02-27-0045
Side:マーヤ
アッシュが持っていると<混沌の種>が消える。
実際に吸収しているのかは不明なので何とも言えない。
ただし<混沌の種>が消せるという事実は思っている以上に大きいわ。
今までは一ヶ所に集めるなりしなければいけなかったし、処理に悩まされてきたのが<混沌の種>。
モンスターが手にすれば強くなり、更に<混沌の種>を持つ者同士が喰らい合えば大きくなる。
もちろん限度はあるみたいだけど、それでも強くなったモンスターが徘徊しているのは相当にマズい。
だからこそ早めに討伐して封印。これが今まで続けられてきた事でもある。
もしアッシュが<混沌の種>を幾ら消しても問題ないなら、詰め込んで守らなければいけないという状態は解決する。
少なくともアッシュが生きている間は、だけどね。
それでも各ハンター協会からすれば大助かりなのは間違いない。
ハンター協会も置いておけるスペースには限度があるし、今までの長い歴史の中で溜め込まれてきたもの。
その数は大量とも言えるわ。
いったい何故アレが無くならないのかは分からないけど、アッシュに消してもらえば済むなら一息吐けるはずよ。
ここはわたしから各国のハンター協会に言うしかないわね。
わたしの知り合いは色々な所に居るし、顔を出せば特別待遇を受けられるはず。
そこまでだからこそ訳の分からない連中に拉致されてしまったんだし。
アッシュが倒したライトニングディアーとウィンドウルフの血抜きをしてるけど、心臓を無理矢理に動かして血を抜いてるわね。
まあ、死んでしまってるから方法はアレぐらいしかないのよね。
後は【水魔法】使いになんとかしてもらうしかない。
「これは駄目だな、これ以上は血が抜けない。
申し訳ありませんが、小さくしてもらえますか?
自分が一気に走って戻りますから」
「了解。小さくしたついでに手に載せてもらうわよ。
そうじゃないと持ち運びできないからね。
それと走るなら落とさないようにしてちょうだい」
「分かりました。お願いします」
わたしはアッシュに指示し、まずはドーヴァルの統率者の睾丸を切り取らせた。
一応持って帰らせるけど、アレ強烈に臭いのよね。
だから綺麗な方の手に乗らないと……
次にライトニングディアーとウィンドウルフを近くに持って来させる。
そして小さくしたら、わたしも含めてアッシュの手に乗せてもらう。
あとはアッシュが手の平で優しく包むので、わたしは横になるだけ。
簡単だけど、魔力を使い続けるから補給する必要がある。
回復の当てがあるなら一日二日は問題ないけど、魔力回復の当てがないならどこかで大きくなる必要があるのよね。
妖精族って小さいと思われてるけど、本当は小型化って身を守る為なのよ。
実際の妖精族は人間と変わらないぐらいの大きさをしてる。
でもその状態だと危険だから、祖先は小型化の法を生み出した。
わたし達が使っているのは実際には【魔術】なのよ。
「【魔術】ですか……」
「そうよ。
わたしがウィンドウルフに使った【魔通矢】、アレも【魔術】であって【魔法】じゃないわ。
だって、わたしはオレンジの髪でしょう? だったら【生魔法】しか使えないじゃない」
「そういえば、そうですね。
という事は……【魔術】とは誰にでも使える?」
「そうよ。
【魔術】とは即ち、魔力を扱う技術。だから【魔術】というのよ。
アッシュが使っている身体強化も【魔術】に分類されるの。
なぜ肌が赤くなったり青くなったりするのかは知らないけどね」
「そこは私も分かりませんし、気にしてはいませんよ。
見ている相手にはバレるかもしれませんが、それがバレても敵は主にモンスターですからね。
問題ないと思っています」
「そう言われれば、確かにそうかな? それにしても早いわね。
身体強化をしているから風が強いけど、それでもこれだけ早く帰って来れると助かるわ。
飛ぶのも楽じゃないのよ。それと魔力を貰っておくわねー」
「はぁ……どうぞ」
わたしは【妖精のキス】を使うけど、別にこれは実際にキスする訳じゃない。
当たり前だけど、そういう比喩として名前がついているだけ。
本当は体で相手の魔力を吸収するというもの。
上手くやれば相手を昏倒させられるという優れた種族特性。
………なんだけど、普通にわたしの魔力が全回復したわね?
で、アッシュには何の問題も無しと。
ますます魔力タンクとして欲しくなるわね。
妖精族にとっては消費する魔力の問題が常について回る。
だからこそ魔力を溜め込める何かが無いかと探し回ってたんだけど、見つけたかも。
もちろん寿命の問題があるから完全ではないけど、それでも魔力を大量に持っている者が居るというのは事実よ。
これなら今までよりも楽に暮らしていけるわね。
わたしは解体所についたのでそれぞれの獲物を置かせていく。
わたしから一定程度の距離を離れるか、わたしが力のバスを解除すれば自動で元の大きさに戻る。
それを2度行ってライトニングディアーとウィンドウルフを出させた。
「こりゃまた………こんなのが村の近くに居たなんて、シャレにもなってねえなあ。
お前さんがなんとかしてくれて助かったぜ。ありがとうよ」
褒められているにも関わらずアッシュは微妙に喜んでない?
おそらく統率者同士の争いを見ていたからね。
とはいえ最後には全て殺せてるんだから、それで十分よ。
統率者がどこかへ逃げたというなら問題だけど、そうはなっていないんだもの。
誰も文句なんて言わないわ。
アッシュは大銀貨7枚と中銀貨4枚を受け取った後、錬金術師の店へ。
わたしは少し離れて飛んでるけど、理由は当然臭いからよ。
アッシュは錬金術師に売ったけど、他の連中の睾丸とは違うからか小銀貨3枚だった。
それでも強さに比べたら安いわね。
その後アッシュは井戸で手を洗い、綺麗にしてからハンター協会へ。
その時には既に肩に乗っていたわ。
だって飛ぶの面倒臭いし、飛んだりしている間に減った魔力も補充しておく。
一度言っておいたんだし、魔力を取っても怒らないでしょ。
アッシュは何故か受付にいた支部長と話を始める。
っていうか、何で支部長が堂々と受付嬢をやってるのか理解できない。
ここは人手が足りてないのかしら?
「統率者を共倒れにさせる事が出来た……ですか。
本当に上手くいったのならいいのですが、何日かは調べ続けるしかありませんね。
完全に解決したと判断するのは早計です」
「それはそうだけど、おそらく大半は壊滅したはずよ。
山狼の巣の方にはスライムがいるからでしょうけど、おそらく証拠は残らないんじゃない?
結構なスライムが死体を食べてたわよ?」
「そうですか……もしかして昔見た時に何も無かったのは、スライムが綺麗に片付けていたから?
だから何も無く、それ故に安全な場所というかモンスターが居ないと誤認したのかもしれません。
事前情報に関係の無い、定期的な見回りは必要ですね」
普通はそうだと思うんだけど、ここは黙っていた方がいいわね。
面倒臭い事を言ってきても困るし。
それよりも………
「アッシュが<混沌の種>を消してしまった………ですか?
それはまた判断に困る事を言われますね。
で、実際に今から見せると」
アッシュが<混沌の種>を右手に持ってジッとしているけど、やはり徐々に<混沌の種>が小さくなっていってる。
吸収しているのかもしれないけど、普通の生物には無理なんだから、むしろ消していると考えた方が正しいわね。
氷が溶けるようなものだと考えれば変でもないし。
「確かにそう言われれば、そうとも言えるのかもしれません。
確かに小さくなっていっているのは間違いありませんし………
アッシュ、何か変わった事は?」
「いえ、なにも。
特に何かが入ってくるという感覚もありませんので、吸収とかではないと思います」
となると、やっぱり溶かしているが正しそうね。




