01-02-0002
Side:アッシュ
私は立ったままだったし、いつでもこいつらに対抗できるようにしていた。
そしていざ殺し合いが始まる、となった瞬間に、別の場所から声が聞こえたので止まる。
「おいおい。
これじゃ契約違反って事で、お前達が殺されっちまうぜ?」
「誰だ!?」
慌てて護衛が声が聞こえて来た方に向くも、そこは部屋の隅であり誰かが立っていた。
私も多少は気配を知る術をモンスターから学んだが、部屋の隅で立っている男の隠形は格が違っている。
「オレか? オレはハンター協会から来たハバンだ。
それより、お前ら国の機関であるハンター協会が受け取る元奴隷に何をしようとしてた?
まさか殺そうとしてたんじゃあ、ないよな?」
「そ、そんな事はしていないわ……」
「そうだよなぁ。
もしそんな事になってたら……こんな木っ端な闘技場、あっさりと潰されるだろうさ。
そんな事すら分かってねえわけじゃねえだろうが、じゃあさっきのは何だったんだろうなー。
オレには報告の義務があるんだが……」
そう男が言った瞬間、仮面のオーナーが護衛に目配せする。
すると護衛が近くの引き出しから布袋を取り出し、そして男に渡した。
ジャラジャラ音が鳴っているから貨幣が入っているんだろう。
「ふんふん、なるほど。
分かった、コレは証拠として預かっておいてやる。
ハンター協会の者を買収しようとしたんだからなぁ」
「なっ!?」
「これっぽっちで買収できるとか、これだから田舎者は困るぜ。
そしてチャンスは一度きりだ。
コイツだって何十年もの間、そのチャンスを掴み続けたんだ。
お前らがそのチャンスを掴み損ねたのなら、それはお前らが悪い。
そうだろ?」
「「「………」」」
三人の殺意が更に膨れ上がったが、私に対してじゃない。
流石にハンター協会の男が殺されると困る。
こいつらを叩き潰すには……
「ああ、そこの元奴隷闘士は動かなくていい。
この程度のザコが調子に乗っても勝てないって事を証明してやる」
ドドドッ!!!
三度音が鳴った瞬間、殺意を漲らせていた三人が倒れた。
一瞬の早業で全く分からなかったが、どうやら私など足元にも及ばないくらいに強いようだ。
御蔭で助かったとも言えるが、自分で勝ったわけでは無いのがなんとも言えない。
「申し訳ありません。助かりました」
「構わねえさ、元々コレがオレの仕事だ。
この闘技場は国から目をつけられてたんだよ、奴隷を殺し過ぎるってな。
この世にゃ山ほどモンスターがいるうえ、手が全く足りてねえ。
にも関わらず無駄に殺すなんてのは阿呆のする事なんだよ。
つまり……」
「私の契約明けは都合が良かったと?」
「そうなんだが………そのむずがゆい喋り方、何とかならねえか?」
「申し訳ない、私はこのような喋り方しか教えてもらっていない」
「ああ………そういう事か。本当にコイツら碌な事をしねえな。
まあいい。宿に待たせている連中が居るんでな、後はそいつらに聞け。
オレはお前さんじゃなく、コイツらを叩き潰すのが仕事なんでな」
「分かりました。それで宿の方とは?」
「ああ、すまん、すまん。
宿に居るのはコルナーグがリーダーのチームだ。ハバンから宿に行けと言われたって言えばいい。
あいつらなら、その後はしっかりとしてくれる。信用できる連中なんでな」
「分かりました」
私はハバン殿の前を一礼してから去る。
何故か苦笑いされたが、あれはなんだったのだろうか?
首を傾げながらも闘技場から外へと出ると、私は町の宿へと行く。
先程ハバン殿は田舎と言われたが、私は町だとしか知らない。
なのでここが田舎かどうかも分かっていないのだ。
とにかく分からないままに宿の場所へといく。
そして宿の者に聞いたのだが、普通のハンターがこんな宿に来るわけがないだろうと叱られた。
そんな事を言われても、私が知っているのは男か女を連れ込む宿だ。
それ以外の宿を知らないので、仕方なく町の人に聞いて移動する。
すると立派な宿があったので、ここがハンターが泊まっている場所らしい。
私は店の者にハバン殿から聞いたコルナーグという人が泊まっているかと聞く。
すると、1階で食事中との事で食堂で食べている者達に話しかける。
一人は筋骨隆々なオーガ族、横の一人は器用が取り柄の人間族、もう一人は魔法が得意な魔人族、そして最後の一人が闇妖精族だ。
「申し訳ない、この中にコルナーグという方はおられるだろうか?」
私がそう言うと、こちらを胡乱気な顔で見て来る闇妖精族の男性。
もしや、この人物がコルナーグなのか?
「オレがコルナーグだが………テメェがアッシュとかいう奴隷か」
「私は現在元奴隷であって、今もって奴隷ではない。
それは国家が保証している」
「チッ! いちいち混ざりもんが講釈垂れるんじゃねえよ」
「おい止めとけ、コルナーグ。
んな事を言ってるとマスターの耳に入るぞ。
今度こそ殺されても知らねえからな」
「分かってるっての!
それより混ざりもんが辛気臭えツラ出してんじゃねえよ。
メシ食い終わるまで引っ込んでろ」
「お前な、コイツがマスターに言ったら終わりだぞ? それを分かってるのか?
悪いがオレ達はもう庇わねーし、お前だけが辞めろ」
「おいおい、仲間じゃねーのかよ!」
「だったらその口を閉じろ。ウゼーんだよ」
「そうそう、オレ達にまでとばっちりくっから黙ってろ。
いや、もういい、好きなだけ喋れ。
オレはもうテメーとは絶対に組まねえ」
「オレも抜けさせてもらうわ。
コイツの尻拭いなんてもうウンザリだからな」
なんだか急に内輪揉めが始まったが、どうすればいんだろうな?
そもそも髪色なぞ変えられないのだからして、どうにもならないのだが……
「クソが!! 混ざりもんに絡むと碌な事がねえ!!」
「全部テメーの所為だろうが!
いちいち誰かの所為にして逃げてんじゃねーよ。根性無しが!」
「んだと、テメェ!!」
ドゴッ!!
突然オーガの人が闇妖精族をブン殴り、そして気絶させた。
そして私の方に向かって喋りかける。
「すまんな、コイツは特筆して【ミックス】に対して差別感情を持っている。
我々はそこまでの差別感情など持っていない」
「そうなんですか?
今まで灰色の髪というだけで、もっと酷い事を言われてきたので、今のような言葉は大した事が無いのですが……」
「「「………」」」
三人が一斉に何とも言えない顔をしたが、もしかして混ざっている髪というのは差別されて当たり前ではないのか?
「もしかしたら勘違いしてるのかもしれねえが、昔じゃねーんだから、今の時代に髪色の差別なんてねーぜ?
……もしかしてこの田舎町の奴らは当たり前に差別してたのか?」
「え、ええ………普通でしたけど」
私がそう言うと、店番の者が気まずそうに顔を逸らした。
どうやら私が知らないのをいい事に、鬱憤晴らしに使っていたらしい。
「コルナーグもそうだが、碌なもんじゃねーな、まったく。
髪色で差別するなんて何百年前の話だよ。
この田舎は田舎らしく時が止まってんのか?」
「流石に呆れてくるぜ、頭の悪さによう。
それもマスターに上げとく情報だな。
この町にもハンター協会はあるはずなのに、何をやってやがんだか」
「マスターの怒りを喰いたいんだから、好きにさせりゃいい。
田舎のバカどもは知らねーんだろうよ。
マスターの怒りがシャレにならねえのをよ」
「そもそもマスターもミックスだ。
紫の髪色で、炎と水の神の加護を強く受けている」
「マジギレしたマスターが村一つ燃やし尽くしたのを知らないんだろうが、頭が悪すぎるぜ」
どうやらとんでもない者が、ハンター協会のトップをやっているらしい。




