02-23-0041
Side:アッシュ
「アッシュが行ってくれるのは助かるが、そもそもさっきのは何だったんだ?
急に肌が赤くなったり青くなったりしてたが……」
「すまないが、それは私にも分からない。
私は自分の種族も知らないし、ただ魔力で身体強化をすると肌が赤くなるのだけは分かっている。
その力があったからこそ、闘技場で生き延びる事が出来たのだしな」
「そういう事か。
22年も奴隷闘士をさせられて、よく生き延びたなと思っていたのだが、そういう理由があったとは……」
「奴隷闘士なんかしてたの? それも22年も?
貴方の力なら普通に稼げるでしょうに」
「アッシュは子供の頃から闘技場の者に拾われ、その後22年も無理矢理な契約で奴隷闘士をやらされていたのですよ。
監査官も付いていなかったそうです」
「なにそれ? 昔の奴隷の作り方と一緒じゃない。
相変わらず酷い事をするヤツが居るわね。
なんでそういうのって居なくならないのかしら。
本当に碌でもない奴らって幾らでも湧いてくるわね」
「とにかく私は双方の巣を調べてきます。
それと、ここに居てほしいのですが?」
「えー! やーよ。
一緒が一番安全なのは分かってるんだし、なら一緒に居るに決まってるでしょう」
「ドーヴァルの巣に行くんですが、耐えられますか?」
「…………止めとく」
「でしょうね」
妖精族の方が肩から下りたので、私は村を出て右の山へと歩いていく。
誰かが見に行かなければいけないし、単独で動けて一番強い者となると私以外に居ない。
で、ある以上は、私が行かなければいけないわけだ。
とはいえ私はその事に関して思う事は無い。
何故なら自分の目で見た方が納得できるからだ。
別に嘘の報告をしたりなどはしないが、自分の目で見た事とそうでない事は同じではない。
私は出来るだけ自分の目で見て納得したいので、自分で見に行きたかったのもある。
なので都合が良かったとも言える訳だ。
そんな事を思いながら近づくと、遠くから見ても分かるくらいに争っているのが分かった。
というより、山狼の猛攻にドーヴァルがなんとか耐えていると言った感じだ。
「グルォァァァァァッッ!!!」
「「「「「「「「「「ギィッ!!」」」」」」」」」」
統率者の合図で下っ端が一斉に山狼に立ち向かう。
一体が食い殺されている間に他の者が近づき、そして足に噛み付いているのだ。
犠牲ありきの戦いになっているが、ドーヴァル一体の犠牲で山狼一体に勝てるなら安い物か。
実際に両者の強さの差はもっとあると思われるし、あの程度の犠牲ならむしろ最小だと言えるはずだ。
的確に足を潰しに行っているのも、流石は統率者としか思えない。
統率者の賢さはドーヴァルの方が上か?
でもな、あのボス狼がそんなに単純かとも思う。
あの凄いオーラのボス狼が何も考えていないという事は無いだろうし、いったい何を狙ってるんだろうな?
私は遠くから観戦する程度で済んでいるが、実際に戦うとなると大変だろうなと思う。
どちらが相手でもだ。
そんな風に両者の戦いを見ていると、ふいにボス狼がこちらを見た気がした。
私は慌てて後ろへと下がり、なるべく気づかれないように地面に臥せる。
あれほど遠くからでも私に気づいたのだとしたら、相当にマズイな。
私だってギリギリから観戦しているというのに。
それでもこちらに攻めて来る事は無い為、そのまま観戦をしていくが、やはり山狼の方が強い。
堪らずに統率者が前へと出て戦い始めた。
それもただ戦うのではなく、死んだドーヴァルの玉を引きちぎって投げつけている。
「ギャンッ!!」
「ギャウ~~!!」
「「「「「「「「「「ギィッ!!」」」」」」」」」」
これを他のドーヴァルも覚えたのか、臭さに負けず山狼に睾丸を投げつけ始めた。
そして怯んだ隙に足に噛み付き、足を潰していく。
予想以上の効果を発揮したのか山狼の勢いが弱まり、逆にドーヴァルの勢いが強まり始めた。
それを見ても碌に動かないボス狼。
いったいどういう事なのかと思っていたら、ドーヴァルの背後の森から山狼達が出て来た。
しかもボス狼並みに大きいヤツが居る。
そいつらが口に銜えていたのはドーヴァルの首だった。
「グォォォォォォォッ!!!!」
「「「「「「「「「「ギィィィィッ!!」」」」」」」」」」
どうやらあの様子を見るに、山狼の別動隊はドーヴァルの巣を壊滅させたらしいな。
それに対して怒りの咆哮を上げる統率者と下っ端ドーヴァル。
しかしどこまで削れたのか分からないし、このままだと多勢に無勢でドーヴァルが負けそうな?
それでもドーヴァル達は果敢に戦い、睾丸を駆使しながらも半数は殺した。
しかしその状態で遂に力尽き、統率者しか残らなかったようだ。
とはいえ山狼の側も残りは30頭ほど。今までに比べれば格段に少ない。
そして睾丸戦法はまだ効いている。
統率者が死んでいるドーヴァルから睾丸を引きちぎったので投げつけるのかと思ったら、自分の体に叩きつけて塗りたくり始めた。
おそらくは臭さで敵を遠ざけようというのであろうが、自身も臭いのによくやる。
顔を顰めながらも塗っていき、ある程度のにおいを付けたら山狼に突撃し始めた。
しかし山狼の方は嫌がって逃げる始末。それはボス狼も変わらなかった。
なので、あのにおいで鼻がやられると戦えなくなるのだろう。
必死に逃げた山狼を追うドーヴァルの統率者と、必死になって臭いにおいから逃げる山狼。
そんな図となっているが、私も見届ける為に立ち上がって走り、追いかけていく。
左の山の森に入り、そして山狼の巣まで走ってきたらしい。
すると、そこには倒れた山狼とドーヴァルの死体が大量に折り重なって倒れている光景が広がっていた。
そしてそれを溶かしている多くのスライム。
どうやらドーヴァルも同じ事をしていたらしい。
互いの巣が壊滅に近くなった事もあり、統率者と山狼の争いが再開された。
しかし統率者というのは強いな。山狼を楽々と蹴散らしている。
もちろん睾丸のにおいで有利に立っているのだが、そうだとしてもだ。
山狼の頭を蹴り飛ばし、その辺りにある石を投げつけている。
更には大きめの石を持って叩きつけたりなど、相当の攻撃を山狼に対して行っていく。
そして、遂にボス同士のみになった。
まさかここまで統率者が強いとは思わなかったな。
もちろん死んでいなくて呻いている山狼が多いのは事実だ。
下っ端のドーヴァルと同じく足を潰して山狼が戦えないようにしていき、その戦法で30頭に勝利している。
それでも勝ちは勝ちなのだから、流石は統率者としか言えない。
ボス狼が勝つには統率者の体に噛み付かないといけないのだが、果たしてそれが出来るのだろうか?
「ゲハッ、ゼハッ、ハァ……ハァ……」
「………」
ドーヴァルの統率者も流石に疲れ切っている。
あそこまでの山狼を倒すのにも骨が折れただろうし、明らかに不利なのは間違いない。
しかし鼻を潰す事には成功しているので、ボス狼も簡単には噛み付けないだろう。
アレに噛み付くと、それだけで昏倒しそうだからな。
実際に倒れている山狼の中には、噛み付こうとして昏倒した者も居たのだ。
それぐらい山狼の鼻にとっては厳しいのだろう。
ドーヴァルの統率者は息を整え。そして山狼に向かって走り出した。
これが最後の戦いだろう。私も集中して見守ろうか。
「グルアァァァァァァッ!!!」
「グォォォォォォォォッ!!!」
2体のモンスターが互いに殺そうとしあい、攻撃を繰り出した。
ボス狼は爪で切り裂こうとし、統率者は拳でブン殴りに行く。
その攻撃がぶつかり合い、そして山狼の爪が勝った。
「ゲァァァァァァァァァ!?!!?!」
「ギャン!」
すかさず追撃をするのかと思ったら、近過ぎて臭かったのだろう。
慌ててボス狼は距離をとった。
なんというか微妙に締まらない戦いだなぁ……。
あの睾丸は余程に強敵らしい。




