02-24-0042
Side:アッシュ
ボス狼とドーヴァルの統率者との戦いだが、一進一退の攻防というか、臭さと攻撃の鬩ぎ合いになっている。
ボス狼は臭すぎて近寄れず、その所為で決定打を放てない。
ドーヴァルの統率者は疲れ切っており、最早まともに戦うのも難しい。
そんな2体の戦いなので、イマイチ締まらない状況のまま推移している。
圧倒的に有利なのはボス狼なのだが、必殺とも言える噛み付きを封じられているので決着がつかないのだ。
むしろ臭いというだけで封じ込められているのが凄いと思う。
ドーヴァルの統率者の作戦勝ちなのだが、しかし疲れで満身創痍になってしまっている。
その事もあって、本当に決着が付かないグダグダの様相を呈してきた。
実際にこの状況では決着が付きそうにない。
「グラァウ!!」
「ガァァッ!!」
ボス狼が爪を振るうも、流石にドーヴァルの統率者も2度目からは避けるようになった。
臭いにおいの所為か、どうしても踏み込めないようだ。
なのでボス狼の爪もそこまでの力が乗っていない。
しかしドーヴァルの統率者のパンチやキックも疲れから大した威力にはならず……
本当に決着がつくのか疑問しかないが、ここで乱入するほど私も恥知らずではない。
せめて、しっかりと決着が付くまでは見守ろうと思う。
ここで乱入して両方を倒しても、なんだか味気ない終わり方をしそうだしな。
私も色々と消化不良になりそうだ。
「ガァオッ!!」
「ガァッ!!」
掛け声は強いのだが、両者ともに手打ちよりも酷い攻撃だ。
ボス狼も少し疲れて来たのか、それとも鼻が壊れて来たのか大した攻撃にならなくなってる。
ドーヴァルの統率者はもっと酷く、そろそろ疲れで体が動かせなさそうだ。
そろそろ決着が付くかな?
私がそう思っていると、遂に決定機が訪れた。
「グルァッ!!」
「ゴアッ!?」
ドーヴァルの統率者が足を滑らせてコケたのだ。
いや、疲れから足がもつれたと言った方が正しいと思う。
倒れたものの、もはや立ち上がる体力もない。
そんなドーヴァルの統率者に素早く近寄ったボス狼は、首に噛み付いて回転する。
ガブッ!! ……ブチィ、ビチビチビチィ!!!
首の肉を裂き、引き千切る音が辺りに木霊する。
流石のドーヴァルの統率者も、あの回転噛み付きには耐えられなかったようで絶命したらしい。
とはいえ首の半分以上が引きちぎられているのだから生きている方がおかしいが。
これで私とボス狼の戦いかと思ったら、ボス狼が嫌そうにドーヴァルの統率者の体に噛み付いて肉を引き千切る。
いったい何をやっているのだろうと思ったら、心臓近くに鼻先を突っ込んで何かを噛んで取り出した。
「アレはなんだ? 虹色の石?」
何故かドーヴァルの統率者の心臓付近から虹色の石を取り出したボス狼は、それを目の前で「バリボリ」と食べ始める。
すると……
「グゥゥ………ガッ……………グルァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」
「うおっ!?」
突然大きな咆哮を上げたかと思ったら、ボス狼を中心に風が爆発的に広がり、私はその強い風の所為で尻餅をついてしまった。
目も瞑ってしまったのだが、次に目を開けた時には既に目の前にボス狼が居て驚く。
ボス狼は初めて会った時のように私を睥睨していたが、突然噛み付きにきた。
私は素早く左手で守るも、腕防具の御蔭で噛み千切られるのを防いだ。
ギリギリギリギリギギギギ……
どう考えても腕防具が保たなそうな音がしてきたので、素早く右手で鼻先をブン殴る。
するとボス狼は堪らず後ろへと跳んだ。
その隙に私も立ち上がったが、ボス狼の毛は茶色から緑色に変わっており、どうやら新たに風の神の加護に変わっているのが分かる。
そんな事が現実に起こるなど聞いた事が無いが、私は金棒を構えてボス狼と対峙する。
しかし、相手は何故か虹色の石を食べる事で強さを得たらしく、今までと同じと考えたら勝てないだろう。
青い肌はともかく、まずはレッドオーガ状態にならないと。
そう思った私は呼吸から力を取り込み、一気に体の中に循環させる。
今までと違い、一度青肌状態になったからかスムーズに身体強化が出来ていると思う。
何故なら全身に力が行き渡っているのが分かるからだ。
「グルルルルルルルルル………!」
ボス狼が私を警戒しながらも隙を探してウロウロし始めた。
なので私は常にボス狼を正面に見る形で下段に構える。
私はドーヴァルの統率者とは違い、体に睾丸を塗りたくってなどいない。
なので問答無用に噛み付いてくるだろう。気を抜けば殺られる。
そんな緊張感を持ちつつ、確実に反撃できるように下段に構えて警戒。
ウロウロしているボス狼も、私に隙が無いと理解したのだろう。
四肢を畳んで跳躍する態勢に入った。
そして「来る」と思った瞬間、私の読みは外されてしまう。
「ガァッ!!」
ドォン!!
ボス狼が口を開いた直後、その口から爆風が飛び出て私にブチ当たる。
その衝撃で私は尻餅をついてしまったが、それを見逃すボス狼ではない。
一気に跳躍して私に噛み付きにきたが、私は金棒で受け止めて何とか防ぐ。
ガキィッ!!! ……ギリギリギリギリギギギギギ
金棒すら噛み砕かんとしてくるボス狼に嫌な予感を覚えた私は、レッドオーガの力で圧し掛かってきているボス狼の腹を蹴り飛ばす。
流石にコレは効いたのだろう、飛んだボス狼は咳をしつつ私を警戒し始めた。
それだけの威力だったらしい。
私は立ちあがると、再び金棒を持って下段に構える。
とにかく噛み付かれたらドーヴァルの統率者のように噛み千切られて死ぬしかない。
それを防ぐ為にはカウンターからの反撃で戦うしかないだろう。
狼の噛む力は恐ろしく強いのだから。
「グルルルルル………」
再びボス狼が隙を探してウロウロし出した。
しかし私はボス狼を正面に捉え続け、必ず隙を見せないように動く。
先程から何度もやられているが、今まで出来なかったような攻撃をいきなりしてくるので、対処が非常に難しい。
どうしても後手後手に回らざるを得ないが、風で攻撃してくると分かれば対処は可能だろう。
ボス狼にとってのチャンスは、私が知らない間だったはずだ。
そして私はその期間を何とか凌ぎきった。
時が経つごとに私が有利になるとは思わないが、それでも私の不利は徐々に減っていく。
なればその分だけ私の勝率は上がるはずだ。
闘技場でもかつてそのような戦いはあった。
私は傷の治りも早く綺麗に治る為、あまり傷跡としては残っていない。
しかし長く時間の掛かる戦いは何度も経験してきているし、そこで焦れて失敗などしていないから今がある。
ボス狼は隙を探しているが、私がそう簡単にボロを出すと思うなよ?
「グルアゥ!!」
何かを使ったのだろう、風の塊のような物が幾つか体にぶつかって来た。
しかし私は目を閉じないし、体で受け止めながらもボス狼から目を離さない。
だからこそなのか、ボス狼が向かってくる事はなかった。
風の塊も多少の痛みはあるが、しかしレッドオーガ状態だからか思っているよりは大きな痛みではない。
なので耐える事は十分に可能だろう。
そもそもボス狼が使っているのは魔法だろうが、魔力を使い過ぎればいずれ尽きる。
その時こそが私の勝機だ。
なので今は焦らず、ジッと耐えて待つ。
何故かボス狼は疲れが無くなっているのか、今も元気にこちらを伺っている。
この状態では私が攻めてもどんなカウンターを受けるか分からない。
そしてその一撃が致命傷にもなりかねないのだ。
疲れもなく元気な相手に、真正面からぶつかるのは危険すぎる。
ここは待ちの戦法で間違ってはいないはず。




