよ。3、2、1……ゼロ」
ゼロの言葉と共にマーヤは【魔通矢】を放ち、正面で背を向けていたヴォークソンの頭を貫く。
私と支部長は素早く草むらから出ると、一気にそれぞれのヴォークソンに接近。
支部長は刺突剣で首を貫き、素早く抜くと再度突く。
私は素早く近づくと、こちらに向いたヴォークソンの喉にナイフを突き刺し、その後は左へと滑らせる。
これで一気に気道を切り裂けただろう。
素早く離れて様子見をするが、ヴォークソンは暴れて呻くだけだ。
呼吸が出来なくてパニックを起こしているらしい。
その間にラブは素早く鞄の中身を調べていく。
外に散乱している物も拾い集めていくが、一つの物が無くなっているようだ。
「あれ? 血の入っていた小瓶だけが無い?
………他の種族にとってもモンスターにとっても必要な物じゃないのに、なんで?
ついでにアレって確か………山鹿の血だったはず。
なんでアレだけ無いんだろう?」
「小瓶が大事な物……とかは無いのか?」
「いえ? 雑貨屋なんかで売っている陶器の小瓶です。
と言いますか、僕は三男なので……」
「あんまり良い物も持たせてもらえないわけね。
まあ、その代わりに大事な物は無くなってないみたいだし、それはそれで良かったんじゃない?
もし大事な物が無くなってたら、今頃は必死に探す事になってたわよ」
私の鼻も遠くまで持って行かれていたら、残念だが利かない。
そういう意味では本当に全部あるかは分からないな。
鳥系のモンスターが持って行っていたら不明ではある。
「そもそもそれほどに大事な物は実家に置いてきていますし、盗られたところでお金以外は大きくありません。
そのお金も自分で稼げというものでした。それよりもハンター証明の木札があって良かったです。
失くしていたら大問題でした」
見てみると木の6級だった。
どうやらあの喰われた若者3人よりは上だったらしい。
とはいえそれでヴォークソンが倒せるかと言ったら無理だろう。
ましてここは森の中だ、私のように鼻が利かないと不意打ちを受けやすい。
無くなっていた物は他に無かったので、一体ずつ血抜きをしてはラブに血を飲んでいってもらう。
実は血が無くなった時用に、大きめの布は鞄の中に入っていたらしい。
未だに昔の布服を着る人もそれなりには居るので、別におかしな事でもない。
布服というのは一枚の布を服のようにして着るもので、非常に古い時代からの着方でもある。
実際、着方さえ知っていれば、後は布を買ってくればいいだけ。
だからこそ気楽だとして、今でも着ている人はそれなりに居る。
特に町中で暑い仕事をしている人は布服の者が多い。
お金の無い者の服でもあるが、貫頭衣よりはイメージがマシなのが布服だ。
伝統という意味でもある為、布服は奴隷には支給されない。
なので私は貫頭衣だったわけだ。
あれもかつては普通の服だったのだが、今はスラムの住民や奴隷の着る物だと思われている。
その事で闘技場ではよく笑われていた。
貫頭衣はまともな服が着れない証でもあるからな、当然ではあるのだろうが………。
私は着れれば何でも良かったので、特に何かを思った事は無い。
今の服装だってハンターにとって必要だから着ているのだし。
そんな事を考えていたら、ラブが血で服を作り出した。
が、それは本当に真っ赤なシャツとズボンだ。
それにブーツっぽい物も作っているが、ただ赤いだけという感じでしかない。
あくまでも体を隠す為のものなのだろう。
「本来は体を守る防具の一種だからね。
それを着用しておけば死ぬ可能性も減らせるってわけ。
わたし達が空を飛ぶのに魔力を使うなら、ヴァインパイアは血を操るのに魔力を使うのよ。
そしてそれは血と共に吸収して溜めておけると聞くわ」
「そこまで聞くと物凄く強いように思いますが、ヴァンパイアにも弱点があります。
それが魔力を乱される事と血が減ってしまう事です。
乱魔鉄などはヴァンパイアにとって天敵とも言える存在なのですね」
「わたし達なら魔力が使えないで済むけど、ヴァンパイアならまともな力すら出せなくなるわ。
それぐらい魔力を乱される事に弱いのよ」
「この辺りは大丈夫なんですか?
地形でも魔力は乱れると聞きますけど……」
「魔力が乱れる地は、ヴァンパイアにとって忌むべき地なので簡単に分かると聞きました。
この辺りに居ても問題ない以上は大丈夫でしょう。
特に乱されるというか、力が抜ける感じはしません」
「さて、それじゃ小さくする前に纏めてもらいましょう。
それが終わったらすぐに離脱するわよ」
ラブは飲み終わっていたので、私は大きくしてもらった死体の縄を解き、更に3体追加して縛る。
それが終わったら布で包もうかと思ったのだが出来ず、仕方なく私の手で持って帰る事に。
肩にマーヤが乗るので距離は大丈夫だ。
それにマーヤに魔力を供給するので、魔力がなくなる心配も無いだろう。
私自身、魔力が枯渇しそうになった事は無いからな。
おそらく今回も問題あるまい。
私達はラブの走る速度に合わせて走りつつ、森を抜けると山を下りる。
ラブは足が速くないものの、流石はヴァンパイアか体力が凄く多い。
その御蔭で荒い息を吐く事もなく村に戻って来れた。
ヴォークソンの追撃があったらどうしようかと思っていたが、それは無かったので私の杞憂だったようだ。
村に戻って来た私達は、まず錬金術師の店に行ってヴォークソンを見せる事に。
「ヴォークソンか……引き取りたいのは引き取りたいんだが、精力剤がなかなか売れなくて困ってんだよな。
姐さん方は買ってくれるからいいんだけどよ、村の人達の動きが鈍いんだ。まさかここまでとは予想外だったぜ。
商人が来てくれれば捌けるんだが……明日なんだよなぁ」
「なら木札か何かに書いておけばいいじゃない。
私達は売れたら取りに来るわよ」
「………しゃあねえか。
そういう前借りみたいな商売はしたくなかったんだが、ヴォークソンの媚薬は商人に高く売れるからなぁ。
明日になりゃ金も入る。ここは前借りみたいな形で作っちまうか」
という事で売る事が確定したが、錬金術師は1体分の2個で小銀貨4枚と木札に書く。
通りで買い取るのを渋っていたはずだと納得しながら、私は錬君術師の切り取りを見物していた。




