02-26-0044
Side:アッシュ
私はレッドーオーガ状態を維持しつつ、右手と左手を開いて相手に見せる形で構える。
右手が肩より多少上で、左手が肩より少し下。
そのような形で待ち構えていると、ボス鹿は再び頭を下げて角を「バチバチ」させ、そして一気に突進してきた。
それを見た私は更に呼吸から力を取り込みレッドオーガから青肌へ。
つまりブルーオーガになって待ち構える。
すると私が飛び退くと思ったのだろう。ボス鹿は途中で止まった。
が、顔を上げたボス鹿の目の前に私は立っている。
その瞬間、私はボス鹿の顔を開いた手で張りつつ地面に押し倒す。
そして地面に押し付けたボス鹿の首を両手で締め付けながら地面に対して押さえつけ、更に左の膝で立ちつつ、右膝でボス鹿の腹を蹴っていく。
もちろん体重と共に落とすように蹴るのだ。
人型の鳩尾のような弱点があるかどうかは知らないが、私は全力で身体強化をしつつ、首を絞めながら腹に膝蹴りを入れる事を繰り返す。
とにかく立ち上がらせて角を使われると厄介極まりない。
地面に押さえつけた状態で殺してしまうべきだ。
「キュッ!! ………キュオ! ……ググッ、ギュッ!!」
「そう、簡単に! 私が離すと思うな、よっ!!」
ドゴッ!!
「ブギュッ!!!」
首を絞めつつつ立ち上がらせないようにし、暴れるボス鹿の腹を蹴りまくる。
それこそ心の中では「早く死ね」と思いながらも、元気に暴れるボス鹿にひたすら膝蹴りを入れていく。
最早それしかする事が無いかのように蹴りを入れ続け、ボス鹿が痙攣しているのにも気づかず蹴りを入れ続けた。
ドゴッ! ドコォ!! ドゴン!!
「ちょっと! もう死んでるわよ!!
それ以上は蹴っても意味が無いから止めなさい!!」
「え? ………死んでる?」
冷静になった私がボス鹿を見ると、ボス鹿は赤い泡を吹いたのか口元を真っ赤にし、そしてピクリとも動かなかった。
どうやら首が圧し折れているらしく、それで死んだのだろう。
首を押さえつけていた私の手も固まっているようなので解す。
というか、ちょっと痛いほどだ。
「それにしても、死んでるのに蹴り続けるとは思わなかったわ。
妙に遅いから気になって見に来てみれば、山鹿が大量にこっちに来てるしさ。
一応だけど、向こうに居た山鹿を全滅させたのはわたしよ?
40頭ぐらい居たんだから、感謝しなさい」
「そんなにですか、ありがとうございます。
流石にボス狼と戦っ「【魔通矢】」ている最中………」
ズドッ!!
私は私の顔の横を通っていった魔法の先を見ると、ボス狼が立ち上がってこっちを向いて口を開いていた。
今にも飛び掛かって来そうな姿勢だが、そのまま横倒しに倒れピクリともしなくなったようだ。
口の中から頭の先へ、大きな矢のような物が刺さって貫通しているが………あ、消えた。
「すみません、本当にありがとうございます。
御蔭で助かりました」
「まあ、いいわよ。
まさかライトニングディアーの雷角を受けて、まだ生きてるなんて思わなかったわ。
ウィンドウルフだとしても、元は統率者だから強いのかしら?」
「あのボス狼は、ドーヴァルの統率者の心臓付近にあった虹色の石を食べてああなったんですよ」
「<混沌の種>を食べた個体だったのか……通りでまだ生きているはずよ。
統率者の中には<混沌の種>と言われる虹色の石を体の中に持つ者がいるの。
大抵は心臓付近にあるんだけど、それは喰らったモンスターを強くするというものよ。
そして………それを使った嫌がらせも出来る」
「嫌がらせ………もしや、敵国のモンスターを強化する?」
「そう。<混沌の種>を食べたモンスターは必ずといっていい程に強くなる。
一説には、かつて神々に滅ぼされた邪神の欠片じゃないかと言われているわ。
本当のところは知らないけどね。
何故か<混沌の種>は無くならないらしいの」
「無くならないという事は、持って生まれてくる者が居る?」
「分からない。とはいえ統率者の中には持っている者が必ず出て来るんですって。
でないと最初に持ってたのは誰だって事になるしね。
それと、生物が口に入れると体を悪くするから止めた方がいいわ。
かつて<混沌の種>を取り込んで強くするなんていう怪しい研究があったみたいだけど、<混沌の種>を使われた全員が死んだそうよ」
「モンスターを強化するなんていう危ない物を使うからでしょう。
私には頭がおかしいとしか思えませんよ」
「バカはどこにでも居るものよ。
安易に強くなる方法なんて無いし、そもそも生き物はモンスターじゃないっていうのにねえ」
本当にそうだ。
我々は生物なのであって、モンスターではない。
そんな危ない物を取り込んで強くなれると思う方がおかしい。
それよりもボス狼やボス鹿の体の中にも虹色の石はあるのだろうか?
「とりあえず金棒を拾ってきてから、統率者の体を調べてみます。
もしかしたら虹色の石があるかもしれませんので」
「そうね。その方がいいわ。悪用されても困るしね」
私はボス鹿に蹴り飛ばされた金棒を拾い、そしてボス狼の首を切って血抜きを行う。
とはいえ死んでしまっているので気にせず、腹を割いて心臓の付近を探す。
すると、虹色の石を発見した。それもドーヴァルの統率者の物より大きい。
「これですね。
ドーヴァルの統率者の体から抜いていたのの倍ぐらいありますよ」
「結構大きいわね。これだけの大きさの<混沌の種>を持、あれ?
…………小さくなってる?」
「え? …………確かに小さくなってますね?
どういう事でしょう?」
「………アッシュ、地面に<混沌の種>を置いてくれる?」
「はぁ。分かりました」
私は言われた場所に<混沌の種>を置いた。
そしてボス狼の心臓を掴んで動かしつつ眺めるが、<混沌の種>が小さくなる事は無かった。
「もしかして私が触っていると小さくなるんでしょうか? ええと………」
「わたしの名前はオースティフェ・デム・マクゥーイヤファよ。
呼びにくいでしょうから、マーヤとかヤファと呼んでちょうだい」
「え? マクゥーイヤファの方が名前なんですか?
一応マーヤさんとお呼びさせてもらいますが」
「マーヤで良いわよ、それより1回で話せるようになるのも凄いわね。
後、一応言っておくと、妖精族は家名の方が先なのよ。
そして氏族名が来て、最後に名前となるわけ。
それより左手で<混沌の種>を持ってみて」
「はぁ………分かりました。
とはいえ何となく結果は分かりますけど」
「私も分かるけど、一応ね」
私は言われた通り左手に<混沌の種>を持って乗せる。
すると、ゆっくりとだが確実に小さくなっていくのが分かった。
もしかしたら私は<混沌の種>を吸収しているのだろうか?
「<混沌の種>を吸収できる者なんていない筈よ。
それこそ神々に滅ぼされた邪神ぐら………」
「えっと………その邪神の加護って、灰色の髪なんですか?」
「いえ、邪神が何かに加護を与えたなんて聞いた事が無いわ。
とはいえアッシュがモンスターだとは思えないし………となると、怪しい研究が成功した?
アッシュは自分がどこの誰か本当に分からないの?」
「ええ、分かりません。
そもそも物心がついた時には既に闘技場に居ましたし、その後は22年の奴隷闘士にされただけです。
今までの時間のほとんどを闘技場で過ごしてきていますし、自分がモンスターかのように言われた事もありません。
それにおかしな行動をとった記憶も……」
「そうよねえ。
私も短いとはいえ、アッシュがおかしいとは思わないし、モンスターっぽいところなんて無いし………
となると邪神の加護?
アッシュの髪って灰色に青白いのが混ざってるのよねえ。
となると、おそらく複数の神の加護を得てるんだと思う」
「複数ですか? だから髪の色が灰色になってしまっていると?」
「おそらくね。多分だけどトリプルかそれ以上なんだと思う。
そうなるとどの神の加護かは分からないから」
確かに多くが混ざってしまっていると不明だろうな。
あ、<混沌の種>が消えて無くなった。
………本当に私は何者なのだろうか?




