02-21-0039
Side:アッシュ
私達はモンスターの死体を片付けつつ、襲われた馬車の御者から話を聞く。
とはいえ聞いているのは支部長であり、私は皆と一緒に片付けながら聞く形だ。
スーニア殿とバナンが堀に向かって血抜きをしてくれているので、私達は死体を集める事を主にしている。
「貴方がたはいったいどこの誰ですか?
モンスターに追いかけられながら村に来るなど、商人ギルドに報告しなければならない案件ですからね。
きっちりと聞かせてもらいますよ」
「い、いや、我々はそんなつもりでは……」
「商人ギルドに報告?」
「アッシュは知らないかもしれないが、商人は出先で襲われた場合、周りの者に助けを願うのは許可されてるんだ。
ただし村や町に逃げ込むのは許されてない。
なぜなら村や町にモンスターを擦り付ける行為になるからだ。
これは商人ギルドにおいて、非常に重い罪になる行為なんだよ」
「それだけ危険ですし、それで被害が出たら賠償がとんでもない事になるからですか……」
「それもあるが、一番は信用と名声だ。
商人は信用第一な部分があって、信用がなくなると取引すら出来なくなる事が多い。
名声も同じで、名が上がるほど良い商売ができる。
だから商人も商人ギルドも信用と名声を相当に気にするんだ。
だからこその重い罰なのさ」
「ちゃんと罰を与えたっていうアピールを周囲にしなきゃいけないってわけ。
そうしないと信用がガタ落ちになるからね。
ギルドとしては商人を切り捨ててでも、信用の低下は避けたいのさ。
他のギルド員に迷惑が掛かるから」
「ドーヴァルと山狼20体だから厳しいのは分かるが、村に突っ込んできた時点で駄目だ。
アレは許される行為じゃない。
支部長じゃなくても怒るのは当然だし、何より村の人に被害が出てないからこの程度で済んでるとも言えるんだぜ」
確かに被害が出ていたら、この程度の騒ぎじゃなかっただろうな。
私でも村人に被害が出ていたら、村人が総出で八つ裂きにしていたかもしれない事は分かる。
何の関係もない者達が突っ込んできた所為で亡くなるなど、許せないだろうし。
キィン!
は? 金属同士の当たる音?
「【風打突】【風矢点】!!」
「ぐあっ!?」
「くそ! 走らせろ!!」
「アッシュ!! 馬車の車輪を壊してください!!」
私は支部長の声に反応し、素早く金棒を構えると一気に吶喊。
レッドオーガになり、金棒をフルスイングして馬車の車輪を破壊した。
ドゴォンッ!!!
「「「うわぁ!?!!?」」」
どうやら中に乗っていた者達も、車輪が壊れた事により慌てたようだ。
声から3名が乗っている事を把握した私は、素早く馬車の後ろに回る。
そして金棒を構えていると、慌てたように出て来た。
そして……
ゴシャッ!!
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 足が、足がぁぁぁぁぁぁ!!!」
私は出て来た者の足をブン殴り、一撃で左足を破壊した。
残りの2名は躊躇したのか出て来ない。
なので私は出て来るまで待つ事にした。
迂闊にこちらから出ると、刃物で刺されかねないからな。
乗り込む訳にはいかない。
そうやって待っていると、馬車の前から一人出てきたようだ。
どうやら御者の男の味方をする気らしい。
御者の男はどうやら凄腕らしく、支部長が苦戦しているみたいだ。
銀3級で苦戦するって相当の腕前だぞ。なんでそんなヤツが御者をしてるんだ?
ズドン!!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ?!?!! 足がぁぁぁぁぁっ!?!?」
こっそりと出て来たもう一人の足も破壊し、足を破壊した連中は他の人に任せる。
そして馬車の前に行くと、支部長が軽くだが、数か所ほど切られて血を流していた。
本当にこいつら何者なんだ!?
「支部長、交代します」
「いけません。この者、おそらくはどこかの国の裏部隊の者です。
あまりにも手練れに過ぎますので、アッシュでは足手まといになるだけですよ」
「「………」」
足を壊されたヤツは痛みで絶叫したが、こいつらは余計な事を喋ったりはしないらしい。
ただし支部長は勘違いしている。
今の私はレッドオーガ状態だ。そこらの連中に負けるほど弱くはない。
そして、こういう暗殺者のような連中は闘技場で何度も戦った事がある。
私は金棒を下に構えて接近していく。
かつて闘技場の知り合いから聞いた三つの構え。そのうちの一つがこの下段の構えだ。
これは防御を主体にし、相手の攻撃を弾き上げたり避けてから一撃を加える為の構えになる。
こういう素早い相手は、まず相手の攻撃を潰すに限る。
私がゆっくりと足を滑らせるように近づいていくと、私の方に両手に持っている短剣のうち、左手の短剣を投げつけて来た。
いきなり御者が投げて来たものの、私は素早く金棒でガードして弾く。
そして再びジリジリと接近。
するともう一本の短剣を新たに左手に持ち直した御者が、一気に支部長の方へと走る。
そしてもう一人の敵が私の方に来ようとしたが、私はそれよりも早く足をブン殴ってやった。
ドガッ!!
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!?!!?」
御者の男ならともかく、もう一人の下っ端なら弾くまでも無い。
ただしレッドーオーガ状態の攻撃は強く、一撃で左足を粉砕してしまったようだ。
こいつは2度と歩けないだろうが、私としてはどうでもいいしな。
話を聞いたら適当に始末すればいい。
「………」
「【風纏】」
そんな事を考えていると、御者の男から影が伸びて支部長を切った。
ように見えたが、支部長の魔法で浅く切れただけだったようだ。
しかし、アレが先程からの敵の攻撃か。
通りで支部長が苦戦する筈だが………影で攻撃な。
御者の男は3人がやられたと分かったんだろう、急に囲みの弱そうな所へと駆けだした。
おそらく逃げる気なのだろうが、レッドオーガ状態の私から逃げられる筈もない。
私は背を向けて駆けだした御者の男に対して金棒をブン投げる。
それと同時に走り出したのだが、御者の男は何かの魔法を使っていたのか、金棒の勢いが落ちて直撃。
それでも相当だったらしく、倒れて呻いている。
ドゴッ!
「ガハッ!! ………ガッ、づっ、ぐぅ……!」
私は倒れて呻いている御者の男に近づき、上から覆い被さるようにして捕まえ、首を絞める。
右手を首に回して左の二の腕を掴み、左手の手の平は敵の後頭部を押す。
この状態で相手の腕の外側から足で抱きつき、最後に相手を上にしてひっくり返る。
これで相手は手で何も出来ず、ひたすらに首を絞められ続ける事になるのだ。
特に足で相手の腕と胴を押さえているので、手でどうにかする事も出来ない。
「……ぐ!! ……が!! ……っ!!!」
「足掻いても無駄だ。今の私の力に勝てるわけが無かろう。
お前程度の力で勝てるなら、私は奴隷闘士として勝ち続けるなど不可能であったよ」
「……っ!!! ………………」
体の抵抗が徐々に無くなっていき、最後には失神したのか完全に抵抗が無くなった。
私は腕と足を離したが、ちょうどそのタイミングで失禁し始めたので慌てて離れる。
そういえば、昔闘技場で同じ事をした時にも失禁されたなぁ……。
「大丈夫ですか、アッシュ!?」
「問題ありません。
そこまで力の強い相手ではありませんでしたからね。
押さえ込んでしまえば、脱出される心配もありませんでした」
「アッシュ。
そうではなくて、お主の体が真っ赤になっておるのだ!」
「ああ。これはこうやったら元に戻りますよ」
私はそう言って体に巡らせている力を止めると、すぐに皮膚の色は元に戻った。
が、それを見て皆が口々に言ってくる為、その興奮が治まるまでに時間が掛かってしまった。




