01-03-0003
Side:アッシュ
昼食後、彼らが乗ってきたと言う馬車に乗せてもらって移動を開始。
どうやら私が居たのはマドバヌという町で、国の中では相当の田舎になるそうだ。
知らなかったので驚いたが、宿場町に近い町らしい。
交通の便の良くない場所。
そこにある宿場町なので、田舎というか凝り固まってたんじゃないか? とのこと。
そしてコルナーグ氏はあれから全くと言っていいほどに話しかけてはこない。
とはいえ他のメンバーからも距離を置かれているので、本気で絶縁間近といった感じだ。
今は差別とかが無い以上、そういった差別感情に巻き込まれて自分の身も危うくなりたくはない。
そういう事で、他の者達も離れる事にしたんだろう。
私は長い間の奴隷闘士生活で貯めたお金があるので飲み食いは出来るが、出来る限りの節約はしている。
貯めていたとはいえ奴隷がそんなに貰えるはずもなく、この程度の金額ではすぐに使い切ってしまうだろう。
王都に行ったら働いてお金を貯めないといけないな。
それと、武器を買わないと。
どんなボロい武器でもいいが、まずは武器がないとモンスター相手に戦えない。
あの闘技場にあった武器を貰ってくれば良かっただろうか?
様々な武器の手入れや防具の手入れはやらされたので知っている。
なので手入れに問題は無いんだが……肝心の武器が無いので話にならない。
武器もタダじゃないし、体が大きいと武器も大きくなるしで大変だ。
特に私は2メートルを超える剣を振り回していたので、そうそうに合う武器が見つかるとは思えない。
それを考えると、武器が手に入らない可能性もあるな。
どうするか……
…
……
………
実に14日もの時間を掛けて、やっと王都までやってきた。
彼らはこんなに遠くから来ていたのか、通りであの町を田舎と言うはずだ。
そして王都の町並みは素晴らしく、私のような者は圧倒されるしかなかった。
流石は王都だと思う。
馬車の中からそんな王都の町並みを見つつ、馬車はハンター協会にまで来たので停車。
私は馬車から降りた。
そしてコルナーグ氏のチームと共にハンター協会の建物へと入る。
そこは何と言うか、普通の建物と言って差し支えが無かった。
荒くれが多く屯していたり、酒を飲んで暴れている者が居るのを想像していたのだが………。
そんな事はなく、そもそも中には少ない者しか居なかった。
受付であろう場所に居る女性の下へと進み、コルナーグ氏が話しかける。
「オレ達の仕事は終わったんで、清算を頼む」
「分かりました」
木板を受け取り、淡々と処理する受付嬢。
なんだか怖い感じもするが、王都とはこういう場所なのだろうか?
その手続きが終わるのを待っていると、受付嬢が木のお盆の上にお金を置き始めた。
「報酬は小銀貨8枚ですので、御一人2枚ずつです。
お受け取り下さい」
そう言って、一人ずつに小銀貨2枚ずつを置いていく。
どうやら揉めないように一人頭の分しか渡さないようだ。
となると、今までに散々揉めてきた事があるんだろうな。
そういうのを見て来ていれば、受付嬢の態度も分からなくはない。
愛想良くなんて出来ないだろう。
お金を受け取ったコルナーグ氏はさっさと建物を出て行ったが、入り口の扉が閉まった瞬間、私以外の全員が溜息を吐いた。
「ふぅ………で、どうでしたか?」
「駄目だ。
前々からずっと問題になっていたが、今回も治っていなかった。
散々今まで注意してきたんだがな、聞く耳を持たねえ」
「ならば後はマスターがお決めになります。
とはいえ追放措置でしょうが、こればっかりは本人が原因ですからね。
どうにもなりません」
「あいつは闇妖精族だし、それなりには優秀だったんだがな。
どうしても両妖精族のヤツは偏見が酷い。
そもそも複数の神の加護があって何が悪いんだって話なんだが……アレらの対立が原因か」
「光妖精族と闇妖精族は長く対立したままだしな、その所為で【ミックス】を嫌っているヤツが多い。
かつての時代に灰色の髪が居たって聞くから余計にだろうな」
「えっ? ……灰色?」
私は思わず口を挟んでしまった。
私は灰色の髪の者など、どんな神からも見放された者だと聞いていたのだが……。
光と闇の妖精族の間の子は灰色なのか?
「そういえば貴方も灰色ですね?
とはいえ見た目で両妖精族ではないのは分かりますが、となると神の加護はなんでしょう?」
「さあな。
流石に分からんだろうし、こればっかりは【啓示】を受けるしか方法は無いと思うぜ?」
「【啓示】?」
また私の知らない言葉が出て来たな。
頑張って勉強したと思っていたが、私の知らない事はこの世に沢山あったらしい。
それならそれで学べばいいだけだ。
「どんなヤツにだって神様の加護がある。
ただ神様から直接言葉を頂ける【啓示】を受けられる者は多くない。
それでもどの神様からの加護かは【啓示】を受ければ分かるって事よ。
そもそも今までだって【啓示】を受けて来たヤツが居るから、神様の加護が髪の色で分かるって判明したんだぜ?」
なるほど。
髪の色で神様の加護が分かる事そのものが、神様から教えられた事だったのか。
確かに言われてみればそうだ、髪の色で判断が出来るなんて聞かなきゃ分からない。
逆に言えば、神様が仰っておられるなら事実なんだろう。
「とりあえず、貴方が新しくハンターになるアッシュさんですね。
まずは登録しますのでどうぞ」
「あ、はい。分かりました」
私は受付嬢に促されたので前に出るが、先程コルナーグ氏が居た時と全く違う事に驚く。
それぐらいにコルナーグ氏が嫌われていたのだろうが、何故嫌われても態度を改めないのか理解できない。
「まずはこの紙に書いてもらうんですけど、名前などは書けますか?
それとも読む事も無理ですか?」
「いえ、読めますし書けます」
「そうですか。それでは全て書いてください」
私は紙の中に書いてある文字を読み、一つずつ書こうとして止まる。
紙に書いてある事は難しくはなく、単に名前や種族や年齢を書くだけだった。
が、私はその辺りがサッパリなので受付嬢に聞く。
「名前は闘技場で付けられたし、年齢は分からない。
性別は男だと分かっているが、種族が分からないのですが……」
「えっと、それなら分かる分だけ書いておいて下さい。
アッシュさんのように分からないという方もそれなりに居ますので」
「分かりました」
名前はアッシュ。
年齢は、闘技場で22年の契約を務めた。
性別は男。
種族はオーガかサイクロプスだと言われた。
こう書いておけば間違いじゃあるまい。
そもそも私は闘技場以前の記憶が無いのだ、どうしようもない。
「そういやアッシュはいつからあの田舎の闘技場に居たんだ?
お前さんの事を聞いたのは今回の仕事で初めてだったんでな。
流石に22年も闘士をさせられてたっていうんじゃ、ハンターなんて商売してたら名前ぐらいは聞くはずなんだが……」
「申し訳ないが分からない。私は物心ついた時にはあそこに居た。
最初は荷物を運んだりする仕事だったはずだが、その後に闘士にさせられ、その時に22年と決まったんだ」
「はぁ? ……ちょっと待て、契約書は!? 審査官は!?」
「契約書はともかく、審査官というのは知らない。
お前は22年の契約だと言われたのは覚えている」
「クソったれ! 完全に無効の契約じゃねーか!!
まだこんなクソみたいな事をしてる奴らが居るのかよ!!」
どういう事だ?
「アッシュさんは分かっておられないようですが、国の審査官が確認した契約でない限りは無効なのです。
貴方が審査官を知らないという事は、そこの闘技場の者は審査官を通さずに貴方を奴隷闘士にしたということ。
それは王国法に違反しています」
なるほど、だから何としても私を殺したかったんだな。
今やっと分かった。




