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01-04-0004




 Side:アッシュ



 「なんか妙に納得してるみたいだが、どうかしたか?」


 「あの闘技場の主。

 仮面を着けた女オーナーは何としても私を殺したいようだった。

 その事に納得していたんだ。

 闘技場に無理矢理残らせようとして、駄目なら私を殺そうとしてたし、それに甘ったるい香を常に焚いていた」


 「甘ったるい香? ………もしかしてブヌクスの香か? だとしたら重罪だぞ。

 アレは嗅がせたヤツを操る事が出来るって特殊な香でな。

 作るのも禁止されてる、かなりヤベー代物になる。

 っつーか、よくブヌクスの香を使われて耐えられたな?」


 「アレは魔力の多い種族には効き目が薄いから、魔力が多かったんじゃないか?

 そもそもアッシュの種族もよく分かってねーみたいだしさ。

 本人もオーガかサイクロプスだって言われたとしか書いてないし」


 「そもそも私がどこの誰かなのかは私も知らない。

 先程も言ったが、物心がついた時には既に闘技場に居た。

 それからはずっと闘技場の中で暮らしてきている」


 「それもそれで碌な事をしねえが………お前さんの体で奴隷だと、バカみたいな女が買ったんじゃないか?」


 「買った?」


 「あー……簡単に言うと、女に対して性的な奉仕をしろと言われなかったか?」


 「何度も臭い女の相手をさせられた事はある。

 そいつらも私の股間が大きいから、オーガかサイクロプスの血を引いていると言っていた」


 「奴隷となったら扱いは変わらねえなぁ。

 それを見越して、そういう所に行く貴族の女も多いしな。

 おそらくアッシュが臭いって言ってるのは、付けてる香が臭かったんだろ?

 オレも若い頃はそんな女の相手をさせられた」


 「確かにそうだな。

 アレは本人の臭いと言うより、何かの香の臭いだと思う。

 全身に付けていたからか、猛烈に臭かった事だけは忘れていない」


 そう言うと受付嬢が何とも言えない顔をしたが、すぐに元の表情に戻した。

 どういう事だろう?


 「まあ、同じ女性としては気持ちは分かります。

 自分の臭いを隠したいという事ですし、庶民はお金が無いので香水などを大量に買えないだけです。

 買えるなら同じ事をしている可能性は否定できないのですよね。

 周りの迷惑も考えず」


 「男でも香を焚きつけた服を着ているヤツが居るから微妙だけどな。

 猛烈に臭いのが分かってないのか? って思う事がある。

 とはいえ、アレも貴族の男がほとんどだが……」


 「とりあえずこれで登録証を作りますので、座ってお待ちください。

 これ以上は分からないでしょうし、どうにもならないようですので」


 「物心つく前に連れて来られたんじゃ、どうにもならねえだろうさ。

 稀にだけど、そういうヤツは居るからな。

 今もって居なくならねえ」


 私は言われた通り椅子に座り、登録証とやらが出来るまでゆっくりと待つ事にした。


 …

 ……

 ………


 「アッシュさん、登録証が出来ましたのでこちらにどうぞ」


 受付嬢に呼ばれた為、私は椅子から立ち上がって受付嬢の所まで行く。

 既に私をここまで連れて来てくれたハンター達は飲みに行ってしまい、私は一人で待っていた。

 その方が気楽だったし、少し落ち着けた気もする。


 「来ましたが、登録証とは何でしょう?」


 「これが登録証で、この木札は肌身離さず持っていて下さい。

 もし悪用されたとしても、ハンター協会は一切責任を負いませんので失くさないようにお願いします。

 それと、マスターに会いに行きますのでついてきて下さい」


 「分かりました」


 私は受付嬢の後ろを歩きつつ、マスターという紫髪の方に粗相(そそう)をしないようにしなければと思った。

 ハンター協会のトップだし、何よりも怒らせると恐ろしい者みたいだしな。


 2階に上がり突き当りの部屋の前まで来ると、受付嬢はドアをノックした。


 コンコン


 どうやらここがマスターの部屋らしい。

 ここまでに2つ扉があったが、あそこは別の部屋なのだろうな。


 「マスター、件(くだん)の新人をお連れしました」


 「入れ」


 「失礼いたします」


 声は………中性? 男のような女のような、声からでは判断できないな。

 なかなかに厄介というか、ここまで相対するまでに情報をくれないとは思わなかった。

 何が粗相(そそう)に当たるか分からないが仕方ない。

 可能な限り気を付けるか。


 「失礼いたします」


 「お前が新人か。確かに見た目からは判断がつかないようだ。

 それはともかく自己紹介しておこう。私はルザワンズ・ディーコルマ。

 ディーコルマ子爵家の当主だ」


 「私は今日ハンター協会に入った、新人のアッシュです。

 よろしくお願いします」


 私は見た目も中性的でよく分からないマスターに対し、女性相手の丁寧な挨拶を行った。


 「…………貴様、女の相手をする為の知識と練習をしてきたな?」


 「え、ええ………教えられましたが、それが何か?」


 「こんな風貌の私に対して、そういう者の動きをしたからな。

 よく見ている、が、不愉快なので止めろ」


 「分かりました」


 しまったな。粗相(そそう)をしないようにと思っていたら、早速やらかしてしまった。

 しかしマスターが女性だと分かったのは勘とか見た目からではない。

 昔からだが、私は臭いで男か女か判断できるのだ。

 そしてそれを失敗した事は一度も無い。


 ついでに相手が嘘を吐いているかどうかも臭いで分かる。

 こちらは何となくという域を出ないが、それでもこの鼻の御蔭で生き延びてきた部分は大きい。

 今回は失敗したが、だからと言って鼻が失敗した訳でもないのだ。

 なので気にするだけ無駄だし、挽回を考えた方がいいだろう。


 「アッシュ、お前の情報はある程度こちらは得ている。

 そしてそんなお前の実力だからこそ、既にどこに配置するかは決まっているのだ。

 これは諦めろという他ない」


 「は? ……決まっている、ですか? それは「まさか!?」いったい………」


 「巡回狩人をさせる気ですか!? 新人ですよ!?」


 「こいつは思っている以上に優秀だ。

 そもそもデカい図体でフーダ100体を相手にして勝っている以上、並みの戦闘能力ではない。

 既に奴隷闘士を逸脱していると言ってもよいのだ。人員が足りぬ以上は四の五の言っていられん。

 それでも多少の時間はやれる。その間にこの近辺でハンターの仕事を覚えろ」


 「分かりました」


 「いえ、分かりましたって………」


 「お前が口を出すな。そして奴隷闘士であった以上、理不尽は当たり前に合ったはずだ。

 それよりは遥かにマシだし、巡回狩人である以上はこちらもバックアップはする。当然だがな」


 「しかし………」


 「その、口を挟んで申し訳ないのですが、巡回狩人とはなんでしょう?」


 「その名の通り、国の中を巡回してモンヌターを間引く仕事だ。

 普通はそれぞれの場所に定住し、それぞれの地域のモンスターを討伐する知識や技術を得る。

 つまりハンターとは地域のモンスターを狩る専門家だ。

 それとは違い、巡回狩人は常に新しい場所に行ってそれに合わせねばならん」


 「つまり普通のハンターに比べて遥かに厳しいのです。

 何人か巡回狩人は居ますが、そこまで目立った成果は上がっていません。

 場所が変われば戦いの手練手管も変わるからです」


 「見つけて狩るのがいいのか、それとも罠にかけるのがいいのか。

 それぞれの地方によって戦い方は変わる。

 それらを毎回覚えなくてはいけないわけだ。

 だからこそ巡回狩人は不人気で、特に成り手が少ない。

 だがお前は今日なったところだ。それなら巡回狩人として育成できる。

 若さもあるからな」


 「おそらくいっていても30歳、ならオーガでもサイクロプスでも若いとしか言えません。

 とはいえ、いきなりそこまで厳しい所に放り込むのも……」


 「これは決定だ。不服ならハンター協会を辞めてもらうしかない」


 「サポートはしてもらえるんですよね?」


 「できる限りはしよう。それは約束できる」


 「ならば構いません。少なくとも奴隷闘士の時より遥かにマシです」


 「…………すまん、感謝する」


 マスターが私に頭を下げて来たが、それぐらい人員が足りないのだろう。

 ハンター協会も大変なのだな、と思った。


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