02-19-0037
Side:アッシュ
宿の部屋で魔力を認識する練習をしているものの上手くいかず、夕方になったので酒場へ。
そして注文をしてお金を払い待っていると、2階から鉄級のチームと女性陣が下りて来た。
今日はガーンドが酒場で寝てないのに下りて来たのか?
「アッシュはもう来てたのかい? 早いんだね」
「宿の部屋で魔力の練習をしていただけなので、夕方になったのにはすぐに気づきましたしね。
それよりガーンドが居ないんですが、いいんですか?」
「ガーンドなら村に残りたいって言ってた女性の一人と家に行ったよ。
家って言ってもオレ達が借りている家だけどな。
今日一緒に戦ってる時にガーンドが助けてやってたのさ、それでだよ」
「命を助けられたなら、そういう事もあるとは聞く。
私はよく分からないが、そういう姿をあえて見せてアピールする者もいるのだろう?
ガーンドがそうかは知らないが」
「ガーンドはそういうタイプじゃないな。
今日もいつも通りに助けただけだろう。
とはいえ女性側がどう感じるかはそれぞれだし、今日たまたまそういう気分になった可能性もある」
「そうねえ。
同じ事があっても惹かれる日があれば、何とも思わない日もあるわ。
女心なんてそんなものよ」
「それを引き付けなきゃいけないのだから、大変だなぁ」
「なんでアッシュは他人事みたいに言うんだ?
お前だって将来の事は考えなきゃいけないだろうに。
ずっと独り身というのはどうかと思うぞ?」
「そうなのだろうが「お待たせしましたー」わた、っと、食事が来たか。
私はお先に頂くよ」
そう言って食べ始めたのだが、なんだかまだ言いたそうだったな。
とはいえ私の将来にそんなイメージは持てないし、そもそも一人でいいという思いしかない。
臭い女の相手はもうしなくてもいいのだが、女性の相手というのは今は考えられないな。
やっと解放されたのだから、当分の間は一人でいい。
そもそも種族が分からないので寿命も分からないが、そう簡単には死なないだろう。
人間ではないみたいだし、それならまだまだ余裕はあるはずだ。
それに私は巡回狩人であって定住狩人ではない。
身を固めるとかいう事は考えられないし、考える必要も無い。
仮に考えたとしても、それは巡回狩人に十分慣れてからだろう。
幾らなんでも早すぎる。
夕食の終わった私は宿の部屋へと戻り、練習をしてから寝た。
やはりそう簡単には認識できないようだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
次の日。
私は再び支部長と共にドーヴァルの巣へと行くと、そこが騒がしい事に気づいた。
何かと思い慎重に確認してみると………
「た、たすけギャァァァァァァッ!??!!」
「ゲヒヒヒッ!」
「ウギャァァァァァッ!!?!」
「グヒヒヒヒヒッ!!」
「ヒィッ! アギャァァァァァァァァッ!!??!」
「ギヒィッ♪」
目の前には男達3人がケツを掘られながら噛みつかれている光景が見えている。
しかしながら私も支部長も動かない。
何故なら助ける事は出来ないからであり、間違いなく彼らの自業自得だからだ。
おそらくは朝早く出発する事で他の人の目を掻い潜り、自分達も儲けられると思ったのだろう。
しかし彼らの実力ではどう考えても無理だ。
木級のうえに大した事のない腕では、殺してくれと言っているに等しい。
それに大きなドーヴァル、つまり統率者も居るのだ。
200以上のドーヴァルに統率者、どう足掻いても手を出してはいけない相手となる。
私達は彼らを無視し、そっとその場から離れた。
そしてある程度離れた後で、私と支部長は一気に安堵の息を吐く。
「彼らが犠牲になったのは自業自得、ですが最悪の状況にはなっていません。
彼らが食われた程度なら、まだ十分に山狼とぶつけるチャンスはある」
「ええ。
彼らには申し訳ないけど、勝手な事をしたのだから諦めてもらうしかないですね。
一歩間違えば村の全員を危険に晒していたのですから、彼らがあんな目に遭うのは自分達の所為でしかありません。
そもそも抜け駆けは自己責任と決まっています」
「あれはそのままにしておくとして、それよりも山狼の方へと行ってみましょう」
私は支部長と共に左の山へと行ったのだが、そこには変わらず山狼が居た。
何故か血のにおいを辿る山狼は居なかったようで、その理由がイマイチ分からない。
昨日血のにおいを追いかけていた山狼が居たというのに、何故かドーヴァルの巣までは攻め入っていないようだ。
山狼もドーヴァルが群れなのを分かっていて攻めない?
それとも何かほかに理由があって攻められないのかもしれないな。
何度もやっているにも関わらず攻めないのだから、おそらくなにかあるのだろう。
むしろドーヴァルを攻めさせた方が上手くいくかも……
「どうでしょうか? とりあえずは今日も昨日と同じようにやってみましょう。
少なくともドーヴァルの睾丸は確保してきましたし、これで人間側の仕業とはならないでしょう」
私と支部長は山狼を探し、始末しては昨日と同じ道から血を撒く。
手前の森の中にも血を撒き、十分に血のにおいを感じるようになれば、次に右の山にまで進むように撒いていく。
途中で血が出なくなった山狼を捨てて戻ると、地面の血をスライムが吸収していた。
こいつが原因か!
「どうやらスライムの所為でこうなっていたようですね。
【風打突】。よし、しかしスライムは倒せましたが、ここにどれだけ居るのかは分かりませんね。
全て駆除出来れば一番いいのですが、スライムが痕跡を消してしまうとなると難しいですか」
「スライムの嫌う物というのは無いのですか?」
「他の者の気配でしょうか?
スライムは強力なモンスターではありますが、同時に臆病でもあります。
好戦的ではなく、むしろ様々な物を分解や吸収をしているだけのようですね。
実際に何度かそういう姿を目撃した事はあります」
「ゴミなどを分解してくれるのは良いですけど、罠に掛けたい時には困りますね。
っと、そういえば山鹿を全く見ていないという話を村のご老人としたのですが……」
「そういえば最近、まったくと言っていいほどに山鹿が売り出されていないようです。
スライムの事とも関係しているのでしょうか?
こんな浅い所にスライムが出てきているのも久しぶりな気がしますしね」
「とりあえずスライムが居ない今の内に山狼を探しましょう」
そう言って探し、見つけた私達は山狼を狩ると、すぐに持って移動して先程の地点へ。
そして首を切って血を流させると、再び右の山へと進んで行く。
またもや血が無くなったので山狼の死体をその場に置くと、1頭が血の臭いを辿ってやってきた。
私はそいつをブン殴って瀕死にし、首を切っては血を流して道を伸ばしていく。
すでに右の山の森に入ったが、なるべくドーヴァルの巣に近づくように血を落としていく。
無事に落とせたら、血が出なくなった山狼を下ろして私達は村へと戻る。
流石にそろそろ山狼とドーヴァルはぶつかってほしいが、簡単にはいかないのもまた事実だ。
どうにも上手くいかないが、スライムを排除したのでまた変わるだろうか? できるならば成功してほしい。
そんな事を思いつつも宿へと行き、体を洗うのと洗濯を終えたら濡れた服を着こむ。
すぐに宿の部屋へと戻れないので散歩を兼ねて歩き回ろう。
途中で子供達と遊んだものの、昼になったので昼食を食べに酒場へと行く。
食事をとったら宿へ戻り、昨日と同じく魔力の認識の練習を行っていく。
とはいえ、何かに掠りもしないままに夕食の時間となった。
まさかここまで何も掴めないとは思わず、ちょっと焦りが出て来てると思う。
ここは一旦冷静になって、食事の後でゆっくりと試していこう。
こういう時に焦ると、駄目な状態が長く続く。
かつての私もそうだったから苦労したのだ。
あの苦労は2度と味わいたくない。




