02-30-0048
Side:アッシュ
それからもウロウロとしたが、他のモンスターの臭いは感じなかった。なので私達はドーヴァルの巣へと戻る。
そして近くの臭いを嗅いでいると、嗅いだ事の無い臭いを発見。そちらはドーヴァルの巣より右奥の方だった。
どうやらこちらも谷のような場所に巣があるらしい。
「本当に誰かが暗躍していないとおかしいわね。
巣がまだあるって尋常じゃないわよ。
それともコレが国境の普通なの?
なんだか分からなくなってきちゃった……」
「そうですね。私もそう言いたくなるくらいには分からなくなってきました。
まさかこんなにも巣が多いとは。
そのうえアレを見て下さい、ここはヴォークソンの巣ですよ。
相当にマズいというか、おそらくドーヴァルが臭かったので蓋のようになっていたのだと思います」
「でしょうね。わたしもそう思うけど、これ本気でマズいとしか思えない。
少なくとも150は居るでしょ。
山鹿の方もだけど、数が異様に多い。そのうえこっちにも統率者が居るわ。
他のと違って肌が鮮やかなピンク色だから分かりやすいけど」
「ピンクの髪なので余計に見分けが付きにくいですが、他のヴォークソンもピンク髪ですね?
アレは何の神の加護なんでしょう?」
ヴォークソンは二足歩行の豚みたいな姿だった。
違うのは股間が大量の毛で覆われている事だろうか? 天然の下着を履いているかのようだ。
そしてメスであろう個体には乳首が6つもあり、オスであろう方には乳首そのものが無い。
不思議な姿である。
生き物はオスにも乳首があるのにな?
ヴォークソンはそうではないらしい。
勘違いすると怒るであろうオーク族の男性にも乳首はあったぞ?
ま、あの種族は頭以外の全身がツルッツルだし、それはゴブリン族も変わらない。
彼らにある毛は髪の毛だけだ。
まつ毛や眉毛すら無いという種族の為、なんだか不思議に見える者達でもある。
それはともかくとして、ヴォークソンの巣は見つけたのだから離れよう。
近くに居ても得なんて無いしな。
アレは騎士団と共にどうにかするしかない。
「離れましょう。
途中、ヴォークソンが居たら狩るという形で」
「複数居るとキツいから、何かあったらアッシュを頼りとさせてもらうわ。
魔力も吸うかもしれないけど、その時は許してちょうだい」
「まあ、構いませんよ。
援護してもらえるんでしょうから」
「そこは任せなさい。ヴォークソンが素手なら私に攻撃は届かないからね。
私達妖精族は飛んで一方的に攻撃出来るのよ。だからハンターの級位が高いのが多いの。
ちなみに私は銀10級ね。
金級に上げるの面倒臭いから上げてないだけよ」
「私より遥かに上じゃないですか……。
その割には何だか軽いですけど、それが素なんですかね?」
「そうよ。
いちいち肩肘張って生きるって面倒臭いでしょ、だから自分のままに生きてるのよ。
それよりヴォークソンの睾丸は高く売れるから狩らないとね。
それにドーヴァルと違って臭くないし」
「アレはアレで困りますけどね、甘ったるい匂いがしますから。
ちょっと甘すぎる感じで、私はあの匂いは好きではありません。
ヴォークソンはむしろ肉が嬉しいです。メスの肉が」
何故かメスの肉って限定してるけど、理由があるのだろう。
そちらの方が美味しいとかそういった事だろうな。
「アッシュはもしかして食べた事が無い?
ヴォークソンのオスの肉は硬いから、基本的に安値の肉として売り出されるの。
だから持って帰って来ない者も居るくらいよ。
まあ、大体は失敗する新人しかしないけど」
「ですね。ヴォークソンの睾丸は錬金術師に処理してもらわないといけません。
昔それを知らずにドーヴァルと同じように切った事があります。
御蔭で売れなくて、当時のメンバーと凹んだ記憶が甦ってきました。
あの当時は苦労して倒したのですが……」
「なるほど。ドーヴァルと違いヴォークソンは!?」
私は臭いを感知したのでそちらを向くと、ちょうどヴォークソンが立っていた。
そして向こうはまだこちらを発見していなかったので一気に接近。金棒で頭を殴りつけてやる。
ところが、その一撃では地面に膝をついただけだった。
まさか耐えられるとは思わず一瞬止まってしまったが、その間にマーヤが【魔通矢】を脳天に直撃させ倒してくれた。
とはいえ急いで血抜きをしないとマズい。このままでは心臓がすぐに止まる。
「まとーやって何です?
なぜオレンジの髪なのに攻撃魔法が使えるのですか?」
「アレは魔法じゃなくて【魔術】。
魔力を扱う技術だから【魔術】、妖精族にとっては割とポピュラーなものよ。
教えてもいいけど、他の奴らに教えるのは無しね。
ま、教えてもあんまり意味ないけど」
「何故です? 聞いた感じでは誰でも使えそうですし、それが広まればもっとハンターの生存率も上がりますよ?」
「そもそも妖精族が頑張って創り出してきたものを、なんで他種族にポンポンと教えなきゃなんないの? っていうのが一つ。
もう一つは、そもそも魔法に比べて魔力の消費量は格段に多いのよ。
私達は妖精族だから問題ないけど、貴女達に使えるかと言えば……」
「そういう事ですか………。
まあ、私と同じような事を考えた方も居るでしょうし、広まっていない事を考えれば欠点があるのも当然ですよね。
なければとっくに広まっていないとおかしいですし」
「まあねえ。
わたしが教えなくても同族の誰かが教えたでしょうし、それで広まってないなら使い勝手が悪いんでしょ。
わたし達なら問題なくても、他の種族では厳しいだろうし。
それに魔法が使えるなら、無理して【魔術】を使う必要も無いわ。
これは属性的に困る者の為に編み出されたのが最初だし」
「属性で困る事ですか?」
私はヴォークソンの血抜きを行いつつ聞いてみたが、やはり頭を貫かれた影響か心臓が止まっている。
今は私が無理矢理に握って動かしているが、それでも排出される血の量はそこまで多くない。
無理に握ると握り潰してしまうからな、これは困ったぞ?
ヴォークソンは体が大きく体重も重い。
逆に言えば、それだけ沢山の血を持っているという事にもなる。
なのでこのままだと大量の血が残って困る事になってしまう。
マーヤに頼んで持って帰るにしても腐るのが早くなるだけだし………ん?
バサバサバサバサバサ………バタッ!
「…………コウモリ?
なんで白昼にコウモリなんかが、ってまさか!!」
マーヤと支部長が素早く駆け寄ったが、マーヤが何かを調べた後、すぐに【生魔法】を使った。
オレンジ色の暖かい光がコウモリから溢れてくる。
初めて見たけど、あれが【生魔法】なのか。
生命の神の加護が無いと使えない、世界で唯一の治癒系魔法。
【水魔法】で綺麗に汚れを洗い流すとかは出来るが、治療が出来るのは【生魔法】だけだ。
その珍しい【生魔法】が見れたので喜んでいたが、コウモリが回復したようでヨロヨロと立ち上がる。
「………すみません、どなたか知りませんが助かりました。
ありがとうございます」
「やっぱり唯のコウモリじゃなくてヴァンパイアだったのね?
それにしてもコウモリの姿って、相当に弱っているみたいだけれど………どうかした?」
「ぼくは今、種族の仕来りで修行の身なんです。
先程森の中を進んでいると、ヴォークソンに不意打ちで石を投げられてしまい……」
「通りでフラフラと飛びながら倒れたはず。
それよりまだヨロヨロしているみたいだけど、もしかして血が足りないの?」
「すみません。ぼくはあまり強くなくて、弱いモンスターぐらいしか倒せないんです。
それで……」
私はそれを聞いた時に右手の感触を思い出した。
今も心臓を握って血抜きをしていたんだが、これ以上は抜けそうに無いし、彼に任せた方がいいんじゃないかと思えて来た。
なので私はすぐに彼に声を掛ける。
「それなら、このヴォークソンの血抜きを頼みたい。
死んでしまっている所為で血が抜けないんだ。
困っていた時に丁度来てくれて助かる」
「え、あ、はい。
良いのでしたら、お願いします」
「すまないがすぐに頼む。時間が経つほど悪くなるのでね」
「分かりました」
私は少年に急ぐように言い、あえて考える暇を与えない感じで進める。
これで彼は血を飲んで元気になるだろうし、私は血が抜けてラッキーという所だ。
お互いに得しかないのだから良い事である。
………だから2人とも、その生温い視線を止めてくれないか?
「べっつにー? 生温い視線なんかしてないけどー?」
「そうですよねえ? 私達は別に生縫い視線なんてしてませんよー?」
だったらそのニヤニヤした顔を止めてほしいものだ。
それはともかくとして、少年は必死になって牙を突き立てようとしているが、どうやらヴォークソンの肌に牙が刺さらないらしい。
仕方なく私が切った心臓付近の傷から飲んでいる。
いや、正しくは心臓に牙を突き立てて飲んでいるようだ。
ま、私としては血が抜けるなら何でもいい。
そうして少し見守っていたのだが、そういえば少年は裸だがいいのだろうか?
荷物も何も持ってないし……それも血抜きが終わったら聞くか。




