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 Side:アッシュ



 興奮が治まり、なんとか収拾がついたので、馬車の中を調べる事になった。

 尚、先程の戦いで気絶させた御者は縄で縛ってある。

 それ以外の連中も同じだ。


 そして馬車の中を調べて分かった事がある。

 何故こいつらが急に凶行に走ったかの理由が“居た”からだ。


 「へー……ここはガルセンツ王国の北の国境なの?

 まさか旅してたら怪しい連中に拉致されるとは思わなくてね。

 しかも厄介な事に【乱魔の首輪】を付けられるとは思わなかったわ。

 おかげで大きい状態から戻れないし」


 「妖精族が大きくなろうとしないと、大きくはなれないと聞きますけど」


 「それは違うわね。正しくは体の中の魔力配分を変えればいいだけよ。

 そして【乱魔の首輪】で魔力を乱されると、大きくなった時と同じにされてしまうの。

 その所為で小さくなれないのよ。誰か外してくれない?」


 「そう言われても……鍵が無いのです。

 どこを探しても見つからず、身ぐるみを剥がして調べたのですが、それでも見つかりませんでした」


 「困ったわねえ。もしかしたら広範囲に渡る組織だったのかしら?

 だから組織の場所にしか鍵が無いとか?」


 「分かりません。

 とりあえず、どこにも鍵が無いという事は間違いない事です。

 ………これからどうしますか?」


 「どうもこうもないわよ。

 私の持ち物はあったけど、それじゃどうにもならないし……」


 「その首輪、無理矢理に外せませんかね?

 きっちりと締まってる訳ではなく隙間がありますし……いけそうな気がするんです」


 「マジで? だったらやってくれない?

 今はそれしかないみたいだしさ」


 「本当に大丈夫ですか? この首輪はおそらく鉄製ですよ?」


 「魔力を乱す鉄だから<乱魔鉄>だけどね。

 とはいえ強度は鉄と変わらないと思うわ」


 鉄程度なら私の力でなんとかなるはずだ。

 特にレッドオーガ状態なら問題なく壊せるだろう。

 それじゃあ、息を吸って強化しよう。


 「………では、いきます」


 「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」


 周りの人達が固唾(かたず)を飲んで見守ってるっていうのに、何故かこの妖精族の人は面白そうに私を見ている。

 私は十分なレッドオーガ状態になると乱魔の首輪に手を掛けたのだが……


 「なっ!? 解除された!?」


 「これは<乱魔の首輪>だと言ったでしょう? 魔力を乱すのよ。

 その身体強化が魔力由来なら、当然のように乱されて使えなくなるわね。

 でも……」


 「でも、なんでしょう?」


 「乱魔鉄は確かに魔力を乱すんだけど、それにも限度というものがあるわ。

 私はもう付けられてるからどうにも出来ないけど、貴方の魔力が多いなら出来るかもね。

 試してみたら?」


 何故かこの妖精族の人は、私をニヤニヤしながら見ている。

 なので、もしかしたら私の魔力量をある程度は理解しているのかもしれない。

 そして、それを理解した上で言っているのなら、この乱魔の首輪を突破出来る魔力を私が持っているという事になる。


 私は深呼吸し、深く息を吸い込むと体の魔力を動かす。

 それも今までのようなやり方ではなく、無理矢理にでも全ての魔力を根こそぎに使うような方法だ。


 ドクン! ドクン! ドクドクドクドクドクドク………!!


 凄まじいまでに体が活性化していくのが分かる。心臓の音が五月蠅いほどだ。

 しかし私の体は何故かここが限界ではないと訴える。

 私自身が理解していない私が居るような、そんな気分になりながらも更に私は自分の魔力を底からかき混ぜた。

 自分の全ての力を底の底まで使うようにして。


 ドコドコドコドコドコドコドコドコ………!!


 心臓が巨大な太鼓になって叩かれているような、そんな気分になりつつ目を開けると、私の肌は青に染まっていた。

 どうやらレッドオーガ以上の状態になったらしい。


 「では、いきます!」


 「ここまでだとは思ってなかったんだけどなぁ……」


 妖精族の人が何かを言ったみたいだが、私は気にせず乱魔の首輪を両手で持ち捻る。

 人差し指と親指に力を入れて捻った首輪は、恐ろしく脆い飴細工のように折れた。

 それはあまりにも簡単過ぎる程だ。


 ベキィッ!!!


 音が大きいが、私にとっては然したる力も入れていない程度である。

 なんだか拍子抜けしてしまったが、首輪が折れたのだから喜ぼう。


 私は対極にある位置も壊し、完全に取り外せるようになったので外した。

 すると早速小さくなった妖精族の方は、何故か私の肩に乗って来た。


 「いやー、魔力が私ぐらい多いとは思ってたけど、まさかそこまでのバケモノだとは思ってなかったわ。

 あなた尋常じゃないわね」


 「そうですか? とりあえず首輪を外せて良かったですよ。

 あの御者の男も含めて、何やら怪しい奴らが居るようですが……」


 「それねー、多分だけどわたしが珍しいからだと思うわよ?

 だってわたし、見て分かる通りオレンジの髪だし」


 そういえばオレンジの髪の事を聞いたな?

 あれは……なんだったっけ?


 「アッシュは分かっていないようなので言っておきますが、オレンジの髪は生命の神の加護です。

 つまりは【生魔法】使いですね」


 「【生魔法】! それって相当に珍しい魔法では?

 確かどの種族にも現れるが、その数はかなり少ないと聞きます。

 そのうえ魔力を多く消費するので、種族によっては碌に使えない事もあると……」


 この女性は妖精族だ。

 つまりは全種族中もっとも魔力の多い種族とも言える。

 おそらくはそういう意味で狙われたのだろう。


 「わたし、実は妖精族の中でも魔力が多いのよ。だからこそ余計に狙われるんだけどね。

 今回は完全にしてやられたっていうか、わたしがお風呂に入っている最中を狙ってくるとは思わなかったのよ。

 本当に最低な奴ら」


 「それはまた………という事は、もしかして?」


 「ああ、穢されてはいないわよ。

 それをやったら流石にマズいと思ったのか、そういう事はされなかったわね。

 まあ、裏のプロみたいな連中って大体そんな感じだけど。

 それより、わたしの荷物も無事だったし、これで旅が続けられるわ」


 「荷物って、と思ったんですけど………小さくなってる?」


 「妖精族は自分の近くの物も小さく出来るのよ。その分だけ魔力を使うんだけどね。

 もし大きな荷物を運びたい時は言いなさい。小さくしてあげるから。

 代わりに魔力を頂くけどね」


 「魔力を? ……どうやって?」


 「それは【妖精のキス】と呼ばれるものじゃの。

 妖精族しか使えぬらしいが、他の者の魔力を奪えるそうじゃ。

 そういう意味でも妖精族は恐ろしいのだ」


 「恐ろしいって失礼ね。こんなに可愛いのに」


 「1000年も生きるのだから、中身は既に可愛いなどとは言えまいに」


 そういえば妖精族の寿命は1000年もあったんだったな。

 それではこの方も、何百年生きている方かは分からないわけか。


 「何百歳であろうが、可愛い者は可愛いんですー!

 あと、わたしは他のに比べたら若いっての。

 まだ230年ぐらいしか生きてないわよ」


 「あら? 私より年下だとは思わなかったわ。これは予想外」


 「確かにね。

 私よりも年下の妖精族かー………妖人族の私からすれば、なんとも言えない事ねえ」


 その発言に他の者達が驚いているが、シェリア殿もデュー殿も特に気にしていないらしい。

 長生き種族というのはそういうものなのだろう。

 それはともかく、この誘拐犯罪者とは別に、どうなったかを見に行かないといけないな。


 村の方に多くが来るのか、それとも単に馬車を追いかけて来ただけか。

 モンスターの動きによっては、こちらにも余裕が生まれるんだがな。


 「私はモンスターの動きを調べてきます。

 他の方々には、その連中をお願いしていいですか?」


 「ああ、構わないよ。さっきのを見たら、アッシュ一人でも平気そうだからね。

 ただし危ないと思ったら帰ってきな。ハンターは慎重じゃないと生きていけないよ」


 「大丈夫、大丈夫。わたしがついてるし」


 というか、貴女はついてくる気なのか?


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