02-25-0043
Side:アッシュ
ボス狼との睨み合いは今も続いている。
どちらが先に隙を晒すのか?
そういう戦いに入り込んでいる為、私は金棒の先を地面に付ける形の構えに変えた。
あのまま浮かせていると、やがて腕が疲れて来てしまうからだ。
地面に付けているので動き出しは遅くなるが、それでも腕が疲れて使えなくなるよりはマシだろう。
そう思って地面に付けているのだが、それはこちらに向かってくるのを誘う罠でもあった。
しかしボス狼は引っ掛からず、今も私の周りをウロウロと回っている。
どうしても隙が無いと攻められないのだろう。
私も隙を見せれば殺されかねないので隙を見せられない。
こういう時に駆け引きの上手い者はワザと隙を晒して相手を誘導するのだが、私はそこまで狼型のモンスターとの戦闘経験が無い。
さらには統率者ともなれば、尚の事ないのだ。
なので迂闊な事をしたくない。
大失敗した時に支払う代償は自分の命なのだ、それはあまりにも大きすぎる。
おそらくはボス狼も同じ気分なのだろう。
私の周りをウロウロし続けているのは、自分の命を代償として支払いたくないからだ。
しかし、そんな私達の均衡も第三者の出現で破られた。
「キューーーーン!!!」
パチパチパチパチパチ………!!!
私とボス狼が対峙していた狼の巣に攻め込んできた者が居たのだ。
それは黄色の毛に身を包んだ角の生えたモンスター。
間違いなくアレが山鹿なんだろうが………もしかして山鹿にも統率者が現れたのか?
幾らなんでも多すぎるだろう!?
「キュアーーーーッ!!!!」
「「「「「「「「「「キューーーーッ!!!」」」」」」」」」」
ドドッ、ドドッ、ドドッ、ドドッ、ドドッ………!!!
多くの山鹿が頭を下げて角をこちらに向けて突っ込んでくる。
私はボス狼と目を合わせ「今は休戦だ」と心で思うと、ボス狼も理解したのか山鹿に向かっていく。
私も同じく山鹿に向かっていき、金棒で水平に薙ぎ払った。
「ウォラァァァァァァァッ!!!」
「ガァァァァァァァッ!!!」
私が水平に振り抜いた金棒で、前に居た山鹿3頭が吹き飛ぶ。
そしてボス狼の【風魔法】っぽいので山鹿3頭が吹っ飛んだ。
お互いに山鹿に殺されまいと立ち回るが、山鹿の数が異様に多い。
というより、あのボス鹿が鳴いて増援を呼んでいる?
「キュオッ!!」
「「「「「「「「「「キューーーーッ!!」」」」」」」」」」
またもや追加されたっぽいが、このまま一定の数だけが続くなら、ボス狼と共に対処は可能だな。
私はそんな事を思いつつ、前に踏み出しながら右から左に金棒を振り抜き、一歩前に出つつ左から右に金棒を振り抜く。
十分に力を乗せた金棒は山鹿を吹き飛ばし、その後に突進してくる山鹿も吹き飛ばす。
レッドオーガ状態なので普段に比べれば疲れにくく、それ故に私は金棒を振り回しながら戦い続ける事が出来た。
しかし調子が良かったのはここまでであり、ここからが正念場となる出来事が起きる。
「キュオーーーーッ!!!」
バチバチバチバチバチ………!!
ボス鹿がボス狼に向かって突進したのだが、その攻撃を避けたと思ったボス狼の体が硬直。
その後にボス鹿の後ろ蹴りが炸裂し、ボス狼は鼻先を思いっきり蹴り飛ばされてしまった。
その所為でブッ飛んだボス狼は鼻先を潰され出血、途端に動きに精彩を欠くようになってしまう。
私は普通の山鹿をブン殴って倒しているが、ボス鹿は更にボス狼に攻撃を繰り返す。
その「バチバチ」と鳴る角を向けて突進し、遂にボス狼に突き刺したのだ。
その突き刺された角から出る「バチバチ」でやられたのだろう、ボス狼の体から白い煙が吹きあがった。
ここまで執拗にボス狼を狙うという事は、おそらく山鹿を喰らっていたのは山狼だったのだろう。
これがモンスター同士の争いで、こんなのが日常だとしたら大変なんてものじゃないな。
私には無理だとしか思えない。
角を刺されていたボス狼は横倒しに倒れ、そして白い煙を噴き上げながらビクビクと痙攣している。
もしかしたら既に死んでいるのかもしれない。
そうボス鹿も思ったのだろう、ボス狼から角を抜いたボス鹿は私に向かって角を向けて突進してきた。
もちろん見ていた私は角の「バチバチ」を受ける事はせずに大きく横へ飛ぶ。
しかし「バチバチ」が金棒を伝って来たのか手に鋭い痛みが奔ったので、金棒を手から離してしまった。
ボス狼がやられた距離より離れても受けるとは思わなかったな。
「つぅ………まさか遠くに飛んだのに伝ってくるとは。
通りでボス狼が動けなくなったはずだ。
金棒を捨てなければ私もやられていたかもしれない。
しかし困ったな………」
あの「バチバチ」に対抗する手段が無い。
このままだと何れ疲れ切ってしまい、その時にボス狼と同じ目に遭わされるだろう。
それだけは避けなければいけない。
そうは思っても、簡単に勝てるならばボス狼とてやられてはいないだろう。
何とか手を考えないと………
しかし考えていても相手が止まってくれるはずも無く、再び角を「バチバチ」させては突っ込んでくる。
そんなボス鹿に対し、私は再び横へと跳ぶ。
すると、あの「バチバチ」を喰らわずに済んだ。
「何故あの「バチバチ」を受けなかったんだ? さっきと同じ………まさか」
私は一つの可能性に辿り着くと、ちょうど近くにあった金棒を拾う。
あの「バチバチ」は金棒を伝ってくるのではないかと思った私は、だったら上手くやれば「バチバチ」を返せるのではと考えつく。
ボス鹿は私の方を向くと、再び頭を下げて角を「バチバチ」させ、そして一気に突進してきた。
ボス鹿が来るのは分かっているので、引き付けた後に金棒をボス鹿に放り投げ、そして私は重点的に足を強化して右に跳ぶ。
すると金棒が体に当たったボス鹿は硬直した後で白い煙を少し吹いた。
それでも倒れたりはせず、ギリギリで踏ん張ったようだ。
倒せはしなかったものの、相手の攻撃が利用できると分かったのは大きい。
少なくとも「バチバチ」は敵への攻撃に利用できる。
それを上手く使えば私が勝つ事も可能なはずだ。
しかしその為には再び金棒を拾わないといけない。
私はボス鹿が金棒から離れる方向に突進するように位置を移動する。
すると、ボス鹿は後ろ足で私の金棒を蹴り上げた。
もちろん重い為にそこまで飛ばないが、しかし更に遠くに行ってしまった事は間違いない。
そしてそれを確認したボス鹿は、再び頭を下げて角を「バチバチ」させると、再び突進してきた。
私は再び足に強い身体強化をして跳ぶも、途中で止まったボス鹿は私の方に方向を変えて突っ込んできた。
「流石にそれは反則だろう!!」
倒れてはいないものの、中腰な私は反撃出来ない。
このままだとマズいと思った私は、あえて尻餅をつき、そして両足で突っ込んできたボス鹿を蹴る。
地面に両手をついて、しっかりと突くように足を出したのが良かったのだろう。
ボス鹿の頭が跳ね上がって突進が止まり、そして慌てて跳んで逃げた。
私は足が痛いなと思いつつも、ボス鹿を倒す方法がようやく判明して喜ぶ。
何故なら強く足を強化したのが良かったのだろう、金棒の時よりも痛くなかったのだ。
つまりアレは魔力由来の攻撃であり、多くの魔力を纏っていれば痛みや傷を小さく出来るのだ。
かつて100体も戦ったフーダと同じであり、身体強化は魔力由来の攻撃も防げる。
力を強くするだけじゃないんだと、改めて私は私の力を理解した。
ならば後はボス鹿を倒すだけだ、そこまでの算段はついたのだからな。
しかし………ボス鹿が同じ行動をしてくれるかは分からない。
なので私は腰を落としてボス鹿に対して構える。
もちろん素手であり、金棒を取りに行くわけではない。
これなら再び「バチバチ」で突進してくるだろう。
先程のように途中で止まっても問題ない。




