01-01-0001
Side:アッシュ
「死ねぇぇぇぇぇっ!!!」
「テメーはここで死んで儲けになれや!!!」
「さっさと闘技場から消え失せろ、奴隷が!!!」
私に賭けないから負けるんだろうに、なぜ私がお前らの鬱憤晴らしの為に負けなきゃならないんだ?
相変わらずだが、ここに来る奴らは碌なのが居ないな。
今日はようやく自由になれる日だというのにこれか。
ま、私らしいとも言えるのかもしれないな。
モンスターの前に立って剣を持って構える。
奴隷として闘技場に連れて来られ、ひたすらに剣を振ってきた。
自分がどこの誰だかなんて知らないし興味も無い。
分かるのは体が大きいので、オーガかサイクロプスの血を引いてるんだろうというぐらいだ。
それに股間もデカイんで、臭い女に買われたのも一度や二度じゃない。
そいつらもモノの大きさを見て、私にオーガかサイクロプスの血が混じってると言っていた。
まあ、私自身が何者かなんてどうでもいい。
闘技場に来て実に22年。やっと私の契約が終わる。
ここまでどれだけのモンスターを殺してきたか分からないが、今回のヤツはとびっきりだ。
私が最も嫌う小さくて素早い敵であり、確実に私を殺そうとしてきているのが分かる。
最後の最後に解放せずに殺して終わらせる。
実に奴隷闘技場らしくて悪辣だ。
剣を握って気合を入れる。
息を吸い込んで全身に“力”を行き渡らせていく。
そうする事によって私の肌は真っ赤になるが、それもあって私の二つ名はレッドオーガとなった。
その事にどうこうという気持ちは無い。そもそもが、どうでもいいからだ。
もう一度深く呼吸をする。
私を拾ったのはここの闘技場の奴らだが、連中の思い通りに死んでやる義理は無い。
だからこそ目の前のフーダを見る。
四つ足ながら体は小さく、にも関わらず鋭い爪に風を纏わせて切り刻んでくるというモンスター。
「では奴隷闘士アッシュとフーダ100体との戦闘を開始する!
自由を手にするか死ぬか。お前にはどちらかしかない!!」
フーダを100体も連れてきておいて、何が自由を手にするだ。
私を殺す気しかないだろうが。
……しかし残念だったな、私はお前達も知らない方法を編み出している。
わざわざ自分の弱点をいつまでも放置している私じゃない。
今まで見せていないのはワザとだ!!
私はいつも使っている、幅が広くて2メートルを超える剣を担ぐ。
切れ味など大してなく鈍器に等しい剣だ。
しかしこんな物でも敵が殺せればどうでもいい。
だからこそ私は振るうのだ、豪快に派手に直撃させる為。
ドゴォ!!
こちらに走って来ていた先頭のフーダの集団に、右から左へと剣を振り抜く。
ブチ当てればいいだけなので気楽だ。
その一撃で7体ぐらい吹っ飛んだが、私はいちいち見たりなどしない。
そのすぐ後ろからフーダがやって来て、私に風を纏った爪を振り抜く。
しかし私は呼吸から全身に行き渡らせた力を肌に巡らせ、フーダの風に対抗する。
前にもフーダと戦わされた事があるが、こいつらの風は行き渡らせた力で緩和できた。
つまり、行き渡らせている力で対抗できるというわけだ。
それが奴らにも教えていない事になる。
私は力で風を弾くと、更に前に踏み込み左から右へと剣を振り抜く。
再び7体ほどのフーダが吹き飛ぶが、そんな些事になど構わない。
まだまだ振れば当たる奴らが沢山居る。
私は風に対して力を行き渡らせて対抗し、そしてその力を剣を振るう際には腕に篭める。
そうする事で敵を素早く吹き飛ばしていき、気づいた時には起き上がるフーダは居なくなっていた。
それでも剣を構えてどこから敵が来るかと待っていたのだが、その後も起き上がってくるフーダは居なかった。
どうやらこれで完全に全滅のようだ。
「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」」」」」」」」
「よくやったぞ、アッシュ!! テメーの御蔭で大儲けだ!!」
「死ねぇぇぇぇ!! このクサレ奴隷が!!!」
「さっさと死んでおけ、このカス!!!」
「よくっやったぞ!! お前の御蔭で借金から脱出だーー!!!」
「テメーはここで死ぬべきなんだよ!! さっさと死ねぇぇぇぇ!!」
死ねも何も戦いはもう終わりだ。
これで私の奴隷闘士契約も終わり、晴れて自由の身になる。
契約は国とのものであり絶対である以上、私は間違いなく解放される。
そもそも解放後の仕事は、一番解放される可能性が高いハンターを選んでいるんだ。
元奴隷や奴隷闘士が選べる仕事なんて多くないし、どれも厳しくてキツいものばかり。
それでもその中で一番夢のあるというか、金持ちになれる可能性が高いのがハンターとなる。
モンスターを狩って素材を手に入れ、それを売って生計を立てるという商売。
少なくともこの22年、文字を覚えたり計算を覚えたりと頑張ってきた。
全ては外に出る為であり、出た後の生活の為だ。
この灰色の髪では目立ちすぎるし、一目で奴隷闘士のアッシュだとバレてしまう。
この世で黒かそれに近い髪は闇の神の眷属と言われるが、私はそれも含めて嫌われていた。
闇の神が嫌われている訳ではなく、ハッキリと黒い訳ではないからだ。
灰色という事は別の神が混じるわけで、だからこそ私の髪色は嫌われている。
赤なら炎の神、青なら水の神となっているこの世において、私は混じり物とも言えるからだ。
灰の神などおられぬのだから、混じり物と言われるのも分かる。
ジャァァァァァァン!!!!
そんな事を考えていたら、試合終了の銅鑼が鳴らされた。
どうやらようやく試合が終わったらしいが、それでも私は警戒を解かない。
奴隷闘士が契約を終えて出る時には気を付けなければいけない。
闘技場は儲けの為に闘士を殺す事がよくあるからだ。
ここまで来て殺されてはかなわないので、慎重に辺りを探りながら私は控室に戻る。
剣を係員に返し、それも相手の一挙手一投足を見ながら警戒。
そしていつも通りの牢獄のような部屋へ。
呼ばれるのを待つしかないが、間違いなく今日で契約明けのはずだ。
周りを警戒していても疲れるが、それでも警戒しなければ駄目だ。
ここで殺されたら何の為に苦労してきたか分からない。
「おい、灰! 主様がお呼びだ、出て来い」
その言葉に無言で頷きつつ、私は牢獄のような部屋を出た。
実際に部屋とは言えず、鍵が掛かってないだけの牢屋。
それが奴隷闘士に与えられる部屋だ。
先導する者の後ろについて歩き、そして闘技場の主の部屋の前まで来た。
二度だけ会った事があるが、仮面をしている怪しい人物だったのを覚えている。
それも妙な香を焚いている危険な部屋だ。心して入らないとな。
コンコン
「灰を連れてきました」
「入りなさい」
「失礼します」
そう言って先導役の男が扉を開けると、部屋の中は妙な甘ったるい香が焚かれていた。
私はすぐに呼吸から細く“力”を取り込んで行き渡らせ、肌が赤くならない程度に身を守る。
この甘ったるい香には嫌な予感がしたからだ。
「さて………奴隷闘士アッシュ、貴方の契約任期はこれで空けました。
で、望みはどこだったかしら?」
「ハンターです」
「………望みは再びここで働く事ではなかったかしら?」
「ハンターです」
「………本当に?」
「ハンターです」
私に香が効いていないと分かったのだろう、仮面を着けている女の目が鋭くなった。
しかし私にとって知った事では無い。このチャンスで絶対に外に出るのだ。
誰が好き好んで奴隷闘士などやるものか。
そもそも私はここに連れて来られる前の記憶が無い。
だからこそ本当に奴隷だったかどうかすら定かではないのだ。
「最後にもう一度だけ聞くわ、貴方の契約明けの望みは?」
「ハンターです」
「「「………」」」
部屋の中にいる仮面の女、護衛、先導役の男。
三人の殺意が膨れ上がった。
どうやら私を殺す気らしいが、ただで死んでやるほど私の外への執着は安くないぞ。




